日本口腔腫瘍学会誌
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35 巻, 3 号
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総説
  • 柳本 惣市, 梅田 正博, 栗田 浩, 桐田 忠昭
    2023 年 35 巻 3 号 p. 83-88
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/22
    ジャーナル フリー
    口腔がんは,がん全体の1%,人口10万人あたり6人未満の“希少がん”である。2014年,厚生労働省等は「がん研究10か年戦略」を策定し,研究が進みにくい“希少がん”として,口腔がんを重点研究領域として明記している。個々の施設で質の高い臨床研究を行うには限界があるため,多機関共同研究の重要性が高まっている。日本口腔腫瘍学会でも共同研究委員会が設置され,様々な研究が行われており,本総説ではそのひとつである,「cN0舌癌に対する予防的頸部郭清術の前向き観察研究(略称:END-TC)」について,研究に至った背景と研究プロトコールの概要について述べる。本研究は多機関共同前向き観察研究である。臨床的にリンパ節転移陰性の口腔舌扁平上皮癌に対して,原発巣の切除と同時に予防的頸部郭清術を行うかどうかの選択は,施設の方針と患者の希望に基づいて行う。本研究のプライマリーエンドポイントは3年全生存期間で,セカンダリーエンドポイントは,3年疾患特異的生存期間,3年無再発生存期間,および患者のQoLへの影響である。QoLへの影響は,Functional Assessment of Cancer Therapy-Head and Neck (Version 4;FACT-H&N)およびDisabilities of the Arm, Shoulder, and Hand (DASH)質問票を用いて評価する。選択バイアスを減らすために交絡因子の調整を行う。本研究の結果は,わが国におけるcN0 舌扁平上皮癌に対する予防的頸部郭清術の有効性について,患者のQoLの観点から新たなアウトカム志向の知見が得られる可能性がある。
原著
  • 石橋 謙一郎, 森田 麻希, 鍋田 剛志, 中村 知寿, 宮本 大模, 菱田 純代, 加藤 伸一郎, 渋谷 恭之
    2023 年 35 巻 3 号 p. 89-95
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/22
    ジャーナル フリー
    S-1は5-FUのプロドラックであるテガフールに,ギメラシルとオテラシルカリウムを配合した経口抗癌剤である。その抗腫瘍効果は標的酵素であるthymidylate synthase (TS),分解系の律速酵素のdihydropryimidine dehydrogenase (DPD),代謝酵素orotate phosphoribosyl transferase (OPRT)の関与が示唆されている。今回,70歳以上の高齢口腔扁平上皮癌7症例を対象に,投与方法,実投与量,有害事象,抗腫瘍効果,および生検標本からTS,DPD,OPRTの発現について検討した。結果,CR 3例,PR 1例,SD 3例であった。投与方法は,6例で最終的に2週投与1週休薬し,5例で推奨投与量の67%〜80%の低用量で行い,6症例に有害事象を生じていた。細胞質でのTS低発現症例は,S-1の効果が示される傾向があった。本検討から,高齢者口腔扁平上皮癌患者に対して,S-1を2週間投与後1週間休薬する低用量療法は,有効かつ安全であることが示唆された。さらに,S-1療法の選択には,免疫組織化学的手法による細胞質でのTS発現が一助になる可能性が示唆された。
症例報告
  • 小林 孝憲, 飯田 明彦, 成松 花弥
    2023 年 35 巻 3 号 p. 97-104
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/22
    ジャーナル フリー
    孔道癌(Carcinoma cuniculatum)は,病理組織学的にはウサギの巣穴のような洞穴状の浸潤を示す扁平上皮癌の一亜型である。今回,下顎歯肉に生じた本疾患の1例を経験したので報告する。
    患者は慢性骨髄性白血病の既往を有する65歳の男性で,下顎歯肉の白斑を主訴に受診した。左側下顎歯槽部頰側に白色病変が認められ,急速に舌側へ進展した。画像所見では扁平な腫瘍像が認められた。悪性病変を疑って生検を行ったが,悪性の診断には至らなかった。病変の増大が比較的早かったため,悪性病変に準じた切除を予定し,初診後1か月で下顎辺縁切除術を施行した。病理組織学的診断は孔道癌だった。術後4年で再発や転移はない。
    孔道癌は口腔扁平上皮癌の中でまれな組織型で,病理組織学的診断の困難さに加え認知度も低く,報告が少ない。さらなる臨床的,病理組織学的分析には,症例の蓄積が必要であることから,1典型例として報告した。
  • 笹原 庸由, 北畠 健一朗, 小林 武仁, 飯野 光喜
    2023 年 35 巻 3 号 p. 105-113
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/22
    ジャーナル フリー
    侵襲性真菌症(以下IFI)は,免疫抑制状態を背景に発症する全身性真菌感染症であり,上大静脈症候群(以下SVCS)は,上大静脈の閉塞により生じる症候群である。今回われわれは,舌癌に起因するSVCSの治療を契機にIFIを発症した症例を経験したので,その概要を報告する。症例は67歳,男性。舌扁平上皮癌(cT3N2bM0)に対して舌可動部半側切除術,左側全頸部郭清術変法および術後補助療法を施行した。術後補助療法5か月後に頸部領域にリンパ節転移を認めたため,ニボルマブの投与を開始した。ニボルマブ使用2年後には上縦隔領域にリンパ節転移を認めたため,化学療法を予定したが,上大静脈の狭窄による頭頸部浮腫と倦怠感が出現した。放射線治療,ステロイド投与により症状の改善を認めたが,化学療法開始2か月後に抗菌薬に反応しない発熱を認めた。血液培養で真菌は検出されなかったが,ステロイドの長期使用,肺の結節性病変,β-Dグルカンの上昇を認めたため,IFI(Probable diagnosis)と診断した。ボリコナゾールを開始したところ,症状の改善を認めた。その後,化学療法を再開したが,全身状態が悪化しIFI発症から5か月後に死亡した。
  • 宮下 英高, 相馬 智也, 竹内 照美, 宗像 花楠子, 山田 有佳, 中川 種昭, 莇生田 整治
    2023 年 35 巻 3 号 p. 115-121
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/22
    ジャーナル フリー
    多形腺腫由来癌は主に耳下腺などの大唾液腺に生じ,その癌腫成分は腺癌(NOS)や唾液腺導管癌が多い。今回われわれは,頰部の小唾液腺由来の筋上皮癌を主体とする多形腺腫由来癌の1例を経験したので報告する。症例は74歳,女性で,左側頰部の腫脹を主訴に受診した。MRIでは左側咬筋前縁を取り囲む分葉状の腫瘤性病変を認めた。生検では,多形腺腫と癌腫成分が混在した所見を認め,多形腺腫由来癌の診断を得た。全身麻酔下に腫瘍切除術,肩甲舌骨筋上頸部郭清術,血管柄付き前外側大腿皮弁移植による再建術を実施した。術後経過は良好であったが,術後約5か月経過時に他病死の転帰となった。多形腺腫由来癌は小唾液腺ではまれな疾患であり,多施設からの症例の蓄積による術前診断法および治療法の確立が望まれる。
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