40才男性の下顎に生じた骨肉腫の1例を報告する。患者は, 下唇の知覚低下を主訴として1988年7月8日に来院した。初診時には, 臨床的にも病理組織学的にも悪性所見に乏しく, 線維性骨異形成症と診断された。しかし, その2カ月後には下唇の知覚麻痺は進行し, 下顎角部の腫脹と同部のX線的骨吸収像の増加が見られたため, 再度組織診を行い, 骨肉腫と診断された。治療は, アドリアマイシンの動注化学療法後に下顎骨連続離断術と同側の上顎部郭清術を行い, 1カ月後にメソトレキセート (iv) とシスプラチン (iv) の大量療法を追加した。しかし, 手術後13カ月目に肺, 胸壁, 肋骨, 胸部大動脈, 横隔膜などに転移を来し, 死亡した。
本症例の治療が不成功に終った原因として以下の点が挙げられる。
1) 初回の生検時に転移防止のための十分な処置が取られなかった。
2) 病理診断者に正確な病歴と臨床所見が伝わっておらず, 最初適切な診断がなされなかった。
3) 確定診断がなされたのは, 初回生検より2カ月後であった。
4) 術後の化学療法開始が遅れ, 総投与量も不十分であった。
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