薬物の効力のスクリーニングや食品添加物,食品に残溜する農薬などのような潜在毒性をもった化合物の安全性を試験する場合にマウス,ラット,モルモット,家兎,猫,犬などの実験勉物が使われ,これから得られるデータによって人間に医薬品として,食品添加物として有効であるか,あるいは安全に使用できるか,または残留農薬が人間に危険ではないかということを推論している.しかし薬物の効果や毒性が動物の種speciesはもち論,動物の系や性別,食餌,環境の変化,ストレス,室温などによって変わるという非常に大きな困難にわれわれは必ずぶつかるのである.著者はこのうち動物の種による違いについてここで述べている.薬物,食品添加物,残留農薬などは人間の身体にとって異物質で,これらが体内に入ると代謝されるが,その代謝運命がその生物活性を決定するのに重要な因子をなしている.すなわち異物質が体内に入った時,有効物質に代謝されて生物活性をあらわす場合と,逆に不活性物質に代謝されて排泄される場合がある.従って異物質の体内での代謝は作用の持続性や化合物の毒性と関連する.異物質は体内で化学的に酸化,還元,加水分解,合成反応を受けるが,これらは肝臓中に存在する薬物代謝酵素によってcatalyseされる.この薬物代謝酵素の量や性質が動物の種によって非常に異なっている.動物の種の差異によって(1)薬物が代謝される経路が異なる(2)薬物が正常経路によって代謝される割合が異なる(3)薬物が正常経路によって代謝されるが,同一薬物で代謝経路が異なるという3つの場合がある。経験上代謝経路の多くは数種の実験動物に普偏的であることが知られているから,(2),(3)の方が(1)より重要である.著者はこれらについて多年の研究を基礎に,実例をあげて説明し,実験動物と人間の薬物代謝を比較している.この研究は未だ充分解明されていないため,系統的なデータは不充分である.従って一般的法則は今後に残された興味ある問題である.
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