アクチノイドは,原子番号89から103まで,すなわちアクチニウムからローレンシウムまでの15の元素の総称であり,すべて放射性元素でもある.
近年アルファ放射線内用療法の核種として注目されているアクチニウムやトリウム,核燃料施設における内部被ばく対象核種のウランやプルトニウムなど,それらの生体内動態が様々な目的で研究されている.ウランはIII,IV,V,VI価の原子価を有し,生体内では主にVI価のオキソ酸,ウラニル(UO
22+,[O=U=O]
2+)として溶存し,腎臓や骨に濃集する.アクチノイドはいわゆる硬い酸であるため,オキソ酸の結合以外の配位座にはカルボキシ基やリン酸などの酸素原子を含む官能基が配位する.しかしながら,生体内に存在する炭酸イオンなどの無機配位子,タンパク質などの有機配位子との化学的相互作用メカニズムなどのミクロスケールでの研究例は少ない.
近年,分析装置の高感度化に伴い,アクチノイドと有機配位子との局所構造解析が生体内条件に近い反応場で研究されている.ホスビチン(phosvitin)は,タンパク質分解によって切断されたリポリン糖タンパク質で,全卵黄リンタンパク質の60%を占め,大量に存在するリン酸基と鉄の相互作用が極めて強いと言われている.Kumarらは,ホスビチンとウラニル(VI),ネプツニル(V)(NpO
2+)の化学結合状態を紫外可視吸光分光,時間分解レーザ蛍光分光法(time-resolved laser-induced fluorescence spectroscopy: TRLFS),全反射フーリエ変換赤外分光法,X線吸収分光的手法(X-ray absorption spectroscopy: XAS)を用いて明らかにしたので紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Kumar S.
et al.,
Chem.
Eur.
J.,
25, 12332-12341(2019).
2) Younes A.
et al.,
Metallomics,
11, 496-507(2019).
3) Wang X.
et al.,
Nat.
Commun.,
10, 2570(2019).
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