この多施設共同研究は,舌・口底癌切除と有茎あるいは血管柄付き遊離皮弁による再建を受けた患者の術後言語,咀嚼,嚥下機能を客観的に評価した。日本国内13施設から計150名の患者が登録され,切除部位により以下の三群:側方型(L群)109名;前方型(A群)20名;および混合型(C群)21名,に分けられた。L群はさらに3つの亜群に,またA群は2つの亜群に,切除範囲の大きさにより細分類された。再建は86例が遊離前腕皮弁(RFF)により,29例が遊離腹直筋(RAMCF)により,17例が大胸筋皮弁(PMMCF)により,7例が頸部島状皮弁(CIF)により,6例が前外側大腿皮弁(ALTF)により,5例がその他によりなされた。術後機能は発語および会話明瞭度,咀嚼機能は発色ガム法
21)と感圧シート,嚥下機能は水のみテストを用いて客観的に評価された。
L群の結果では,切除範囲は言語機能にある程度影響したが,咀嚼機能には影響しなかった。比較的狭い範囲の舌を切除された患者の中には水飲みテストで「むせ有り」症例が観察された。舌部分切除を受けた患者の中では,RFF,CIFのほうがPMMCFより,ガム検査で良い結果を示した。前方2/3の舌半切患者においてRAMCFとRFFのどちらが優れるかは不明確だった。舌半切患者でALTFは他の皮弁を用いたものより高い機能を示した。
A群において切除範囲は言語機能にほとんど影響しなかったが,咀嚼機能,嚥下機能には影響した。A群の切除が舌前方1/3以内に限定される場合の再建材料としてはRFFのほうがRAMCFよりも嚥下機能の維持に有用だった。
C群は言語,咀嚼機能がもっとも低かった。嚥下機能に関しては,「むせ有り」症例の割合は他群より高かったが,水飲みテストでC群はA群より良い結果だった。皮弁採取部位の違いは機能結果に影響しなかった。
今後は,舌・口底癌患者におけるより高い術後機能の獲得を目指して皮弁縫合手技を工夫し,機能訓練の意義を高めるために,神経温存や再建,舌骨吊上げの有用性について検討すべきである。
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