広範囲の舌切除を受けた舌癌術後症例1例の5年間の構音機能の経時的変化について,ビデオ検査,発語明瞭度検査および舌超音波検査を用いて検討したので報告した。
症例は50歳の男性。T3N0M0の診断の下,術前照射および舌亜全摘出・左側保存的頸部郭清術・腹直筋皮弁による口腔再建術を受けた。術後経過は良好だったが,本人がサ行やラ行の発音を気にしたため当科にて構音訓練を継続した。術後4か月,術後1年2か月,2年5か月,5年4か月時に,ビデオ検査,発話明瞭度検査を行った。また超音波診断装置による舌運動の観察(以下舌超音波検査)は実施可能となった術後2年5か月,5年4か月時に行った。
その結果,発語明瞭度検査の総合正答率は,術後4か月時に比べ術後1年2か月以降で改善し,その後は維持されていた。舌前方音の正答率は経過とともに低下したが,舌後方音の正答率は上昇した。舌超音波検査では,術後2年5か月時に比べ5年4か月時は再建舌の縮小がみられたが,再建舌の左右にはねる運動が消失し,残存舌と連動した上前方への運動量の増加傾向がみられた。
以上より,術後経過に伴い再建舌の縮小がみられたが,代償的に舌後方部の運動量が増加し,正常に近い構音機能が維持されたと考えられた。
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