ミトコンドリアは,ATPの産生,アポトーシスの誘導,活性酸素の生成および細胞内Ca
2+の貯蔵・制御など,細胞の生死に関わる多彩な機能を有している.なかでも,心筋は常にATPを大量に消費し,心機能を維持していることから,心筋ミトコンドリアの機能恒常性の維持は心機能を維持する上で重要であると考えられている.ミトコンドリア内のCa
2+濃度は,Ca
2+流入系とCa
2+排出系のCa
2+輸送体の輸送バランスによって制御されている.ミトコンドリアのCa
2+流入系は,主にミトコンドリアCa
2+ユニポーター(MCU)が関与し,また,Ca
2+排出系はミトコンドリアNa
+/Ca
2+交換輸送体(NCLX)が重要な役割を果たす.近年,Ca
2+流入系に関与するMCUの遺伝子欠損マウスの心機能特性が報告され,MCUが心筋虚血/再灌流障害で重要な役割を有することが示された.しかしながら,心筋ミトコンドリアCa
2+シグナルの生理学的役割および心疾患病態形成における役割については研究情報が乏しい状況である.本稿では,NCLXの心筋特異的な各種遺伝子改変マウスを用いた,心筋NCLXを介した心筋ミトコンドリアCa
2+シグナルの生理学的・病態生理学的役割に関するLuongoらの報告を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Pan X.
et al.,
Nat.
Cell.
Biol.,
15, 1464-1472(2013).
2) Kwong J. Q.
et al.,
Cell.
Rep.,
12, 15-22(2015).
3) Luongo T. S.
et al.,
Nature,
545, 93-97(2017).
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