ファルマシア
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51 巻, 2 号
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目次
オピニオン
  • 山田 静雄
    2015 年 51 巻 2 号 p. 87
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    近年,国民の4人に1人が65歳以上の高齢者である我が国において,医療費を含む社会保障費は高騰しており,セルフメディケーションの普及に伴い,健康増進や疾病の予防・治療を目的とした健康食品・サプリメント・漢方薬などを用いた補完代替医療や,統合医療への関心が高まっている.欧米では,補完代替医療としてハーブ類などの植物製剤を医療の現場に積極的に活用するようになり,医療における「先祖返り」的傾向が見られる.西洋医学の祖,ヒポクラテスは「汝の食事を薬とし,汝の薬は食事とせよ」(“Let food be thy medicine, and medicine be thy food”)という格言を残しているが,実際には「薬」と「栄養・食品」に関する学問分野は独立して発展してきた.
    しかし,今や両分野の和合による病気の予防や治療,健康回復・増進に資する,薬学と栄養学・食品機能学の相互理解に関する研究の必要性が高まってきている.現在使用されている薬の60~70%は,食用植物,果実,野菜,ハーブ類,微生物や発酵物などに由来している.“Best sold and registered drug”として100年の歴史を誇るアスピリンの発見は,紀元前にヤナギの枝や樹皮エキスを飲物としたこと(「食」から「薬」)に始まり,世界的な健康飲料の緑茶は炎症や創傷などの治療の伝統的な医薬としたこと(「薬」から「食」)がその起源である.
    様々な生体機能が低下している高齢者における多因性関連疾患(生活習慣病など)では,複数の標的部位や経路を考慮したアプローチが重要であり,これには複数の物質による併用療法が必要となる.新研究領域として,「薬」と「栄養・食品」のシナジー(相乗)効果の研究など機能性食品を中心とした薬学の発展が期待される.
    静岡県立大学では,2012年度から大学院を改編し,薬学と食品栄養科学の学際的領域における人材育成を担う「薬食生命科学総合学府」を設置し,薬食生命科学専攻(博士3年)を新設した.また2013年11月には,大学院薬学研究院の附属施設として「薬食研究推進センター」を開設した.本センターは,健康科学の発展および健康長寿社会の実現に寄与することを目的とし,学術的な基礎研究に加え,地域の医療施設と連携して,患者視線で医薬品のより良い(有効性を高め副作用を低減する)使い方や,新たな機能性食品の開発につなげるための橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)を実施する.基礎科学および臨床医学の基盤に立脚した客観的な評価が期待されている.また,医師・薬剤師などの医療専門職や一般消費者への「薬」と「食」に関する確かな情報の提供ならびに,「薬」と「食」に精通した実践力のある医療専門職および研究者の養成への支援も指向している.センターでは現在,主として前立腺肥大や過活動膀胱などの排尿障害に焦点を当て,医薬品の適正使用や新規機能性食品・素材の開発を目指した基礎研究および臨床研究を展開している.また,そうした研究を通して高齢者の排尿ケアには医・薬・食・看の多職種連携によるチーム医療が不可欠となることから,融合型人材の育成支援を目指している.
    医学・食品栄養科学(農学)領域との連携により,医薬品と食品を融合した新領域研究によるライフサイエンスにおけるイノベーションの実現が期待される.
Editor's Eye
挑戦者からのメッセージ
  • 栗原 堅三
    2015 年 51 巻 2 号 p. 95-98
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    私が北大薬学部に在籍していた頃,研究室の共通テーマは神経と感覚であった.教室員はこの範囲で,各自が独自の好きな研究を行っており,それなりの成果を挙げていた.教授はお金を持ってきて,教室員には自由に研究させると言えばかっこいいが,要は研究室をあげて1つのテーマで統一した研究をやらせるだけの実力と指導力がなかったのに過ぎない.
    そんな中で,ここに取り上げる「うま味」は,私が大学院の学生諸君と一緒にやった研究である.うま味が世界のUMAMIになるまでには,私以外の多くの優れた研究者が貢献してきたが,ここでは私たちの研究を中心に話を進めさせていただきたい.
    うま味物質は,グルタミン酸(コンブ),イノシン酸(カツオブシ),グアニル酸(干しシイタケ)の3者である.実はそれぞれの単体のうま味はそれほど強くないが,グルタミン酸とイノシン酸またはグアニル酸を混合すると,大きな相乗作用が働き,5倍も6倍もうま味が強くなる.
    ところで,コンブの「だし」には,グルタミン酸とアスパラギン酸(グルタミン酸より弱いがうま味を持っている)が圧倒的に多く,他のアミノ酸はごく微量しか含まれていない.コンブ「だし」は純粋なうま味溶液と言える.また母乳にはグルタミン酸が含まれているが,その含量は突出しており,なんとコンブ「だし」のそれとほぼ同程度である.
セミナー
  • 片山 勉
    2015 年 51 巻 2 号 p. 099-103
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    正常な細胞の増殖には,染色体の複製と均等分配が必要である.これらの制御は,初期発生の過程でも重要であり,この過程での異常は,染色体異常や不妊(発生異常)の原因ともなると考えられている.例としては,まずダウン症候群に代表される,染色体の数が異常となる染色体異数性による疾病が挙げられる.ダウン症候群では21番染色体が細胞あたり3本保持されている.性染色体の異数性による疾病も知られている.他の染色体の異数性は多くが発生途上で致死性となり,不妊の原因となる.また多くのがん細胞は染色体異数性を持っており,これによる遺伝子制御の異常ががん化促進に関与する可能性が検討されている.このような染色体異常の起因を明らかにするには,DNA複製と分配の制御機構を詳細に解明することが重要となる.
    近年,染色体の複製と分配とをつなぐ分子機構の重要性が明らかになってきた.つまり,染色体の複製の過程の中に,分配機構の初期の過程が含まれている.そして,これらの過程の共役が欠損すると,正常な分配が阻害されてしまうのである.ここでいう分配の初期過程とは,新生DNA領域の接着である.新生DNA領域の接着は,原核生物である大腸菌からヒトを含む真核生物にわたって,広く保存されている共通原則といえる.しかしながら,DNA複製と共役したDNA接着・分配の分子機構については,未踏の領域が広く残されている.本稿においては,まずDNA複製の分子機構を最新成果も交えつつ基礎から説明して,大腸菌で見いだされた新生DNA接着の新たな分子機構を解説したい.
話題
  • その背景と基本理念について
    三島 和夫
    2015 年 51 巻 2 号 p. 104-108
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    睡眠障害は臨床場面で最もよく遭遇する疾患の1つであり,なかでも不眠症はその代表格である.不眠症状の大部分は一過性で自然消退する.ただし1か月以上持続する慢性不眠症は難治性である. 慢性不眠症患者の70%では1年後も不眠が持続し,約半数では3~20年後も不眠が持続するといわれる.また慢性不眠症患者は,薬物療法などで一旦寛解してもその半数は再発する.必然的に睡眠薬は長期使用かつ高用量となりがちである.実際,国内で睡眠薬を長期服用する患者は増加しており,1日当たりの服用量も増加傾向にある.それだけに,中長期的な治療ビジョンを持ち,治療開始当初からリスク・ベネフィットバランス比を考慮しながら慎重に処方すべき薬剤である.特に,治療途中で薬効や副作用を適宜評価することなしに漫然と睡眠薬の長期処方をすることは,厳に戒められるべきである.
最前線
  • 星 和人, 西澤 悟, 髙戸 毅
    2015 年 51 巻 2 号 p. 109-113
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    再生医療という新たな治療方法が初めて新聞などで紹介されたのは1997年のことである.チャールズ・バカンティらの研究グループによるヒトの耳介を背中に埋め込んだマウスの写真は見る者に強烈なインパクトを与えるものだった.生体から採取した細胞から人工的に新たな組織を作製するというコンセプトの「再生医療」は当時,失った臓器を人工的に再生できる夢の技術として認知された.そして実際に臨床応用されるのは,近い将来のことだと受け取られていた.しかし,再生医療が実現するまでに超えなければならないハードルは予想以上に高く,2007年に国内における最初の再生医療製品「人工培養上皮ジェイス」が保険診療として認可されるまでに10年を要した.これをきっかけとして,新たな再生医療製品の認可が続くかと思われたが,現在までに国内登録された再生医療製品はジェイスのほか,2製品のみにとどまっている.
    再生医療を臨床応用するために検討しなければならない課題として,「細胞」「分化」「足場」の3つのキーワードがある.「細胞」は必要な質および量の細胞をどのように確保するかという課題である.例えば,肝臓サイズの再生組織を作製するためには数十~数千億オーダーの細胞が必要となる.しかし一般的に,人体から採取可能な細胞量は多くとも数百~数千万オーダーであるため,採取した細胞を培養して千倍以上に増殖させることが必要となるが,細胞の種類によって,また採取したドナーによって最適な培養条件は異なる.さらに一般的に細胞の分裂回数には上限があり,一定回数分裂するとそれ以上は増殖しない.そのため,この課題を解決することは容易ではない.
    細胞を生体外で人工的な方法で培養すると,分裂を重ねる度に細胞の持つ特性が喪失して未分化な状態に変化する「脱分化」と呼ばれる現象が生じる.脱分化した細胞を再生組織の細胞源に用いると,高品質の再生組織を作製することができない.そのため脱分化した細胞を再生組織の細胞源に用いる場合には,「再分化誘導」と呼ばれる方法で喪失した細胞特性を取り戻す必要がある.つまり「分化」は,脱分化を防ぐ培養法および再分化誘導法を開発するという課題である.「足場」は細胞の接着や増殖,分化を促して再生組織の形状や構造を保持するためのバイオマテリアルをどのように設計するかという課題である.足場素材の成分や構造,形状が再生組織の特性に大きな影響を持つことが知られている.再生医療を実現するためには,これらの3要素全てを極めて高いレベルで実現化する必要があり,再生医療が実現するまでに非常に多くの時間を要する一因となっている.
最前線
  • 梶原 康宏, 坂本 泉
    2015 年 51 巻 2 号 p. 114-119
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    近年,糖鎖が結合したタンパク質,すなわち糖タンパク質がタンパク質製剤として広範に利用されるようになった.特に,エリスロポエチン,インターフェロン-β,そしてヒト型抗体などは,その活性発現に糖鎖が必要不可欠である.製剤に利用される糖タンパク質は,チャイニーズハムスターの卵巣(CHO)細胞を利用する発現法で調製される.しかし,この方法で糖タンパク質を発現すると,タンパク質部分の3次元構造は,ほぼ同じであるが,糖鎖構造については,糖の数,分枝数などが異なる構造異性体の混合物となる.この糖鎖に生じる構造不均一性は,ゴルジ装置内での糖鎖生合成が非遺伝子制御で進むことに原因がある.糖鎖の機能やその生合成過程は,未だ完全には理解されておらず,関連する研究は展開され続けている.
話題
  • 御影 雅幸
    2015 年 51 巻 2 号 p. 120-124
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    漢方薬が国民医療の一端を担うようになって久しく,今日では多くの医師が漢方薬を処方するようになった.最近では,種々の点でメリットがあるエキス剤の使用が一般的になり,多くのエビデンスが発表されるようになり,漢方薬の需要がますます高まってきている.一方で,原料生薬価格の高騰,輸入生薬の品質の低下,国内生産の必要性などが議論されるようになったことに加え,生薬を正しく鑑別し,品質の是非を判断できる人材が少なくなり,後継者も育っていないことが指摘されるようになった.このたび,こうした状況に危機感を抱いた医師・薬剤師・関連企業有識者など,生薬に関わる有志が集い,日本漢方生薬ソムリエ協会(Japan Kampo Shoyaku Sommelier Association:JKSSA.以下,本協会.http://www.kampo―sommelier.jp/)を発足させた.
話題
  • 三輪 高喜
    2015 年 51 巻 2 号 p. 125-129
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    嗅覚と味覚は人間の五感を構成する感覚であるが,視覚や聴覚ほど重要視されていない.視覚を失えば外出はもちろんのこと,室内の移動でさえも思うにまかせず,聴覚を失うと人とのコミュニケーションに支障を来す.それに対して嗅覚や味覚は,目の前の人がその感覚を失っていてもそれに気付くことはない.嗅覚障害患者の中には,何年も自分自身の嗅覚がないことに気付かない人も少なからず存在する.多くの患者は,いつから嗅覚がないかと尋ねても,明確に答えられないのである.しかし実は,嗅覚は生命維持にとっては大変重要な機能を有している.本稿では,我々の生活の中での嗅覚の役割を述べるとともに,どのような状況でこれらの感覚を失うのか,また,これらの感覚を失うとどのような支障を来すかなどについて述べる.
話題
  • 吉田 都, 内田 享弘
    2015 年 51 巻 2 号 p. 130-134
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    味覚は,動物の五感の1つであり,食する物質に応じて認識される感覚である.味については,甘味,酸味,塩味,苦味およびうま味の5つが基本味に位置付けられる.この五味は,口の中に存在する味蕾と呼ばれる感覚器官で感じている.
    一方,多くの経口投与製剤および口腔内投与製剤のコンプライアンスを低下させる最大の要因は医薬品の苦味であることから,苦味を含めた薬剤の味について,それらを数値化することによって客観的評価を行い,製剤の味の改善を行うことが重要である.味覚センサーは,味を数値化し,客観的評価を行う上で有望なツールであり,再現性,倫理面などの点で問題があった従来の味の評価方法である官能試験の代替となり得ることも期待されている.
    味覚センサーとしては,味認識装置TS-5000Z(インテリジェントセンサーテクノロジー社)と電子味覚システムαASTREE(アルファ・モス社)が市販されている.これらの装置は,複数の異なるセンサーを使用し,味物質と各センサーとの相互作用で生じた電位変化を電位差として出力して味の評価に使用する点では同じメカニズムの装置であるといえるが,使用されるセンサーの測定原理やアプリケーションが異なる.武庫川女子大学薬学部臨床製剤学研究室では両装置を所持しており,2000年に医療用医薬品原末の苦味の定量的評価について報告して以来現在に至るまで,様々な医薬品およびその製剤についての味の評価について報告を行っている.本コラムにおいては,当研究室で行った両装置を用いた医薬品の味評価の代表的事例について述べたい.
話題
  • 変貌する医療のフロントエンド
    漆原 尚巳
    2015 年 51 巻 2 号 p. 135-139
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    神聖ローマ帝国皇帝は,西暦1240年に発布した薬剤師大憲章にて,薬剤師の職能を「医師の処方せんに基づき調剤された医薬品が正しく効果を有し安全な物質であると保証する事」と定め,これにより医薬分業が確立したとされている.以降,医薬品としての品質保証を目的に,医薬品そのものの性質を深く突き詰め情報を収集すること,つまり情報の深化が重要であった.しかし,今や社会は,医薬品に関する専門知識だけでなく,医療と健康にまつわる広範な情報を患者の治療の最適化に活用する責務が薬剤師にあることを当然の前提として受け止めつつあり,そして一般国民の健康管理と公衆衛生に資するために情報を創出し,それを水平展開し得る能力を薬局薬剤師に要求する新たな時代へと向かいつつある.
話題
  • 今井 真介
    2015 年 51 巻 2 号 p. 140-142
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    最初に人を笑わせ,そして考えさせる研究に贈られるイグ・ノーベル賞を2013年に受賞したが,その対象研究が「タマネギ催涙因子合成酵素(lachrymatory factor synthase:LFS)の発見」であった.
    タマネギを切ると涙が出てくることは誰もが知っている現象であり,催涙性因子(lachrymatoryfactor:LF)が生成する反応機構に対して,疑いを抱く研究者は筆者も含め誰もいなかった.しかし,トラブルの原因究明という全く別の研究を行っている過程で,LFの生成に必須の酵素が見逃されていると気付き,幸運にもこのLFSを発見するに至った.LFSはタマネギ中に多く含まれているタンパク質の 1 つで,誰にでも精製やクローニングは可能であった.そのため,論文が掲載された後「old-fashioned biochemistryを使った研究で新しい物が見付かった」とNatureのNews Blogで紹介していただいた.
    研究過程で遭遇する予想外の実験結果に興味を持ち,少しだけ余計な実験をしてみると,思いがけない発見があると感じた.そんな経験をここではご紹介したい.
話題
  • 安原 智久, 河野 武幸, 荻田 喜代一
    2015 年 51 巻 2 号 p. 143-148
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    全国の薬学部で教育改革が大きく動いている.2014年度から本格実施となった薬学教育評価(第三者評価)と改訂薬学教育モデル・コアカリキュラム(改訂コアカリ)の適用が2015年度に迫っていることが直接にして最大の要因であることは論をまたない.これらの「黒船」に追われて,教育の在り方を見直し改革を行うというのはいささか後ろ向きかもしれないが,学部教育の在り方を抜本的に見直すまたとないきっかけでもある.とにかく,第三者評価のため,改訂コアカリ対応のためと教育制度改革を進めていくことが求められている風潮があるが,形式を気にした他者に見せるための制度を作っても形骸化されて徒労感が残るだけであろう.どうせ苦労して作るのであれば,学生の人生に価値ある貢献を成し得る想いを込めた教育体制を作った方が,大学も,そこに勤める教職員も,そこで学ぶ学生も幸せになれるのではなかろうか.そのような気持ちで本原稿を執筆させていただきたい.また,教育の論理を専らとされない方にも読み飛ばされないように,ざっくばらんに述べようと思うので失礼な表現もあるかもしれないがご容赦いただきたい.
FYI(用語解説)
  • 片山 勉
    2015 年 51 巻 2 号 p. 149_1
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    CrfCは大腸菌の姉妹染色体の均等分配に必要なタンパク質である.DNA複製により新生された娘DNA鎖は,まず相互に接着する.次いで,一定時間後,分離して両方向に移動し,姉妹染色体が均等分配される.CrfCは新生DNA鎖の接着と移動の過程に働く.クランプはDNA複製装置の部品となるタンパク質であり,複製過程で他の部品から離れて新生DNA上に「足跡」のように残される.CrfCはクランプに結合して,「かすがい」のような役割で新生DNA鎖同士を接着させる.また,CrfCは新生DNA鎖上のみならず,新生DNAの移動先となる部位にも局在している.移動先のCrfCの機能は未解明である.
  • 梶原 康宏, 坂本 泉
    2015 年 51 巻 2 号 p. 149_2
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    水溶液中で無保護ペプチドが連結できる方法である.1994年にDawson,Kentらによって報告され簡便な方法としてタンパク質化学合成に用いられている.NCLは一方のペプチド鎖のC末端に導入されたチオエステル基と,他方のペプチド鎖のN末端に導入されたシステイン残基側鎖のチオール基が,チオエステル交換反応を起こし,2つのペプチドが連結後,続く分子内アシル転位を介して2つのペプチド鎖が天然のペプチド結合で縮合する方法である.
  • 漆原 尚巳
    2015 年 51 巻 2 号 p. 149_3
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    電子カルテに始まる医療の情報化は,国の重点施策として官邸を中心に2000年代初頭より推進されてきた.どこでもMy病院構想とは,健康に関わる情報を電子化し,個人の健康維持と向上のために役立てるストレージとなるPersonal Health Record(PHR)を構築し,その上で,個人が自らの医療・健康情報を電子的に「預けたり」「引き出したり」して,全国のどこの医療機関でも過去の診療情報に基づいた医療を受けられることを可能にするサービスをいう.これにより,別の病院で受けた治療内容を正確に伝えることができるため,シームレスな地域連携医療が実現でき,かつコスト低減にもつながる.既に電子おくすり手帳,電子糖尿病連携手帳などの取組が始まっている.
  • 安原 智久, 河野 武幸, 荻田 喜代一
    2015 年 51 巻 2 号 p. 149_4
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    学習成果基盤型教育では,各学習段階での学習者のパフォーマンスを設定し,到達を評価しなくてはならない.しかし,ある特定の文脈のもとで学習者自身の作品や実演を直接に評価するパフォーマンス評価は,評価基準と複数の専門家の鑑識眼を必要とし,また評価の性質上,一定の主観性を内包する.そこでパフォーマンスの質を段階的・多面的に評価するための評価基準表として,評価の観点(規準)と観点ごとのレベル(基準)からなるルーブリックが利用される.各マスの部分に記述語と呼ばれる学習者に求める行為・遂行を具体的な文章で表している.文章の記述に注意を払えば,被評価者と評価者の双方に評価の観点を可視化することが可能になる.
薬学実践英語
新薬のプロフィル
  • 岡 秀樹
    2015 年 51 巻 2 号 p. 154-155
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    月経に伴う症状の中で,月経開始前に発現する種々の症状については,1931年にFrankが月経前緊張症として初めて報告し,その後「月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)」と定義され,一般に知られるようになった.現在,日本産科婦人科学会では,PMSを「月経開始の3~10日位前から始まる精神的,身体的症状で月経開始とともに減退ないし消失するもの」と定義している.PMSの症状は200~300種類とも言われており,身体的症状として,乳房のはり・痛み,肌あれ・にきび,下腹部のはり,眠気または不眠,疲労倦怠感,頭痛,腰痛,むくみ,下腹部痛,のぼせなど,精神的症状として,イライラ,怒りっぽい,情緒不安定,憂うつ,落ち着かない,緊張感などがある.生殖年齢の女性の約70~80%は,月経前に何らかの症状を伴うとされている.
トピックス
  • 中村 光
    2015 年 51 巻 2 号 p. 156
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    不斉相間移動触媒を利用する反応は,医農薬品などの合成中間体を高い光学純度で得るために有用な手法で,一般に温和な条件で反応が進行し,後処理も簡便な操作であるため工業的に望ましい反応として知られる.1984年にメルク社は,シンコナアルカロイド型相間移動触媒(phase-transfer-catalyst:PTC)を初めて工業規模で活用し,不斉4級炭素を持つ医薬品中間体を合成した.最近安田らは,2つの4級アンモニウム基を有するシンコナアルカロイドPTCを開発し,反応性と選択性が飛躍的に向上したことを報告したので,以下に紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Dolling U.-H. et al., J. Am. Chem. Soc., 106, 446-447 (1984).
    2) Yasuda N. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 53, 8375-8378 (2014).
  • 三澤 隆史
    2015 年 51 巻 2 号 p. 157
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    細胞内においては複数のタンパク質が相互作用して様々な生理機能を発揮することから,近年タンパク質間相互作用の制御は創薬ターゲットの1つとして注目されている.しかしながら,タンパク質間相互作用を制御するためには,①タンパク質間の相互作用界面の面積が広い場合,小分子では十分な阻害活性が得られない,②ペプチド等の大きな分子を用いるとその膜透過性や物性が悪化する,などの問題点が残されており,医薬品を創出するという観点からは,いまだ挑戦的な課題である.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Arora P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 111, 7531-7536 (2014).
    2) Arora P. et al., Org. Lett., 12, 1588-1591 (2010).
  • 前嶋 一宏
    2015 年 51 巻 2 号 p. 158
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    マンゴスチン(Garcinia mangostana L.)は東南アジアで栽培される果樹で,非常に美味であることから「果物の女王」と呼ばれている.タイでは,古くから紫色の果皮を民間薬として皮膚感染症,外傷,赤痢,下痢などに用いてきた.果皮にはα-マンゴスチン(図1)に代表されるキサントンが豊富に含まれるほか,ベンゾフェノン,フラボノイド,アントシアニンなどの化合物が含まれることが報告されている.水に難溶性であるα-マンゴスチンの生物活性については多くの報告があり,現在までに抗炎症作用,抗腫瘍作用,抗酸化作用や抗菌作用などが知られている.マンゴスチン果皮の水溶性成分の機能性についても,種々の神経細胞を用いたin vitroin vivo試験において,酸化ストレスに対する神経保護作用が報告されている.今回,Moongkarndiらによってα-マンゴスチンおよびマンゴスチン果皮抽出物の水溶性画分のヒト乳がん由来細胞SKBR3に対する活性が報告されたので紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Obolyskiy D. et al., Phytother. Res., 23, 1047-1065 (2009).
    2) Weecharangsan W. et al., Med. Princ. Pract., 15, 281-287 (2006).
    3) Moongkarndi P. et al., J. Pharm. Pharmacol., 66, 1171-1179 (2014).
    4) Kosem K. et al., J. Nat. Med., 67, 255-263 (2013).
  • 張替 直輝
    2015 年 51 巻 2 号 p. 159
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    近年,病院の緊急検査や設備の少ない診療所などで,前処理や測定が簡単で短時間に行える臨床現場即時検査point of care testing(POCT)が取り入れられている.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Notomi T. et al., Nucleic Acids Res., 28, E63 (2000).
    2) Zhang Y. et al., Anal. Chem., 86, 7057-7062 (2014).
    3) Tomita N. et al., Nat. Protoc., 3, 877-882 (2008).
  • 森内 将貴
    2015 年 51 巻 2 号 p. 160
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    近年,我が国において食生活の欧米化や身体活動量の低下に伴い,肥満と2型糖尿病患者が急速に増加している.したがって,これら疾患の病態形成およびその制御機構の解明は極めて重要である.肥満や2型糖尿病の発症の根底には,血糖値調節に重要なインスリンの末梢組織における効果の低下,いわゆる“インスリン抵抗性”の寄与が大きいことから,多くの研究者がインスリン抵抗性のメカニズムを解明し,それらを標的とした治療薬の開発を目指しているのが現状である.近年,インスリン抵抗性の発症や増悪を引き起こす因子として,炎症が注目されるようになった.例えば,肥満に伴って脂肪細胞より分泌されるTNFαなどの炎症性サイトカインは,末梢組織におけるインスリン抵抗性を惹起する.また,免疫細胞の1つであるマクロファージが,2型糖尿病患者の脂肪細胞や膵島細胞に集積し,炎症を増悪することでインスリン抵抗性を引き起こす.したがって,肥満や2型糖尿病患者における炎症制御機構を理解することは,これらの疾患の予防または治療薬開発につながる重要な研究となる.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Osborn O. et al., Nat. Med., 18, 363-374 (2012).
    2) Wang L. et al., Nat. Med., 20, 484-492 (2014).
    3) Rulifson et al., Science, 296, 1118-1120 (2002).
    4) Wang L. et al., Diabetes, 59, 3117-3126 (2010).
    5) Tracey K. J. et al., Nat. Rev. Immunol., 9, 418-428 (2009).
  • 齋藤 僚
    2015 年 51 巻 2 号 p. 161
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    神経細胞は,樹状突起や軸索と呼ばれる形態および機能の異なる2種類の神経突起を有している.近年,神経細胞では細胞体のみならず,神経突起においても局所的なmRNAの翻訳が行われることが明らかになり,このような局所翻訳が,細胞内コンパートメントにおける遺伝子発現の調節を可能にすると考えられるようになった. 神経細胞における局所翻訳は,シナプス形成や軸索ガイダンスに寄与する一方,同機構の破綻が精神発達症や神経変性疾患など,種々の疾患発症に関与する可能性が示唆されている.しかしながら,mRNA顆粒の輸送障害をはじめとした詳細な局所翻訳の破綻機構は未だに解明されていない.本稿では,Alamiらによって報告されたDNA/RNA結合タンパク質TDP-43の変異によるmRNA顆粒の軸索輸送動態の異常と,筋萎縮性側索硬化症(ALS)発症への関与について紹介したい.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Martin K. C., Cell, 141, 566-568 (2010).
    2) Jung H. et al., Cell, 157, 26-40 (2014).
    3) Alami N. H. et al., Neuron, 81, 536-543 (2014).
  • 青木 明
    2015 年 51 巻 2 号 p. 162
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    肥満とは,身体に脂肪が過剰に蓄積した状態であり,2型糖尿病や心血管疾患などの病気を誘引することが知られている.近年,肥満は世界的規模で増加の一途をたどっており,その主な要因はエネルギー過多な食事と運動不足であり,また遺伝的背景も関与している.しかし,そのような要因だけでは現状の世界的な肥満の流行を説明付けるには不十分であるとの指摘もあり,その要因の1つとして化学物質曝露による影響が考えられている.実際,トリブチルスズやジエチルスチルベストロールといった化学物質は,直接肥満リスクを増加させる“Obesogen”となり得ることが知られている.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) McAllister E. J. et al., Crit. Rev. Food Sci. Nutr., 49, 868-913 (2009).
    2) van Esterik J. C. et al., Toxicology, 321, 40-52 (2014).
    3) Tyl R. W. et al., Toxicol. Sci., 104, 362-384 (2008).
  • 田中 紫茉子
    2015 年 51 巻 2 号 p. 163
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    薬物代謝酵素シトクロムP450(CYP)は,代謝過程における薬物相互作用の約96%に関与していると推察されている. CYPの活性には遺伝子多型や性別,年齢などによる個人差が存在し,併用薬との相互作用によりその活性が変動することが知られている.そのため,薬物の体内動態を大きく変化させ,安全で効果的な薬物治療を行うことを難しくしている.したがって,CYP活性を評価することは最適な薬物治療を行う上で有用な情報を与えると考えられる.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Michalets E. L., Pharmacotherapy, 18, 84-112 (1998).
    2) Bosilkovska M. et al., Clin. Pharmacol. Ther., 96, 349-359 (2014).
    3) 医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン (最終案) (2014).
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