重複癌は増加傾向にあるが, その背景には癌の診断技術や治療法の進歩, あるいは高齢者人口の増加があると思われる。しかし, 5重複癌以上の報告になるときわめてまれである。今回われわれは, 口腔癌を含む4臓器5重複癌の1例を経験したので報告する。患者は47歳女性で, 左側上顎歯肉腫脹を主訴に, 久留米大学病院歯科口腔医療センターを受診した。既往歴には組織型が異なる左右側の乳癌 (非浸潤性乳管癌, 浸潤性乳管癌: 硬癌) , 大腸癌 (腺癌) があった。精査後, 左側上顎歯肉扁平上皮癌 (T4N2aM0) の診断下に, 左側上顎骨部分切除術および左側頸部郭清術を施行した。術後8か月に, 右側頸部リンパ節転移および原発性肺癌 (小細胞癌) が判明したため, 頸部郭清術術後から化学療法 (VP-16, CDDP) を開始した。しかし, 効果判定では腫瘍の増大を認め, さらに重度の白血球減少症も認めたため, 化学療法は中止となった。その後, 脳転移が判明したためγ-ナイフ治療を開始するも, 効果がなく全脳照射に移行した。また, 術後19か月で左側上顎切除部からの再発を認めたため, 姑息的にTS-1
を投与したが感受性を示さなかった。次第に右肺下葉にも癌性胸水を認めるようになり, 肺炎による心不全を継発した。その後, 全身状態が悪化して呼吸不全による死亡退院となった。
今後も, 口腔領域に関連した重複癌は増加することが予想されるので, FDG-PETなどを用いた十分な検査が必要と考える。
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