応用地質
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50 巻, 3 号
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論説(設立50周年記念)
  • ―50年の実績―
    小島 圭二, 大塚 康範, 大野 博之, 軽部 文雄, 土屋 彰義, 徳永 朋祥
    2009 年 50 巻 3 号 p. 126-139
    発行日: 2009年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     東京湾沿岸の地域開発/自然の人工改変の変遷の50年を振り返り, この人工改変に地質工学がどのように対応してきたか,基盤の科学・技術である地球科学と地盤工学の論理と知見を取り込み, どのように地質工学の論理体系を作り上げてきたのかを示した. すなわち, 地盤図を地盤地質図にするための論理の転換を行ったこと, ナチュラルアナログの論理を用いて地盤物性を求める手法を示したこと, 地層への物性の組み込みや地盤物性の劣化の論理を展開してきたことなどを, 事例を挙げて示した.
     これまでの50年の成果を踏まえ, 今後は, 自然の現象論・地盤の物性論・方法論の3つの基本論理とそれらを統合した地質工学を発展させていくことが重要である. 具体的には, シークェンスやナチュラルアナログの論理や手法の展開, また, 地層への4次元物性組み込みの論理の展開, すなわち地盤スケールの物性を求めること, 広域かつ長期の時系列データから自然の地盤特性を評価すること, そして人工改変の自然への影響を予測するために, 自然現象の変化を, 広域かつ同時に把握するツールの開発などがある.
論文
  • 加藤 弘徳, 千木良 雅弘
    2009 年 50 巻 3 号 p. 140-150
    発行日: 2009年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     四国中部において東西方向の中央構造線南側に平行する法皇山脈には山体重力変形が生じている. 変形は同構造線に沿う約20kmの区間にわたって断続的に発生しており, そのうち複数の区間では山上凹地の発達が認められる. 中央構造線側の山脈北側斜面には脆弱な泥質片岩が流れ盤構造をなして分布し, 中央構造線の南側の相対的な隆起運動に伴い, この流れ盤斜面が重力作用により不安定化し, 斜面が全体的に北に移動するように変形している. 一方で, 一般に高角断層とされてきた中央構造線は山体変形箇所の下方で特徴的に南緩傾斜となっている. これは, 山体変形に起因する荷重が作用した状態で南側隆起の断層運動が生じ深部の高角断層が地表付近で緩傾斜化して出現し, 衝上断層となっているためと推定される. このように, 山体重力変形と中央構造線の断層運動およびそれに伴う山体の隆起は相互に関係している. 山上凹地の内部に分布するかつての湖沼堆積物の構造および年代測定結果から, 山体変形は今から5万年以上前にはすでに発生し, 山上には湖沼が形成されたが, 今から4.5万~2.4万年前の間に湖沼は決壊し, 現在の地形が形成されたことが明らかになった.
報告
  • ―福岡県西方沖地震を例に―
    黒木 貴一, 磯 望, 後藤 健介
    2009 年 50 巻 3 号 p. 151-159
    発行日: 2009年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     2005年福岡県西方沖地震により福岡市市街地では各所で道路や建物などの構造物に多くの被害が生じた. 本研究ではその地震でさまざまな構造物に生じた亀裂の観察方法と解析方法を工夫し, GISで被害分布図を作成した. 市街地で見られた亀裂の程度と開口量を7階級に読み替え被害程度のドットマップとし, さらにGIS解析でドットマップから被害分布図を作成した. その図と地質・地形条件との関係を検討した結果, (1)地震被害は基盤深度の深い海岸付近, 警固断層の東側,埋没谷で大きく, 基盤深度の浅い地下の基盤の高まりや丘陵地近傍で小さい, (2)地震被害は段丘,自然堤防,沖積低地で小さく, 海岸付近の地形(戦後の埋立地, 海岸低地, 砂丘)や丘陵地で大きいことが示された. したがって, 亀裂に着目した本手法による被害分布図はある程度の客観性を持つと考えられる.
短報
  • 竹村 貴人, 斉藤 奈美子, 池野 順一, 高橋 学
    2009 年 50 巻 3 号 p. 160-164
    発行日: 2009年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     近年の急速な産業技術の発展に伴い, レンズやシリコンウェハなどの先端材料の精密加工の需要が非常に高まっている. そのような背景のもと, 砥石は物作り産業をはじめとする産業技術の基盤を支える重要な道具の一つであることはいうまでもない. しかしながら, 天然砥石の合砥と呼ばれる仕上げ砥は, 未だに人工的に造られた人工砥石よりも優れた研削性能を持つものもあるとされており, 現在でも日本刀や和包丁など刃物の研ぎ師が好んで使っている. ここでは, このように優れた研削性能を持つ天然砥石, とくに合砥に関する情報を人工砥石に取り入れることを目的として, 合砥の内部構造の特徴を応用地質学的な視点を交えてまとめた. その結果, 質の高いとされる合砥はサブミクロンオーダーの空隙が多く存在していることが明らかになった.
論説 連載特集 環境問題への挑戦(最終回)
  • 大野 博之
    2009 年 50 巻 3 号 p. 165-176
    発行日: 2009年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     環境問題に対処する場合, 総合的な把握・判断が必要となる. 資源・エネルギーから食糧問題, そして, 出口の廃棄物問題のように, 全体の流れを考えることは, 持続的な社会環境を構築していくうえで重要となる. このために, 地質学に携わる者にどのようなことができるのか考察した.
     近年, 防災と環境問題とが, 気候変動などの関係から, 密接にリンクしてくるようになってきた. 災害に伴い発生する環境破壊, その逆に, 環境変化に伴う災害の多発, などがその例である. こうしたことを理解し, 人間と環境にとって総合的に判断してプラスとなることを具体的に実行するためには, 数十年単位の長期的な視野に立ち教育から考えていかなければならないこと, そのために, 根本的に何を教えるべきかを示した.
     さらに, 現象論・物性論・方法論を基にした実践的観点からのアプローチについて論じた. われわれは, 最大多数の最大幸福を目指し, 応用生態学的視点と環境経済学的視点を取り入れ, そのうえで, 時間と空間の四次元的な思考に立った複雑系の概念を取り入れて, 地域の環境問題に対応するべきことを示した.
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