日本臨床免疫学会会誌
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29 巻, 5 号
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総説 特集:From bedside to Bench―臨床が基礎医学・生物学に与えたインパクト―
  • 西本 憲弘
    2006 年29 巻5 号 p. 289-294
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/31
    ジャーナル フリー
      近年の免疫学は遺伝子工学や発生工学的手法を取り入れ,免疫システムの精巧なメカニズムを分子レベルで明らかにした.さらにゲノム情報を利用した疾患関連遺伝子の検索や病態解析が盛んに行われ,免疫疾患の病因遺伝子も同定されるようになった.今や,免疫学研究は臨床応用へと移り,自己免疫疾患の治療においても,モノクローナル抗体などの生物製剤を用いて特定の標的分子の機能のみを制御する分子標的治療法が可能になりつつある.しかし,多くの免疫難病の根本的な原因は未だ明らかではなく,解決すべき課題は多い.
      Interleukin-6 (IL-6)は,免疫・炎症反応,細胞の増殖・分化にかかわる細胞間情報伝達分子であり,IL-6の過剰は,キャッスルマン病や関節リウマチの病態形成にかかわっている.ヒト化抗IL-6受容体抗体,トシリズマブによるIL-6阻害は,これらの疾患の病態に基づいた新しい治療法となることがトランスレーショナルリサーチの中で明らかになった.同時にIL-6阻害治療のメカニズムを探ることで新たな治療のターゲットも見つかる可能性がある.
  • 渡辺 守
    2006 年29 巻5 号 p. 295-302
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/31
    ジャーナル フリー
    消化器関連領域の臨床医にしか持ち得ない臨床情報に基づいた研究課題を抽出し,臨床材料を用いて研究を展開し,臨床の現場に還元することを目的とした,我々が提唱する概念である「クリニカル・サイエンス」が,いかにこれまでの基礎医学にインパクトを与えたかを我々の実例を挙げて議論した.我々は潰瘍性大腸炎患者の中で胸部X線上,胸腺が肥大している患者が見つかったという臨床情報より,患者の血清中にIL-7を証明した.更に,大腸内視鏡にて得た臨床材料を用いることにより,IL-7が腸管上皮細胞から分泌され,周囲のIL-7受容体を持ったリンパ球の増殖を調節していることを初めて示した.その研究の過程で,IL-7受容体が腸上皮細胞にも発現することを見出し,腸管上皮細胞の傷害時には骨髄由来細胞が入ってきて再生過程をレスキューする可能性を発見した.更に,ヒト骨髄由来腸上皮細胞が再生時に分化の方向が変化して,分泌型腸上皮細胞に変化すること,IL-7の産生機構の解析にて分泌型上皮細胞からのIL-7が極めて特殊な分泌機構になっていることを見出した.最近の腸管免疫,炎症性腸疾患に関する研究の発展は基礎医学と臨床医学を両輪とし,病態解明とそれに基づく疾患治療法の開発が完全に併走した極めて特殊な形態で進んでいる.臨床研究者が大きなアドバンテージを持って研究に参加可能な領域であり,事実,臨床研究者の貢献は非常に大きいことを強調したい.
  • 宗像 靖彦
    2006 年29 巻5 号 p. 303-310
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/31
    ジャーナル フリー
      関節リウマチ(RA)は多様性に富む疾患であるが,臨床現場で感じる疑問を研究室で解明し治療法に結び付けてゆくことで,多様なRA病態に対して適切な治療提供が可能となる.我々は,これまでにパルボウイルスB19 (B19)感染症例がRAへと進展していった例を数多く観察し,B19感染とRAとの関連を追及してきた.B19は持続感染様式を取り,この際の感染標的は免疫細胞である.免疫細胞へのB19感染はKu80を感染受容体として成立するものと推定される.RA症例の関節病変に浸潤する免疫細胞にはB19が高頻度に検出さるが,細胞内でB19は活性化され,ウイルス蛋白NS1の作用により炎症性サイトカインTNFαの産生亢進が誘導される.その結果,B19感染免疫細胞が存在する関節滑膜局所への好中球遊走,および活性化を促し,関節炎の惹起と同時に持続性関節炎に至る悪循環が形成され,RA病態の完成につながっていくものと考えられる.免疫細胞へのB19持続感染は宿主の抗B19中和能不全など抗B19液性免疫異常が関与している可能性がある.B19感染から進展するRAの治療にはNS1を標的とした治療が有効であると期待される.
  • 保田 晋助, 小池 隆夫
    2006 年29 巻5 号 p. 311-318
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/31
    ジャーナル フリー
      抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibodies aPL)は,β2-glycoprotein I (β2-GPI)などのリン脂質結合性蛋白をターゲットとし,血栓症や妊娠合併症を発症する自己抗体である.種々の動物モデルよりその病原性については疑う余地がないが,aPLがいかにして症状を引き起こすかについては未解明の部分も多い.凝固・線溶系への影響が検討され,β2-GPIを介したプロテインC, Z系の抑制が報告される一方,特異的治療を目指したB細胞・T細胞エピトープの解析もなされてきた,最近では,血栓関連細胞にaPL/β2-GPI複合体が結合することによってp38MAPキナーゼ系を活性化,組織因子やトロンボキサンを発現させることも明らかになってきている.β2-GPIのリガンドに関しては,アネキシンII, LDLレセプターファミリー分子,グリコプロテインIbなどが挙げられ,一部リガンドに対する抗体による結合阻害も示されている.これまで,抗リン脂質抗体症候群の治療は抗凝固・抗血小板剤による非特異的なものに頼らざるを得ず,またその効果も充分とはいえなかったが,今後は新たな知見によって特異的な治療法が現実のものとなることが期待される.
  • 田中 良哉, 辻村 静代
    2006 年29 巻5 号 p. 319-324
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/31
    ジャーナル フリー
      全身性エリテマトーデス(SLE)や関節リウマチ(RA)に代表される膠原病の治療は,ステロイド薬,免疫抑制薬,抗リウマチ薬等の薬剤療法を中心とするが,薬剤抵抗性を示し,疾患制御を困難とする症例は決して少なくなく,臨床実地の重要な課題である.薬剤抵抗性は,長期間の薬剤投与により齎される薬剤耐性,疾患活動性が高いために薬剤に反応しない薬剤不応性に大別される.薬剤抵抗性の機序は多彩であるが,リンパ球をサイトカインで刺激すると多剤耐性遺伝子(MDR-1)の転写,MDR-1がコードする細胞膜P糖蛋白質の発現を誘導し,細胞外への薬剤排出を促進すること,RAやSLE患者の末梢血リンパ球ではP糖蛋白質が発現亢進し,薬剤抵抗性の主因となることを解明した.膠原病患者に於いてリンパ球のP糖蛋白質の発現が,薬剤抵抗性の臨床的指標として普及すれば,薬剤抵抗性の観点からのテーラーメイド医療の具現化を可能とする.即ち,薬剤不応性のRA症例に対してインフリキシマブ,薬剤不応性のSLEに対してリツキシマブなどの強化療法を反復することにより,MDR-1の転写を介するP糖蛋白質の発現を制御でき,また,薬剤耐性の症例にはシクロスポリンやタクロリムスなどのP糖蛋白質拮抗薬の追加併用療法により,薬剤の細胞外排出が制御できるはすである.これらの成果に見られるように,ベッドサイドとベンチ間の双方向のトランスレーションこそが病態解明や治療応用にブレークスルーを齎すものと確信する.
総説
  • 天谷 雅行
    2006 年29 巻5 号 p. 325-333
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/31
    ジャーナル フリー
      デスモゾームは様々な組織の複雑な構築の形成,維持に重要な役割をしている.デスモゾームの膜構成蛋白として,カドヘリン型の細胞間接着因子デスモグレイン(Dsg)がある.Dsgは,4種のアイソフォームの存在が知られ,自己免疫,感染症,そして遺伝性疾患の標的蛋白あるいは原因遺伝子となっていることが明らかとなった.皮膚・粘膜に水疱,びらんを生じる天疱瘡は,Dsg1とDsg3に対するIgG自己抗体により生じる自己免疫性疾患である.近年,天疱瘡の一部の患者では,Dsg1/Dsg4交叉自己抗体が存在することも明らかにされた.ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)あるいは水疱性膿痂疹を起こす黄色ブドウ球菌産生外毒素(ET)は,Dsg1を特異的に切断するセリンプロテアーゼである.そして,SSSS罹患後に低いながらも抗Dsg1 IgG自己抗体の産生が確認された.DSG1遺伝子に変異があると線状掌蹠角化症となり,DSG4遺伝子に変異がある先天性貧毛症となる.なぜ,これだけ多くの皮膚疾患がDsgを標的としているのか明らかでない.しかし,Dsgを鍵として,感染症との接点から自己免疫の発症機序が解明されることが期待される.
  • 奥谷 大介
    2006 年29 巻5 号 p. 334-341
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/31
    ジャーナル フリー
      急性炎症反応は様々な疾患における組織や臓器障害の根底にある重要なメカニズムである.敗血症・広範囲熱傷・侵襲の大きな手術・外傷・誤飲などの原因により引き起こされる急性肺障害では,炎症細胞・肺胞上皮細胞・血管内皮細胞より産生される炎症性メディエーター(TNF-α, IL-1s, IL-6など)が重要な役割を担っているが,これは細胞内の様々なタンパクより形成されるシグナルにより調節されている.Srcチロシンキナーゼファミリーは,急性炎症反応に関与する細胞内シグナル伝達タンパクとして重要であり,そのリン酸化は炎症性メディエーターの発現や産生の程度を決定する大きな要素のひとつである.これまでの動物実験により,Srcチロシンキナーゼインヒビターが急性肺障害などの急性炎症反応に対して,予防的に作用することが証明された.また,細胞分子レベルにおいても,Srcチロシンキナーゼは炎症細胞の活性化や血管内皮細胞の透過性亢進に関与しており,そのインヒビターが炎症細胞の活性化や血管透過性亢進を抑制することが確認されている.本稿では,急性肺障害におけるSrcチロシンキナーゼの役割の理解やそのインヒビターの効果について述べる.
症例報告
  • 小川 弥生, 向井 正也, 後藤 秀樹, 田中 敏, 高田 明生, 武内 利直
    2006 年29 巻5 号 p. 342-347
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/31
    ジャーナル フリー
      臨床的に非活動期の全身性エリテマトーデス(SLE)患者が血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)を発症し,血漿交換などの治療に反応せず,入院4日後に死亡された1例を報告する.症例は60歳女性で,32年前にSLEを発症し通院加療をしていたが,入院3週間前まで副腎皮質ステロイド10 mgの経口投与で症状は落ち着いていた.今回発熱,全身倦怠感,意識障害を主訴に来院し,血液検査上,高度の血小板減少,溶血性貧血,腎機能障害が認められTTPと診断された.血漿交換および副腎皮質ステロイド投与の治療を行ったが反応に乏しく入院4日後に死亡された.急速な経過で臨床的評価が難しかったため,病理解剖を行い,臨床病理学的なSLE腎炎の活動性,TTPとしての血栓の局在などを含めた病態解析を行い,残血漿を用いたvon Willebrand factor-cleaving protease (VWF-CP)活性の検索を行った.心臓はびまん性に点状,巣状の出血を認め,組織学的には細小動脈内に多数の好酸性血栓を認めた.血栓は,脾臓,腎臓,肝臓,膵臓でも多数認められ,一部消化管の血管にも散見された.多臓器の細小動脈内に特徴的な硝子様血栓を認め,血栓はVWF抗体が陽性で,病理組織学的にもTTPと診断された.発症時のVWF-CPは0.5%未満と著明な低下を示し,inhibitorの存在を認めた.われわれは,本症例がSLE-TTPの病因を考察する上で,血栓の局在および形態などの臨床病理学的所見とVWF活性の評価を含めて検討しえた貴重な症例と考え報告する.
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