カイコの劣性遺伝子
Grcolホモの個体で形成される卵の卵殻は著しく異常で, 産卵後短時間で潰れてしまう。著者らはこの卵殻形成の特異性を明らかにするための一部として,
Grcol/
Grcolの蛾の卵管から卵を取り出し, 微分干渉位相差法ならびに組織学的手法を用いて卵殻の構造を観察し, その特異性を検討した。比較対照のための正常卵は, 同じ蛾区に分離する
Grcol+ の蛾の卵を用いた。
潰れ卵の表面には正常卵のような小瘤状卵殻堆から成る顆粒状構造はみられず, 正常卵の中層形成期の表面と同様な小さいひだ状の構造がみられた。また気孔は不規則に屈曲し, 正常卵に比べて長いものが多く, とくに腹面では著しかった。卵殻内には空隙がみられ, その分布状態は卵の部位によって差があり, 後端部には他の部位よりも小さいものが密集していた。
潰れ卵の卵殻の組織像では, A, B, C層の3層が識別された。この層状構造を正常卵の内, 中, 外層の3層と比較すると染色性と厚さからA層は内層に相当し, B層は中層に比べて薄いばかりでなく染色性が異なるが, 染色性から正常卵の中層形成期の卵殻と質的に類似していると判断した。しかしC層は極めて薄く, これに相当するものは正常卵にはみられなかった。
以上から,
Grcol/
Grcol個体では, 卵殻形成の中層形成初期に包卵皮膜組織の機能が異常になり, その後の中層と外層の形成がほとんど行われないものと思われる。また, 異常構造の卵の部位による特異性から,
Grcol遺伝子の作用によって現われる特異経過は, 包卵皮膜組織の機能の差によって異なることが示唆された。
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