石膏がセメントの凝結硬化に及ぼす影響の解明に資するために, 化学成分の異なる合成クリンカー3種および工場製クリンカー2種を用い, 凝結および強サ試験を並行して, セメント中のクリンカー鉱物の水和速度に及ぼす石膏添加の影響をX線回折による未水和鉱物の定量によって検討した.
(1) 凝結試験を行なう一方, そのセメントペーストについてX線回折によりセメント中のクリンカー鉱物の水和率を測定した結果,
i) アルミン酸三カルシウムの水和率が最も大きく, 注水後3分で10-30%に達し, また, それが石膏を添加したセメントの場合大きく低下した. 凝結試験結果では, 大部分のクリンカーは石膏を添加しないでも, こね混ぜ中のねり殺しにより緩結を呈したが, アリット少なくアルミン酸三カルシウムの多いクリンカーでは, 石膏を添加しない場合急結を呈し, その際のアルミン酸三カルシウムの水和率は注水後3分で30%に及び, 一方石膏を添加した場合緩結となり, そのさいのアルミン酸三カルシウムの水和率は注水後3分で20%に低下した.
ii) セリットの水和率は注水後3分から比較的大きく8-20%であり, また, それが石膏を添加したセメントの場合, 数パーセント低下した. しかし, セリットが多くアルミン酸三カルシウムが少ないクリンカーのとき, 石膏を添加しない場合の急結性は顕著でなかった.
iii) アリットの水和率は, 注水後3分で数パーセント以下5時間で10%程度であった. 注水後1時間ないし5時間のアリットの水和率は, 石膏を添加したセメントの場合数パーセント低下した.
iv) i) ないしiii) の結果より, 石膏がセメントの凝結を遅延させる理由は, 本来初期の水和性が著しく大きいアルミン酸三カルシウムの水和速度が石膏添加により低下させられるためであること, また, この石膏の作用の発現に対し, アリットから溶出する水酸化カルシウムが重要な役割をなすことが結論される.
(2) (1) の水和率とX線回折により定量したクリンカー中の鉱物含有量とより, セメント凝結時におけるクリンカーの水和量を求めた結果, 注水後3分で10%以下, 5時間で10-15%程度であり, そのうち, 初期ではアルミン酸三カルシウムの水和量が最も大きいこと, 石膏添加によりクリンカーの水和量が低下するが, そのうち, アルミン酸三カルシウムの水和量の低下が最も大きいことがうかがわれ, (1) iv) の見解がいっそう確められた.
(3) モルタル強サ試験を行なう一方, それと同一水量のセメント・ペースト硬化物について, X線回折によりセメント中のクリンカー鉱物の水和率を測定した結果,
i) アリットの水和率が最も大きく, 材令1日で40-70%, 28日で80-100%に達した. アルミン酸三カルシウムの水和率がこれにつぎ, 材令1日で40-60%, 28日で60-80%であり, アルミン酸三カルシウムは初期に著しく水和するが, その後の水和が緩漫であった. セリットの水和率は材令1日で20-40%, 28日で50-70%であり, ベリットの水和率は材令1日で5-15%, 28日で30%余りであった.
ii) 石膏添加が水和率に及ぼす影響について, アリットの水和率は石膏を添加した場合の方が大であり, また, 若干の例外はあるが, 石膏添加量2.5%のとき最大であった. ベリットの水和率は石膏を添加した場合の方がやや大であるが, 石膏添加量の影響は判然としなかった. アルミン酸三カルシウムの水和率は石膏を添加した場合大きく低下したが, 石膏添加量の影響は判然としなかった. セリットの水和率は石膏を添加した場合の方がやや大であるが, 石膏添加量の影響は判然としなかった.
iii) モルタル強サはアリット少なく, アルミン酸三カルシウムの多いクリンカーの場合を除き, おおむね石膏添加量がSO
3 2.5%で, 短期および長期材令を通じて最大であった. この結果と (3) ii) の結果とより, 最適石膏添加量でセメントの強サが最大となる理由の1つは, アリットの水和速度が大ならしめられることであると考えられる.
(4), (3) の水和率とX線回折により定量したクリンカー中の鉱物含有量とより, セメント硬化時におけるクリンカーの水和量を求めた結果, 材令1日で20-50%, 28日で40-80%程度であり, そのうちアリットの少ないクリンカーの場合を除き, アリットの水和量が最も大であること, また, おおむね石膏添加量がSO
32.5%のときアリットの水和量が最も大きいことがうかがわれ, (3) iii) の見解がいっそう確められた.
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