日本口腔腫瘍学会誌
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7 巻, 2 号
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  • 清水 正嗣, 柳澤 繁孝, 河野 憲司, 小野 敬一郎, 松島 凛太郎
    1995 年 7 巻 2 号 p. 37-44
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2010/05/31
    ジャーナル フリー
    34歳女性の左側口蓋粘膜に発症した腺様嚢胞癌を経験した。その初回来院時は, 他院処置後の当該部歯原性炎症の処置の依頼であって, その処置を遂行することによって, 症状は軽快治癒した。
    口蓋部にはび慢性腫脹が残されたが, これに対する次回の当科での検索処置まで6年余が経過し, 本腫瘍の治療に当たって大きな困難が経験された。本例は, 2回目の初診後, 生検確定診と共に肺転移巣の存在が疑われ, 腺様嚢胞癌T2N0M1 (T2bN0M1, 岡部提案) の診断が確定された。その主治療は初め3者併用療法によったが不充分で, 上顎左半側広範切除・D-P皮弁再建を行った。
    本研究では, 患者のQOLを考慮する立場から, 原発巣に対する治療方針・切除範囲, 胸部肺転移巣の処置などにおいて, 患者と主治医の立揚から多くを思考した。特に, 腺様嚢胞癌のもつ生物学的特性と対比して, 患者のQOLを考え, informed consentに格段の考慮をなすべき諸課題を見いだした。主治療の結果, 菲薄化した上赤唇左側を過剰となった皮膚組織を利用してcomposite skin graftを行い, 患者の機能的並びに美容的障害を回復した。これは, 患者の退院後のQOLに大きな役割を果たしたものである。当報告症例は現在, 腫瘍治療手術を開始してから, 3年6か月余を経過し, 家庭・社会生活に復帰している。
  • 水谷 誠, 神谷 元久, 横山 雅行, 前田 初彦, 大野 紀和, 亀山 洋一郎
    1995 年 7 巻 2 号 p. 45-52
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2010/05/31
    ジャーナル フリー
    本研究では, 動物において, 加熱食品中に存在する発癌物質のヘテロサイクリックアミン (Trp-P-2およびGlu-P-1) の塗布と創傷の形成が, その動物の舌粘膜にどのような影響をおよぼすかを調べるために実験を行った。実験動物にはゴールデンハムスターを用い, 処置の違いによって動物を次のA~Jの10群 (各群5匹) に分けた。
    A群 (対照群) : 16週間, 週3回, 蒸留水塗布-舌尖切除-15日間連日, 蒸留水塗布。B群: 16週間, 週3回, 1%Trp-P-2溶液塗布-舌尖切除-15日間連日, 1%Trp-P-2溶液塗布。C群: 16週間, 週3回, 1%Trp-P-2溶液塗布―舌尖切除―15日間無処置。D群: 16週間, 週3回, 1%Glu-P-1溶液塗布―舌尖切除―15日間連日, 1%Glu-P-1溶液塗布。E群: 16週間, 週3回, 15日間1%Glu-P-1溶液塗布―舌尖切除―15日間無処置。F, G, H, I, J群: 舌尖に創傷は全く加えず, それ以外はそれぞれA, B, C, D, E群と同様な処置。
    1) A群 (対照群)
    すべての動物 (5匹) では, 舌の創傷部は正常な上皮によって被覆されていた。創傷部の上皮の表層には過角化が認められた。
    2) B群の5匹中の1匹では, 中程度の上皮性異形成の変化がみられ, E群の5匹中の2匹では, 軽度の上皮性異形成の変化がみられた。
    3) F, G, H, I, J群のすべての動物 (5匹) では, 正常な舌の上皮所見を示していた。
    以上の結果より, ハムスターの舌において, 約18週間のヘテロサイクリックアミン (Trp-P2, Glu-P-1) の塗布および1回の舌尖の切除を行うと, 舌には上皮性異形成の生じることが, また, ヘテロサイクリックアミンの塗布は行うが, 1回も舌尖の切除を行わないと, 舌には上皮性異形成の生じないことが示唆された。
  • ―病理組織学的悪性度と所属リンパ節転移, 術前治療効果および予後との関連性―
    中條 哲子, 吉賀 浩二, 市川 健司, 大島 和彦, 虎谷 茂昭, 高田 和彰
    1995 年 7 巻 2 号 p. 53-59
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2010/05/31
    ジャーナル フリー
    下顎歯肉扁平上皮癌において, 組織学的悪性度を治療前に的確に診断しておくことは治療法を選択する上で重要である。本研究では, 当科を受診した下顎歯肉扁平上皮癌29症例を対象とし, 組織学的悪性度を表す7因子 (分化度, 核異型度, 細胞分裂, 浸潤様式, 浸潤程度, 細胞反応, 血管への浸潤程度) , pN, 術前治療効果および予後の相互間の関連性について検討した。pNは浸潤様式, 浸潤程度, 血管への浸潤程度と相関性が認められ, 術前治療効果は血管への浸潤程度と相関性が認められた。術前治療効果の低い症例は再発・頸部後発転移をきたしやすく, 5年粗生存率は低くなるため, 下顎歯肉癌の治療方針の決定に際して, 特に, 浸潤様式, 浸潤程度, 血管への浸潤程度の因子について検討することが必要と考えられた。
  • ―組織学的悪性度, 細胞外基質出現状態と頸部リンパ節転移の関連性について―
    深川 淳至, 篠原 正徳, 原田 猛, 中村 誠司, 池辺 哲郎, 嶋田 誠, 岡 増一郎
    1995 年 7 巻 2 号 p. 60-69
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2010/05/31
    ジャーナル フリー
    頸部リンパ節転移は早期の口腔扁平上皮癌においても認められることがある。今回われわれは, 転移例と非転移例で, 組織学的悪性度および細胞外基質の出現状態における差異を明らかにする目的で免疫組織学的検索を行なった。検索症例は, 扁平上皮癌T1症例31例である。このうち8例において転移が認められた。
    転移例では, 複数の節外進展リンパ節転移を大部分の症例で認め, 予後不良であった。原発巣における免疫組織学的所見では, 転移例は以下のような特徴を有していた。
    1) 腫瘍浸潤様式, 浸潤程度, 間質反応から判断される組織学的悪性度が高かった。
    2) 腫瘍間質においてFibronectin, Tenascinの出現状態の増強と, Decorinの出現状態の低下が認められた。
    このことより, T1症例であっても上記のような症例は高い転移能を有するものと考えられ, 予防的頸部郭清術を考慮すべきと思われた。
  • ―頸部リンパ節転移と各種転移因子について―
    篠原 正徳, 原田 猛, 嶋田 誠, 中村 誠司, 池辺 哲郎, 竹之下 康治, 岡 増一郎
    1995 年 7 巻 2 号 p. 70-78
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2010/05/31
    ジャーナル フリー
    リンパ節転移は予後不良の指標と考えられている。それゆえ, リンパ節転移に関連する因子の検索は重要である。本研究では, 下顎歯肉扁平上皮癌の33症例において転移と関連する重要な因子の評価を臨床的・免疫組織学的に行った。その結果, 腫瘍浸潤様式や細胞外基質の出現状態といった組織学的因子がT分類 (腫瘍の大きさ) やレントゲン所見といった他の臨床的因子よりも転移においてより重要であることが示唆された。山本, 小浜分類による腫瘍浸潤様式の3型は細胞外基質の出現状態によって3A型と3B型の2つのグループに細分された。この細分した腫瘍浸潤様式は患者の転移の有無を判定する上で大変有用であり, 転移頻度は腫瘍浸潤様式に従って増加した。細胞外基質の出現状態は下顎歯肉扁平上皮癌患者における転移の予測, 治療計画ならびに結果の比較などに活用されるべきである。
    Lymph node metastasis is believed to be an indicator of poor prognosis. Therefore, it is very important to investigate the factors associated with lymph node metastasis. In this study, a retrospective clinical-immunohistological investigation has been carried out to evaluate the factors which are important with regard to metastasis in a series of 33 patients with squamous cell carcinoma (SCC) of lower gingiva. As a result, histological factors such as mode of tumor invasion (MI) and distribution of extracellular matrix (ECM) have been shown to be much more important to metastasis than other clinical parameters such as T stage (size of tumor) and rentogenographic features. Grade 3 of MI (classification by Yamamoto and Kohama) has been classified into 2 groups, Grade 3A and Grade 3B, by ECM. This classification of MI has been found to be very useful in determining the metastasis in patients and metastatic rates increased with MI. ECM should be also included in estimating metastasis, planning therapy and comparing results in patients with SCC of the lower gingiva.
  • 加藤 文度, 白井 信一, 鎌倉 慎治, 大木 英孝, 茂木 克俊
    1995 年 7 巻 2 号 p. 79-82
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2010/05/31
    ジャーナル フリー
    舌癌切除後の3例に知覚前腕皮弁を用いて再建を行った。それぞれ術後7か月, 5か月と3か月で皮弁の知覚は回復した。知覚皮弁は放射線治療後のような不良な移植床においても速やかで確実な知覚回復が得られるため, 嚥下や発音などの術後機能の向上に寄与すると考えられる。
  • ―臨床経過と背景因子について―
    野谷 健一, 半沢 元章, 佐藤 明, 福田 博
    1995 年 7 巻 2 号 p. 83-90
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2010/05/31
    ジャーナル フリー
    原発部と所属リンパ節 (局所) が制御された頭頸部の悪性腫瘍287例では, 23例 (8.01%) に遠隔転移が発現した。扁平上皮癌症例では頸部リンパ節転移の発現と強く関係していた。この23例についてretrospectiveな検討を行った。23例の臨床的特徴は, 口底, 扁平上皮癌, 進展例, 集学的治療がなされた症例に多かった。扁平上皮癌は唾液腺癌や非上皮性悪性腫瘍に比べ遠隔転移の出現が早かった。また, 遠隔転移確認後の生存平均期間も扁平上皮癌症例が他に比べて短かった。転移部位では肺, 骨, 肝が多く, 原発巣の組織型に違いはなかった。5年累積生存率は, 全例で13, 0%, 扁平上皮癌が6.7%, 唾液腺癌が33.3%, 非上皮性悪性腫瘍が40.0%であった。
    遠隔転移は致死的であるので, 遠隔転移のhigh risk groupを予測し, riskの高い症例に対しては, 遠隔転移が発現する以前に, 局所療法に加えて補助的治療を行うことが有効と思われる。
  • 梅田 正博, 大森 昭輝, 李 進彰, 武 宜昭, 横尾 聡, 奥 尚久, 川越 弘就, 藤岡 学, 中谷 徹, 西松 成器, 寺延 治, ...
    1995 年 7 巻 2 号 p. 91-100
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2010/05/31
    ジャーナル フリー
    1990年~1991年の口腔粘膜扁平上皮癌手術症例のうち, 原発巣再発をきたした22例について臨床的に検討し, 以下の結果を得た。
    1.舌癌22例中原発巣再発は9例に認められた。再発は局所進展例で舌半側切除, 亜全摘, 全摘を施行した症例に多かった。
    2.下顎歯肉癌の原発巣再発は42例中7例に認められた。再発はT4の局所進展例だけではなくT1・T2で口内法による下顎骨辺縁切除を施行した症例にも生じた。また, X線所見や組織学的悪性度と再発との関連性は認められなかった。
    3.口底癌の原発巣再発は17例中4例に認められた。再発はT2・T3で下顎骨辺縁切除を施行した症例に生じた。組織学的悪性度と再発との関連性は認められなかった。
    4.上顎歯肉癌の原発巣再発は22例中2例に認められた。再発はT1~T3の症例にはみられなかった。
    5.再発例22例のうち予後良好は7例のみで, 5年累積生存率は34.1%であった。
  • 梅田 正博, 川越 弘就, 藤岡 学, 中谷 撤, 西松 成器, 奥 尚久, 武 宣昭, 横尾 聡, 寺延 治, 中西 孝一, 島田 桂吉
    1995 年 7 巻 2 号 p. 101-110
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2010/05/31
    ジャーナル フリー
    1980年~1991年に頸部郭清を施行した口腔粘膜扁平上皮癌124例について臨床的に検討し, 以下の結果を得た。
    1.N+で初回原発巣と同時に頸部郭清を施行した66例のうち頸部非制御は2例であった。これらの2例は組織学的に最も高悪性型で, 多発性, 広範囲の転移を有していた。
    2.N+で原発巣に対する組織内照射後に頸部郭清を施行した21例のうち頸部非制御は5例であった。これらの5例は組織学的悪性度は中~低悪性型で当初は限局性の転移であったが, 照射から郭清まで長期間を要していた。
    3.N0で後発転移出現時に頸部郭清を施行した29例のうち頸部非制御は5例であった。これらの5例は組織学的に中~低悪性型であったが, 後発転移が高度に進展するまで発見できなかった症例であった。
    4.原発巣再発時に頸部郭清を施行した8例には頸部非制御はなかった。
    5.以上の結果より, 高悪性型に対する治療法の確立や, CT, MRIを用いた転移の早期診断が重要と考えられた。
  • 宮田 勝, 坂下 英明, 宮本 日出, 宮地 優子, 車谷 宏, 東野 純也
    1995 年 7 巻 2 号 p. 111-115
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2010/05/31
    ジャーナル フリー
    多形性腺腫は唾液腺の中では一般的な腫瘍である。大唾液腺, 特に耳下腺にしばしば発生する。小唾液腺においては, 普通は口蓋に発生し, 口唇の発生は比較的まれである。上唇に発生した多形性腺腫の3例を報告した。それらは, 境界明瞭で可動性であり, 局所麻酔下に容易に切除できた。再発は認めなかった。病理組織学的に多形性腺腫と診断された。日本語文献上われわれが渉猟しえた限りでは, 小唾液腺腫瘍919例のうち上唇多形性腺腫は39例 (4.2%) であった。口唇の術後の変形や機能障害が起こることを考慮して安全域を設定する必要がある。
  • 伊藤 道一郎, 陶山 一隆, 徳久 道生, 川崎 五郎, 冨永 和宏, 水野 明夫, 平山 研之
    1995 年 7 巻 2 号 p. 116-122
    発行日: 1995/08/25
    公開日: 2010/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は84歳女性で, 左側下顎臼歯部の腫瘤および接触痛を主訴に受診した。病理組織学的診断は中等度分化型扁平上皮癌であった。高齢者であることおよび家族の在宅治療希望のため, UFT単独投与を行ったところ, 腫瘤は徐々に消失し, 投与開始4カ月後には臨床的にも組織学的にも腫瘍の消失がみられたUFT投与開始から6カ月後, 造血機能障害のため投与を中止したが, さらに1年1カ月後まで再発がなく, 経過良好である。本報告例は, 癌の化学療法の効果判定基準でcomplete response (CR) に相当し, 高齢者歯肉癌におけるUFTの有用性を示す症例と考えられた。
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