ポルトランド・セメント・クリンカーの構成鉱物の1つであるアルミネート相の原形化合物3CaO・Al
2O
3への鉄の固溶は古くから研究されているが, 1965年
Nature誌上で, 顕微鏡的相平衡の結果から, 3CaO・(Al
0.965Fe
0.035)
2O
3が限界組成であるとするC. M. Schlaudt, D. M. Royと, X線的格子定数の変化から, 3CaO・(Al
0.90Fe
0.10)
2O
3までのひろがりがあるとするP. Tasteの実験事実が対立した. この論争にA. E. Mooreは自身の実験値をも加味して, ‘3CaO・Fe
2O
3’の固溶限界濃度は処理温度が低いと, 高い濃度を示すとする温度依存の仮説を提唱した. しかし, この仮説でP. Tarte, A. J. Majumdar, A. E. Mooreの実験値が説明されても, C. M. Schlaudt, D. M. Royの相平衡状態図が矛盾することをA. E. Mooreも認めている. 当報では先行者の手法を追跡しつつ, この対立, 矛盾は3CaO・Al
2O
3に対応する固溶系の相違にあるとして, 3CaO・Al
2O
3-‘3CaO・Fe
2O
3’, 3CaO・Al
2O
3-2CaO・Fe
2O
3, 3CaO・Al
2O
3-CaO・Fe
2O
3, 3CaO・Al
2O
3-Fe
2O
3の4つの系につき, X線的に格子定数の精密測定を行ない, この結果から, 上記の矛盾を充分に説明することができた.
同一処理温度では, 対象とする系に固溶濃度限界が依存し, 処理温度が高くなるにつれて固溶濃度限界がひろがっていく通常形の固溶関係のあることを明らかにした. 3CaO・Al
2O
3-2CaO・Fe
2O
3系で一番大きな固溶量を示すが, 他の系では格子定数変化の折曲点からさらに漸次的膨脹を示し, 真の限界値を決定するに際し困難があったが, 先行者A. E. Moore, A. J. Majumdarの方法にならって, 一応, 折曲点をそれぞれの系の固溶濃度限界と見なした. 折曲点からの漸次的膨脹は最終系3CaO・Al
2O
3-2CaO・Fe
2O
3系への移行過程にあるため起った現象と推定した. この系にみられるように, 3CaO・Al
2O
3構造への鉄固溶量の大きい原因は, 固溶鉄イオンの分布がアルミニウムイオン席だけでなく, カルシウムイオン席にまで及ぶためと考えられる.
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