日本臨床免疫学会会誌
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29 巻, 2 号
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総説 特集:自己抗体の産生機序とその病原性
  • 松井 利浩
    2006 年29 巻2 号 p. 49-56
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/30
    ジャーナル フリー
      リウマトイド因子(rheumatoid factor : RF)は,関節リウマチ(RA)において最も盛んに研究されてきた自己抗体であり,アメリカリウマチ学会の1987年改訂RA分類基準の中の一項目に挙げられている唯一の血清マーカーである.RFはRA患者の約80%に検出されるものの,他の疾患でも少なからず検出され,その特異度は決して高くはない.ここ数年,RAに特異度も感度も高い新たなるマーカーとして,抗環状シトルリン化ペプチド(CCP)抗体が注目を集めているが,RAの診断のみならず関節破壊予後予測因子としての有用性も報告されている.今回の総説では,特にこの抗CCP抗体に注目し,RAにおける抗CCP抗体の臨床における有用性,RAにおけるタンパクのシトルリン化とそれに対する自己抗体の産生機序および病因性について,最近の知見を含めて述べさせていただく.
  • 藤井 隆夫
    2006 年29 巻2 号 p. 57-64
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/30
    ジャーナル フリー
      抗核抗体の検出は,膠原病の診断,活動性あるいは予後評価をする上できわめて重要である.その産生にはB細胞のみならず自己反応性T細胞が重要で,それらのcognate interactionに関与する共刺激分子の調節により抗核抗体産生を制御できることが動物モデルで示されている.また特定の遺伝子をノックアウトすることで一部の抗核抗体の産生抑制が可能で,生体内における抗核抗体の病因的意義も示されてきた.しかしながらヒト全身性エリテマトーデスにおける数多くの抗核抗体の病因的意義はいまだ明確とはいえない.既存の治療法をこえる強力な病態制御には,疾患標識抗核抗体の産生に関与する分子を特異的なターゲットとし,抗核抗体のみならず自己反応性T細胞やB細胞などを含めた包括的な制御がより効果的であると考えられる.
  • 平林 泰彦
    2006 年29 巻2 号 p. 65-72
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/30
    ジャーナル フリー
      全身性エリテマトーデスに特徴的な抗DNA抗体はループス腎炎の病態形成に重要であるがその産生機序は不明である.DNA自体の免疫原性は低いが,あるペプチドをマウスに免疫すると抗DNA抗体が誘導される事より,抗DNA抗体産生を惹起する抗原はDNAと立体的相同性を有する非DNA抗原ではないかと推測した.そこで活動期ループス腎炎患者由来のモノクロナル抗DNA抗体O-81をプローブとして探索した結果,小胞体ストレス応答性蛋白Herpを得た.BALB/cマウスにHerpを免疫すると抗核抗体や抗DNA抗体が誘導された.また,SLE患者血清から精製した抗DNA抗体はHerpに結合した.もしHerpが抗原として認識されるのであれば,細胞ストレスが加わるたびに産生されたHerpがDNAとの立体的相同性を介して抗DNA抗体産生を誘導するかもしれない.EBウイルス形質転換細胞株ではHerpが強く発現しており,in vivoでHerpの産生が誘導される一つのモデルになると考えられた.さらにこの事はウイルス感染をはじめとする様々な細胞ストレスの反復が自己抗体産生を惹起する可能性をも示唆している.
  • 佐藤 伸一
    2006 年29 巻2 号 p. 73-84
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/30
    ジャーナル フリー
      全身性強皮症(systemic sclerosis ; SSc)では自己抗体の病原性は不明である.CD19はB細胞抗原受容体からのシグナルを増強させ,CD19の過剰発現によって自己抗体産生が誘導される.SSc由来B細胞上ではCD19の発現量は20%増加していた.さらに,SScの動物モデルであるtight-skin (TSK)マウス由来B細胞では,CD19を介するシグナルの増強が認められた.TSKマウスではCD19を欠損させると自己抗体の産生が抑制され,皮膚硬化も減弱し,さらにB細胞からのIL-6産生も抑制された.以上より,自己免疫と皮膚硬化との関連性を説明するモデルを提唱したい.SSc由来B細胞ではCD19発現量が増加していた.その結果,これらのB細胞では末梢トレランスが壊れ,自己抗体の産生を来したものと考えられた.一方,CD19シグナルの増強によってB細胞が慢性的に活性化した結果,B細胞からIL-6をはじめとするサイトカインが産生され,これらが皮膚硬化を惹起すると考えられた.このモデルでは持続的に活性化したB細胞を共通の原因として想定することによって,自己抗体産生と皮膚硬化の誘導を関連づけている.さらに,このモデルはCD19やB細胞がSScの治療の標的となりうる可能性を示している.
  • 佐藤 慎二
    2006 年29 巻2 号 p. 85-93
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/30
    ジャーナル フリー
      膠原病患者血清中には,これまで多彩な自己細胞成分中に対する抗体が見出され,その自己抗体のいくつかは,特定の臨床症状と密接に関連し,病型分類,治療法の選択,予後の推定などに有用である.多発性筋炎/皮膚筋炎(Polymyositis/Dermatomyositis : PM/DM)は,筋力低下を主症状とする慢性炎症性疾患で,多彩な臨床症状,臨床経過,予後を呈する.PM/DM患者血清中においても特異的な自己抗体が見出され,特定の臨床像との関連が明らかになっている.これら自己抗体の産生機序は不明であるが,自己抗原とそれを認識する自己反応性T細胞およびB細胞との協調作用などが想定されている.
      これまで,筋炎特異自己抗体として,抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体,抗Signal recognition particle (SRP)抗体,抗Mi-2抗体が報告されているが,近年,当教室では,PM/DMのサブタイプである臨床的に筋炎症状のないDM (Clinically amyopathic DM : C-ADM)患者血清中に,約140 kDa蛋白を認識する自己抗体を見出した(抗CADM-140抗体).抗CADM-140抗体は,DM42例中8例(19%)に認め,全例C-ADM症例であった.抗CADM-140抗体陽性DM例は陰性DM例と比較して,急速進行性間質性肺炎と密接に関連していた(50% vs. 6%, P=0.008).
      新たな筋炎特異自己抗体の追究は,PM/DMの早期診断・治療法の選択に有用で予後の改善につながるものと期待され,その産生機序の追究は,PM/DMに併発する急速進行性間質性肺炎の病態解明に重要と考えられる.
  • 鈴木 和男
    2006 年29 巻2 号 p. 94-101
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/30
    ジャーナル フリー
      好中球ライソゾーム殺菌酵素Myeloperpxidase (MPO)は,自己抗体MPO-ANCAの抗原となり,血管炎の発症に関与している.その抗原性は,MPO欠損マウスにより明らかにした.また,MPO-ANCAのエピトープの解析から,MPOのH鎖のNおよびC末端に反応するエピトープが,血管炎の重症化と関連していることが判明した.MPOは,本来,好中球に存在する強力な殺菌物質OCLを産生する酵素で,欠損マウスの解析からCandida alibcansなど抗真菌作用として働き,殺細菌・殺真菌の生体防御に関与することを明らかにした.ところで,治療法開発や発症機構解明に,病態モデルが必須であり,MPO-ANCAを産生する急性進行性腎炎である自然発症病態モデルSCG/Kjマウスを用い,好中球の活性化が血管炎発症に関わっていることを明らかにした.また,C. albicansの膜成分(CADS)やwater soluble glycoprotein (CAWS)によって誘導するMPO-ANCA関連の冠状動脈炎マウスを用いて,その病態を解析した.
症例報告
  • 香月 有美子, 鈴木 重明, 高橋 勇人, 佐藤 隆司, 野川 茂, 田中 耕太郎, 鈴木 則宏, 桑名 正隆
    2006 年29 巻2 号 p. 102-106
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/04/30
    ジャーナル フリー
      Good症候群は胸腺腫に低γグロブリン血症を合併し,多彩な免疫不全状態を呈するまれな疾患である.我々はGood症候群に重症筋無力症(MG)を同時期に合併した症例を経験し,その免疫機能に関して評価した.症例は58才男性.四肢筋力低下,易疲労感のため受診し,抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体陽性,胸腺腫からMGと診断.末梢血リンパ球数は正常であったが,著明な低γグロブリン血症(IgG 283 mg/dl, IgA 17 mg/dl, IgM 1 mg/dl)を認めた.拡大胸腺摘出術,副腎皮質ステロイド投与によりMGは寛解を維持しが,免疫グロブリンの定期的な補充にもかかわらず,呼吸器感染症やカンジダ症を繰り返した.経過中,副腎腫瘍,膵頭部癌と肝転移巣が判明し,細菌性肺炎により死亡した.免疫学的検討では,末梢血中のCD19+ B細胞が欠損していたが,各種マイトジェンに対するリンパ球増殖能は保たれていた.リコンビナントAChR蛋白により誘導されるT細胞増殖反応は低い抗原濃度でも観察され,MG患者に特徴的なパターンを示した.B細胞と結合する自己抗体を検出したが,本例では検出されなかった.Good症候群では免疫不全や自己免疫を含む多彩な免疫異常を呈することが示された.
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