臨床経過, 発生部位により症状の推移の観察的確な画像診断が遅れ, 診断に苦慮した肺癌の下顎骨転移の1例を経験した。患者は60歳代の女性。1か月前より56部の鈍痛を自覚し, 歯周組織炎の診断のもと抜歯掻爬が施行されていた。初診時抜歯窩の圧痛とオルソパントモグラムで抜歯窩周囲の骨硬化像のみで, その他, 疼痛の原因となる病巣を認めなかった。歯槽骨炎の診断にて消炎をはかるも軽快せず, 約1か月経過した頃より, 徐々に, 激痛へ変化した。MRIにて下顎枝部を占拠し咬筋, 内側翼突筋に浸潤する高信号を呈する腫瘤様病変を認めた。骨シンチグラフィーにて多発転移が確認され, 生検にて肺癌の下顎骨転移と診断された。本症例は下顎枝を占拠しているにも関わらず, 疼痛以外の臨床所見に乏しく, 疼痛を訴える場合は, 明らかな病巣が認められなくても悪性腫瘍を念頭に置き, 診断精度の高い検査を行う必要性を再認識した。
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