本会名誉会員 辻章夫先生が2023年7月15日に93才でご逝去されました。
辻先生は民間企業、厚生省国立衛生試験所勤務を経て、創設された昭和大学薬学部薬品分析化学の教授に就任、薬学としては草分けの臨床化学分析研究に参画し、長く専念されました。その間、ニューヨークのアインシュタイン医科大学へ留学され、イムノアッセイの技術を学ばれました。帰国後、蛍光、化学発光、生物発光反応を酵素活性の検出に用いる酵素イムノアッセイ(EIA)を開発され、血液1滴から分析できる甲状腺刺激ホルモンやサイロキシンなどのEIAを考案し、これらは我が国の先天性代謝異常症の新生児マススクリーニング法に適用され、現在全国レベルで実施されています。晩年には、薬学教育協議会7代会長として薬学部6年制学生の長期病院実習・薬局実習の構築に向けて貢献されました。
先生には報文185報、総説96報、著書41冊があり、内外の開催学会は数多く、これらの業績により1982年日本分析化学会学術賞、1994年日本薬学会学術賞、1996年紫綬褒章、2001年勲三等旭日中綬章を受賞されております。
私は駆け出しの頃、辻先生編纂の単行書「LC-けい光分析」(講談社)の一節を書くように誘われ、そこで学んだ知識を基に、「HPLC-化学発光検出法」を開発でき、私にとって研究上の恩人と言うべき方であり、当時から柔和な表情で他人の話に耳を傾けておられた先生を懐かしく思い出します。
愛弟子の荒川秀俊先生(昭和大学名誉教授)によれば、先生は絵画を趣味とし、制作された水彩、油絵、水墨画などは、銀座でのグループ展やフランス美術館での展示などに出品されたとのことです。先生のご冥福を心よりお祈りいたします。
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