本研究では, 動物において, 加熱食品中に存在する発癌物質のヘテロサイクリックアミン (Trp-P-2およびGlu-P-1) の塗布と創傷の形成が, その動物の舌粘膜にどのような影響をおよぼすかを調べるために実験を行った。実験動物にはゴールデンハムスターを用い, 処置の違いによって動物を次のA~Jの10群 (各群5匹) に分けた。
A群 (対照群) : 16週間, 週3回, 蒸留水塗布-舌尖切除-15日間連日, 蒸留水塗布。B群: 16週間, 週3回, 1%Trp-P-2溶液塗布-舌尖切除-15日間連日, 1%Trp-P-2溶液塗布。C群: 16週間, 週3回, 1%Trp-P-2溶液塗布―舌尖切除―15日間無処置。D群: 16週間, 週3回, 1%Glu-P-1溶液塗布―舌尖切除―15日間連日, 1%Glu-P-1溶液塗布。E群: 16週間, 週3回, 15日間1%Glu-P-1溶液塗布―舌尖切除―15日間無処置。F, G, H, I, J群: 舌尖に創傷は全く加えず, それ以外はそれぞれA, B, C, D, E群と同様な処置。
1) A群 (対照群)
すべての動物 (5匹) では, 舌の創傷部は正常な上皮によって被覆されていた。創傷部の上皮の表層には過角化が認められた。
2) B群の5匹中の1匹では, 中程度の上皮性異形成の変化がみられ, E群の5匹中の2匹では, 軽度の上皮性異形成の変化がみられた。
3) F, G, H, I, J群のすべての動物 (5匹) では, 正常な舌の上皮所見を示していた。
以上の結果より, ハムスターの舌において, 約18週間のヘテロサイクリックアミン (Trp-P2, Glu-P-1) の塗布および1回の舌尖の切除を行うと, 舌には上皮性異形成の生じることが, また, ヘテロサイクリックアミンの塗布は行うが, 1回も舌尖の切除を行わないと, 舌には上皮性異形成の生じないことが示唆された。
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