核酸医薬品は,比較的容易に開発できるという利点がある一方,標的細胞内に吸収されにくく,体内で酵素により分解される性質を持つため,現状では注射剤としてのみ臨床で用いられている.しかし注射による投与は,痛みを伴い,血管迷走神経反射を起こすことがあるなど侵襲性が高いため,新たな投与経路の開拓は,核酸医薬品の製剤化において重要である.
薬品を患部へ効率よく投与し,薬品の滞留性を向上させる方法として,体温に応答してゲル化する温度応答性ハイドロゲルが着目されており,オフロキサシンゲル化点眼液等がすでに臨床応用されている.さらに近年では,温度応答性ハイドロゲルに核酸医薬品を包含させる試みも報告されている.
ハイドロゲルは,水分を多量に含むことから,創傷治癒過程における湿潤環境を提供することで,真皮細胞の接着・遊走・増殖および,組織の再上皮化を促進することが知られており,創傷治癒を目的とした製剤としての報告は多い.
組織修復に関与するタンパクの1つであるマトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP-9)は,その過剰発現により,難治性創傷である糖尿病性慢性創傷の治癒を妨げることも知られている.よって,核酸医薬品の1種であり,特定の遺伝子のmRNAの分解を起こし,ひいてはタンパク質の発現を抑制するsiRNAを用いてMMP-9遺伝子の発現を効果的に抑制することは,糖尿病性慢性創傷の治療において有用であると考えられる.
そこで本稿では,MMP-9遺伝子に対するsiRNAを内包した温度応答性ハイドロゲル製剤の創傷治癒効果を検証したLanらの論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Yasuhiro F.
et al.,
J. Ocul. Pharmacol Ther.,
22, 258-266(2006).
2) Lan B.
et al.,
J. Nanobiotechnol.,
19, 130(2021).
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