大建中湯は腹部の冷えによる腹痛と, これに伴う吐き気や消化管の異常な蠕動運動をおこすものに対して用いられる処方であるが, 近年開腹手術後の癒着性イレウスの予防および治療を目的に頻用されるようになってきた。そこで大建中湯および構成生薬 (山椒, 乾姜, 人参, 膠飴) の来歴を調査し, 応用や注意事項などを明らかにした。
大建中湯は中国ではあまり使用されてこなかったが, 日本では江戸時代中期頃から主として寒疝に頻用されるようになった。その理由として, 日本人は当時肉食をせず, 水を多く飲み, また腹部の冷えやすい服装であったこと, 寄生虫感染症が多いこと, 腹証が発達したことなどがあげられる。注意事項として, 大建中湯の適応症状がある場合, 直ちに下剤を投与しないこと, 高熱のある者に対しては適用しないことが述べられている。
大建中湯を構成する4生薬は, 漢方が一般に普及する江戸中期頃から現在使用しているものと同様の基原や修治法になったものと思われる。また大建中湯に対する各構戒生薬の薬効の寄与は, 山椒と乾姜が主薬であり, さらに人参, 膠飴が病状と山椒および乾姜の作用を調節していることが推測された。
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