ファルマシア
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54 巻, 9 号
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目次
  • 2018 年 54 巻 9 号 p. 834-835
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    特集:どうにも止まらない,AIと創薬,医療の関係
    特集にあたって:ディープラーニングを皮切りとする「第3次AIブーム」以降,AIに関する多種多様な新技術が開発され,産業応用の拡大が図られてきている.医療・創薬についても例外ではなく,IT関連企業のヘルスケア参入や海外メガファーマとAI創薬ベンチャーとの大型提携などのニュースは枚挙に暇がない.また,国内では実効性の高いAI創薬技術基盤を構築すべく,産学によるコンソーシアムが設立された. 本特集では,医療・創薬分野におけるAI活用に関する最新の知見と動向をご紹介いただくとともに,AIによって何が可能になったのか,何がまだできないのか,今後何が期待されるのかを俯瞰することにより, AIと創薬・医療の今後のあり方を考えるきっかけとしたい.
    表紙の説明:医療・創薬分野へのAI技術活用の波は留まるところを知らない.それは,創薬研究の初期から開発,診断・診療,治療・処方最適化まで多岐にわたる.本特集号ではその中から一部ではあるが,最新の情報をピックアップしてご紹介いただく.
オピニオン
Editor's Eye
セミナー
話題
話題
最前線
話題
  • 大野 研, 松本 健太郎
    2018 年 54 巻 9 号 p. 859-861
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    人工知能(artificial intelligence:AI)とは「学習」「認識」「予測・推論」「計画・最適化」などの知的活動をコンピュータシステムによって実現する技術であり,ディープラーニング(deep learning:深層学習)は現在の第三次AIブームを支える中核技術と言える.ディープラーニングは2006年に提案されて以降,様々なコンペティションで従来法を凌駕する性能を示しており,ゲーム(将棋や囲碁など),画像認識,音声認識,翻訳,自動運転などの分野で劇的な進歩をもたらした.今回はディープラーニングの創薬研究における応用例について,我々が取り組んできた画像解析を用いた創薬スクリーニングを中心に紹介する.
最前線
  • データ統合による隠れた関係の発見
    村上 勝彦
    2018 年 54 巻 9 号 p. 862-866
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    次世代シーケンサーなど測定機器の発展を背景に,様々なタイプのデータが公的に蓄積され誰でも利用できる.これらを統合してAIが高度な知的処理をするには,データを知識に変換することが必要である.手作業での変換は大量データの場合コストがかかるため,これらを自動的に構築していくことが望ましい.ここでは,遺伝子と機能の隠れた繋がりを引き出し,関連性を知識として自動抽出する研究について紹介する.
話題
話題
話題
話題
話題
  • AIに医療は取って替わられるか?
    木村 通男
    2018 年 54 巻 9 号 p. 882-886
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    電子付録
    今回のAIブームは実は3回目で、2回目の80年代の時にも、医療職はAIに取って変わられるのではと言われた。 2回目のブーム以後、生き残ったシステムは画像認識、音声認識などで、処理能力、データの細緻化により、いま、花を咲かせつつある。 今回の技術的ブレークスルーはディープラーニングであるが、それによる診断には、根拠を示すことが難しい。問題はそれを患者が受け入れるかである。 一方、病気は患者の個性そのものであり、個性に対応することはまさに創造的な行為なのである。 これを念頭に、機械にできることは機械に任せ、新しい職能を常に探せ、と、前回のブームの際、30年前に賢者はすでに記している。
FYI(用語解説)
  • 富井 健太郎
    2018 年 54 巻 9 号 p. 887_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    局所性鋭敏型ハッシュ(locality sensitive hashing:LSH)は,元の(高次元)空間上で近接した2点に関する入力が高い確率で「衝突」するようなハッシュ化(ハッシュ関数あるいは要約関数と呼ばれる一定の計算手順に従い,元のデータをそれを代表する値に置き換え(マッピングす)ること)である.高次元空間上で2点が近接している場合に低次元空間でも高確率で近接するような射影の利用により,高次元の大規模データについて,わずかな割合のエラーを許しつつ近似的に高速な近傍探索が可能(ただし,大きな記憶容量が必要)となる.今回紹介した研究では,高次元特徴空間上で任意の超平面のどちら側に位置しているかにより0か1の符号を割り当てる操作を32回繰り返し,各結合部位を固定長のハッシュ値(長さ32のビットベクトル)にマッピングしている.
  • 大野 研, 松本 健太郎
    2018 年 54 巻 9 号 p. 887_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    CNN(畳み込みニューラルネットワーク)モデルは,脳の特性を模した数式モデルである人工ニューラルネットワークモデルの一種であり,画像認識の分野では最も多く利用されているディープラーニング手法である.一般的には,与えた入力データの特徴量を基に簡素化を行う「畳み込み層」と,それを大雑把にまとめて捉えていく「プーリング層」のデータ処理を繰り返すことで入力データの特徴量を学習し,最終的に全結合層と出力層を経てデータを分類・識別していく.特に画像認識においては様々な特徴を取り出して学習できるだけでなく,画像のノイズ,変形,移動に頑強であるなどの利点がある.
  • 深井 朋樹
    2018 年 54 巻 9 号 p. 887_3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    ネオコグニトロンはパターン認識を行う多層神経回路モデルであり,80年代に福島邦彦により提案された.ヒントを与えたのは,一次視覚野における単純細胞と複雑細胞の発見である.単純細胞は受容野の中心付近の特定の傾きを持つ線分に強く応答し,複雑細胞は線分の位置ずれを許容する.前者の特性は視覚入力と線分情報を抽出するフィルターを介する「畳み込み(元の画像から特徴を見付けて取り出す)」で表現され,後者の応答は受容野が異なる単純細胞の出力を空間平均することで実現できる.ネオコグニトロンはS細胞層による特徴検出とC細胞層による「プーリング(元の画像に対して重要な情報は残しながら粗視化する)」を交互に行い,手書き文字の認識などに広く応用された.また誤差逆伝搬やフィードバック同調といった学習法と組み合わされ,深層学習の発展を支えた.
  • 本間 光貴, 水口 賢司
    2018 年 54 巻 9 号 p. 887_4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    一般には時系列データを表す用語.分子動力学(molecular dynamics:MD)計算では,分子力場と運動方程式を解いて,分子の配座や分子間の配置が時間経過とともにどのように変化していくかをシミュレーションする.その結果,一定の時間間隔ごとにスナップショットと呼ばれる座標データが多数得られる.それらのスナップショット群は時系列データであるので,MDトラジェクトリーあるいは単にトラジェクトリーとも呼ばれる.
くすりの博物館をゆく
日本ベンチャーの底力 その技術と発想力
  • 日本初の遺伝子治療実用化を目指して
    平崎 誠司
    2018 年 54 巻 9 号 p. 894-896
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor:HGF)は血管新生作用を持つ。アンジェスはHGFによる虚血性疾患を対象とした遺伝子治療薬の開発に取り組んでいる。動脈硬化などを原因とした難治性の疾患で、有効な治療法のない重症虚血肢を対象としたHGF遺伝子治療薬について、2018年1月に国内で製造販売承認の申請を行った。新たな承認制度である条件及び期限付き承認の獲得を目指しており、実現すれば国内初の遺伝子治療の承認となる可能性がある。
トピックス
  • 稲垣 祥
    2018 年 54 巻 9 号 p. 898
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    ワッカー型環化反応はヘテロ環を含む生物活性天然物の合成に幅広く利用される.なかでもヒドロキシアルケンの不斉ワッカー型環化反応は,多様な光学活性オキサヘテロ環化合物を構築可能である.一方,アミノアルケンを利用した反応は限られた報告例しかない.このような背景下,Zhuらはキラルリン酸(chiral phosphoric acid:CPA)および不斉配位子共存下でのパラジウム触媒を用いた不斉アザ-ワッカー型環化反応を開発し,抗がん活性アルカロイド(+)-crinaneの短工程全合成へ展開したので,本稿にて紹介したい.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Bao X. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 57, 1995-1999(2018).
    2) Beniazza R. et al., Org. Lett., 9, 3913-3916(2007).
    3) Rueping M. et al., Chem. Eur. J., 16, 9350-9365(2010).
  • 進藤 直哉
    2018 年 54 巻 9 号 p. 899
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    シスプラチンなどの白金錯体はがんの化学療法剤として現在も広く利用されるが,DNAに作用するためがんと正常細胞間の選択性が低く,薬剤耐性もしばしば問題となる.一方,酸化還元反応などを触媒する遷移金属錯体を抗がん剤に応用できれば,従来の抗がん剤とは異なる新規な作用機序による薬剤耐性の克服や,抗腫瘍スペクトルの拡大といった利点が期待できる.近年こうした「触媒的メタロドラッグ」の研究が盛んであるが,今回Sadlerらはがん細胞内で不斉水素化触媒として機能する光学活性なオスミウム(Ⅱ)錯体1(図1)を合成し,細胞内代謝の重要中間体であるピルビン酸を乳酸へと還元する還元的ストレスによって,がん細胞の増殖が選択的に抑制されることを報告したので紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Coverdale J. P. C. et al., Nat. Chem., 10, 347-354(2018).
    2) Coverdale J. P. C. et al., Chem. Eur. J., 21, 8043-8046(2015).
  • 八木 瑛穂
    2018 年 54 巻 9 号 p. 900
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    有史以来,微生物や植物由来の天然物は人類の健康に大きく貢献し,臨床で使われている低分子医薬品の約6割が天然物由来の骨格やその作用機序に基づいて創られたものである.しかし,既存の探索方法では新しい天然物が見つかりにくくなっているのが現状であり,新しいアプローチが模索されている.近年,ゲノム解析技術の急速な進歩により,様々な生物の遺伝子情報が入手できるようになり,微生物においては,二次代謝産物生合成遺伝子群の多くが発現していない,すなわち休眠状態であることが明らかにされている.この休眠遺伝子を発現させる手段の1つとして尾仲らは,細胞表面にミコール酸を含む細菌と放線菌との共培養により,新規物質を生産させる手法を報告している.本稿では,この共培養方法と,培養液の主成分分析および生物活性評価を組み合わせることで新規抗生物質の発見に至ったAdnaniらの研究成果について紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Newman D. J., Gordon M. C., J. Nat. Prod., 79, 629-661(2016).
    2) Onaka H. et al., Appl. Environ. Microbiol., 77, 400-406(2011).
    3) Adnani N. et al., ACS Chem. Biol., 12, 3093-3102(2017).
    4) Adnani N. et al., Mar. Drugs, 13, 6082-6098(2015).
  • 西田 慶
    2018 年 54 巻 9 号 p. 901
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    蛍光イメージングは,細胞や生体内において観察や定量が困難な物質の情報を非侵襲的に可視化することが可能であり,生命科学研究や診断・創薬の分野で重要な技術である.緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein: GFP)などは,タンパク質のイメージングに広く利用されているが,可視光領域に蛍光波長を示すため組織深部のイメージングが困難である.組織深部を観察するためには,組織透過性の高い近赤外光の利用が適している.しかし,近赤外領域で励起・蛍光特性を示す蛍光材料の多くは蛍光強度が低く,感度に課題がある.このような問題に対し,励起光照射後も長時間蛍光を維持する残光蛍光が注目されている.残光蛍光は,励起光による自家蛍光や散乱が最小限に抑えられるため,高感度な検出が期待される.しかし,残光蛍光体の多くは希土類の無機粒子であり,毒性の問題が指摘されている.
    近年,導電性高分子を用いたポリマーナノ粒子による残光蛍光体が報告された.本ポリマーナノ粒子は細胞毒性が低く,生分解性であることから生体適合性に優れると考えられる.本稿では,Miaoらが報告した近赤外領域で残光蛍光を示すポリマーナノ粒子について紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Chermont Q. M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104, 9266-9271(2007).
    2) Miao Q. et al., Nat. Biotech., 35, 1102-1110(2017).
    3) Mei J. et al., J. Am. Chem. Soc., 135, 6724-6746(2013).
  • 北條 慎太郎
    2018 年 54 巻 9 号 p. 902
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    体液性免疫は獲得免疫における主要な機構であり,ウイルス・細菌感染に対するB細胞の抗体産生を主軸とした免疫系を指す.体液性免疫応答の過程において,B細胞はヘルパーT細胞からサイトカインや補助刺激シグナルを受けて胚中心(germinal center:GC)とよばれる特殊な構造体を二次リンパ組織上に構築する.さらにGC B細胞は体細胞突然変異とクラススイッチを経て,抗原に対して高い親和性を有する記憶B細胞や長期的に生存可能な抗体産生細胞へと分化する(GC反応).GC B細胞の分化には濾胞ヘルパーT(t follicular helper:Tfh)細胞(転写因子Bcl6,ケモカイン受容体CXCR5,アポトーシス関連タンパクPD-1共陽性)との相互作用が必須であり,Tfh細胞の細胞数が厳密に制御されることにより自己寛容が誘導される.逆に,自己反応性のTfh細胞の増多は自己免疫疾患の発症と関連する.
    最近,胚中心に認められるTfh細胞集団の中に,免疫系を負に制御することで知られる制御性T細胞(転写因子Foxp3陽性)の特徴を有する濾胞制御性T(t follicular regulatory:Tfr)細胞とよばれる新規の細胞亜集団が発見され,脚光を浴びている.このTfr細胞は,in vivoにおいてGC反応を負に制御することが知られているが,これまでTfr細胞の病理学的な役割は不明であった.本稿では,Fuらによって報告されたTfr細胞による自己免疫疾患の制御に関わる知見を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Chung Y. et al., Nat. Med., 17, 983-988(2011).
    2) Linterman M. A. et al., Nat. Med., 17, 975-982(2011).
    3) Fu W. et al., J. Exp. Med., 215, 815-825(2018).
  • 横田 理
    2018 年 54 巻 9 号 p. 903
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    母児感染など妊娠期間中に生じる母体免疫活性化(maternal immune activation:MIA)は,産まれてくる子どもの精神神経疾患発症のトリガーとなる.MIAの検証には,免疫原として,インターフェロン誘導薬であるポリイノシン・ポリシチジン酸(PolyI:C)が使用されている.疫学や前臨床試験データによると,MIAにより不安様行動の惹起,認知機能の低下などが引き起こされることが報告されている.しかし,MIAにより生じる脳神経疾患発症に起因する分子機構についてはよく分かっていない.最近では,MIAによって生じる分子機構の解明を目的としたトランスクリプトームやプロテオミクスを用いた仔の脳の網羅的発現解析が行われている.しかし,これらの分子変化から起こり得る機能的な影響を捉えるまでには至っていない.
    本稿では,MIAが仔のシナプス形成・機能にどのような影響を及ぼすのか,また,神経発達障害に共通して認められるGABA神経系の興奮性/抑制性スイッチについて解析を行ったCorradiniらの論文を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Knuesel I. et al., Nat. Rev. Neurol., 10, 643-660(2014).
    2) Corradini I. et al., Biol. Psychiatry. In press(2017).
  • 奥 輝明
    2018 年 54 巻 9 号 p. 904
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    結核(tuberculosis:TB)は,マイコバクテリウム属結核菌群(Mycobacterium tuberculosis, M. bovis 等)に起因する最も古くから知られる感染症の1つである.また,ヒトの単一感染性菌による全世界の死因第1位であり続けており,現在も世界規模の主要な公衆衛生問題である.結核予防に用いられるカルメット-ゲラン桿菌(Bacillus Calmette-Guerin:BCG)ワクチンはM. bovis を長期継代培養することで弱毒化した生ワクチンであり,実用化されている唯一の結核予防ワクチンである.BCGワクチンの効果は,乳幼児結核,結核性髄膜炎や粟粒結核など重症結核において認められるが,成人の肺結核に対しては部分的であることから,新規ワクチンの開発が望まれている.
    本稿では,アカゲザルサイトメガロウイルス(RhCMV)ベクターワクチンを用いた結核菌感染研究において,長期間のワクチン効果を認めたHansenらの報告を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Hansen S. G. et al., Nat. Med., 24, 130-143(2018).
    2) Hansen S. G. et al., Nature, 473, 523-527(2011).
    3) Hansen S. G. et al., Nat. Med., 15, 293-299(2009).
    4) Hansen S. G. et al., Science, 340, doi:10.1126/science.1237874(2013).
    5) Ranasinghe S., Walker B. D., Nat. Biotechnol., 31, 811-812(2013).
  • 大橋 養賢
    2018 年 54 巻 9 号 p. 905
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/01
    ジャーナル フリー
    担がん状態はそれ自体が静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)の発症リスクを上げることが知られており,非担がん患者に比べて血栓性事象が4倍,化学療法施行患者においては6倍という報告もある.担がん患者におけるVTEの治療においては,低分子量ヘパリン(low molecular weight heparin:LMWH)であるダルテパリンとワルファリンを比較した研究の結果を受けて,ダルテパリンが米国のNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインに推奨度の最も高いカテゴリー1として記載されている.しかしながら,我が国ではダルテパリンの自己注射製剤が発売されていないこと,また経口投与可能なワルファリンにおいては,頻回の血液検査と細かい用量調節が必須となるため,それらに替わる新たな経口薬の登場が期待されていた.
    直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOACs)の1つであるエドキサバンは,担がん患者を含む一般集団を対象としたHokusai VTE試験において,ワルファリンよりもVTE再発抑制効果に優れていた.また,担がん患者におけるサブグループ解析において同様の傾向はあったものの,担がん患者のみで検証された前向き介入研究はこれまでになかった.
    本稿では,担がん患者におけるVTE治療に関する海外第Ⅲ相臨床試験(Hokusai VTE Cancer)を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Lyman G. H. et al., Oncologist, 18, 1321-1329(2013).
    2) Lee A. Y. et al., N. Engl. J. Med., 349, 146-153(2003).
    3) The Hokusai-VTE Investigators., N. Engl. J. Med., 369, 1406-1415(2013).
    4) Raskob G. E. et al., Lancet Hematol., 3, e379-387(2016).
    5) Raskob G. E. et al., N. Engl. J. Med., 378, 615-624(2018).
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