抗血管内皮細胞抗体の役割は血管炎で報告されてきた.抗血管内皮細胞抗体または血管を障害する一つの因子である.妊娠中毒症における抗血管内皮細胞抗体の役割を検索するために,抗血管内皮細胞抗体陽性例と臨床所見の関係,抗血管内皮細胞抗体陽性血清の培養血管内皮細胞に対する細胞障害性を検討した.
(方法) 57例の妊娠中毒症,うち37例は重症型と46例の正常妊娠を対象とした.抗血管内皮細胞抗体は臍帯静脈血管内皮細胞を用いたELISA法によった.血清の培養血管内皮細胞に対する細胞障害性は
51Cr releaseassayを用いて測定した.
(結果)妊娠中毒症ではIgG型およびIgM型抗血管内皮細胞抗体は,それぞれ26.3%, 10.5%に陽性であった.抗血管内皮細胞抗体の出現率は,軽症型の20%に比し,重症型で29.7%と,重症型で高率に出現した.さらに症状の重症度でみると200mg/d
l以上の重症型の蛋白尿で抗血管内皮細胞抗体の出現率が有意に高かった(p<0.04).重症型の高血圧や子宮内胎児発育遅延を有する症例では抗血管内皮細胞抗体の出現率が高値を示す傾向にあったが有意ではなかった.抗血管内皮細胞抗体陽性血清は陰性血清に比し有意に培養血管内皮細胞に対する細胞障害性が増加していた.
(結論)妊娠中毒症において抗血管内皮細胞抗体の出現は蛋白尿の重症度に関連しており,さらに抗血管内皮細胞抗体は妊娠中毒症における血管内皮障害に関与している可能性がある.
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