ファルマシア
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50 巻, 11 号
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目次
  • 2014 年 50 巻 11 号 p. 1072-1073
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    特集にあたって:ケミカルバイオロジーという研究領域が確立され,今日まで各種ゲノミクスやエピジェネティクスなどの手法を活用して,多彩な研究が行われている.既にファルマシア特集号として取り上げられた,バイオイメージングやプローブ研究など,独立したフィールドと呼べるほどのテクノロジーも派生している. 本特集では,ケミカルバイオロジー研究を技術面からではなく,成果の面から紹介する.研究対象としてヒトを含むほ乳類や高等生物だけでなく,昆虫,微生物や植物など幅広い範囲から執筆いただいた.様々な化学技術を利用して,どのような生命現象がどこまで解明されているのか,先端研究の現状を理解する一助となれば幸いである.
    表紙の説明:合成化合物を用いて,生体内遺伝子の ON/OFFやタンパク質合成・発現制御のメカニズムを調査する研究は,ヒトだけではなく昆虫(アカトンボの体色)や植物(葉の折り畳み)など,様々な生物を対象に行われている.それぞれの成果は,個々の種のみならず他の領域ともいずれ関連付けられ,生命現象の解明が進んでいくことであろう.
オピニオン
  • 上村 大輔
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1071
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    日本の有機化学の歴史を考えてみると,薬学系の長井長義博士の貢献は大きい.日本化学会ではその貢献に鑑み,化学遺産としてエフェドリンの発見をはじめとする膨大な資料を登録した.一方,時代は少し進むが農学系ではオリザニンの発見者,鈴木梅太郎博士の寄与が継承されている.また,理学系では真島利行博士が中心となって,いずれも日本の有機化学発展に大きく貢献したことは周知の通りであろう.そのため,日本の薬学教育は米国と異なり,実学的というよりは基礎研究の色が濃く,薬学教育の質の高さや応用に対する広がりを誇っている.したがって,卒業する学生諸君の高い志と,意欲の深さには計り知れないものがあると保証されてきた.結果として,日本薬学会の産業界への貢献も大きく,苦しい情勢ながらも我が国の化学・製薬産業が世界的に発展していることはまぎれもない事実であろう.江戸末期に日本が全く無知だった西洋医学の世界に飛び込んで,今日に至る250年の苦闘にかかわった先達に心から敬服する.
    ところで,薬学部に進学する学生は医学部生と同様に「人類の健康に貢献したい」という,強い意欲と高い志を持っていると考える.そういった学生に対していかに魅力ある薬学にするかについては,いささか知恵を働かせなければならない.つまり詰め込み的な教育と魅力ある創薬的な部分とのすみ分けではないだろうか.もちろん,就職先の確保は言わずもがなである.大げさに言えば,かつては月に一度の発売医薬品の開発,高い俸給の保証などといった時代もあったが,今日ではそうもいかない.20年以上の開発年数,数百億円以上の開発費,どれをとっても大変な時代である.薬学教育が過度に知識偏重な薬剤師養成に傾注することは,日本の頭脳資源が有限であることを考慮すれば得策ではないと考える.苦しくとも新しい医薬品はもちろんのこと,抗体医薬品を含めた新しい概念での医薬品開発を目指さねばならない.基礎研究を核にして,必ずや今までとは全く異なった成果が生みだされるに違いない.基幹校といわれる大学の優秀な学生は大学で職を確保しなければならないし,その一方で大学は人材を抱え込んだり出し惜しむことなく,広く全国津々浦々に輩出しなければならない.これが社会からの強い要請である.薬剤師として相当の人材を供給することはもちろんだが,薬学に期待されているのは医学系へのサービスではなく,独自性こそが嘱望されていることを忘れないでほしい.
    また,医学系と有機化学の接点は重要である.経口投与できる小さな有機分子の医薬リードとしての力は盤石であり,かつては有機化学者の独壇場であった.ところが,標的特異性に優れた抗体医薬などが注目されるに伴い,一般的に特異性に難を持つ低分子有機化合物はかつての輝きを失った.しかしながら,有機分子を自由自在に操り,また無尽蔵な天然資源に着目するサイエンスの「論理的思考」や「インテリジェンスの遊び」はなくしてはならない.この辺りにも薬学への期待が存在する.生命が完全に理解されないうちは,薬学研究者に休みはないのである.
Editor's Eye
最前線
最前線
  • 二橋 亮
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1086-1090
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    江戸時代の浮世絵にも描かれている「アカトンボ」は,日本人にとって最も馴染みの深い昆虫の1つといっても過言ではないだろう.童謡の「赤とんぼ(作詞:三木露風,作曲:山田耕筰)」は,ほとんどの人が口ずさむことのできる数少ない歌の1つであり,青空を群れ飛ぶアカトンボは,秋の訪れを告げる風物詩としても馴染みの深いものといえる.
    日本人なら誰もが知っているアカトンボであるが,かつて日本や中国では,漢方薬として使用されていたことをご存じだろうか.ナツアカネやショウジョウトンボなど,特に赤みの強いアカトンボが,百日咳や扁桃腺炎,梅毒などに効果があると信じられていたのである.戦後もアキアカネやナツアカネの成虫を乾燥したものが薬局で売られているという紹介記事が出ており,緒方らは,ナツアカネとアキアカネを材料に,「赤蜻蛉成分の研究(第一報)」という論文を1941年の薬学雑誌で発表している.ちなみに,この論文ではアカトンボの具体的な成分が同定されたわけではなく,その後続報が発表されることはなかった.それでも,この論文の存在は,アカトンボの薬効成分に着目した研究があったことを伺わせるものである.
    最近では,トマトの赤色色素であるリコペン(カロテノイドの一種)や,イチゴの赤色色素であるアントシアニン(フラボノイドの一種)に,強力な抗酸化能があることから,疾病に対する予防効果があるとも言われている.これらの例をみると,真っ赤なアカトンボの赤色色素も,もしかすると本当に健康に良いのかもしれないと思えてくる.その前に,そもそもアカトンボの赤色の正体は何であろうか.
セミナー
  • 深瀬 浩一
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1091-1095
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    自然免疫研究は,細菌由来複合糖質研究から始まった.まず,特定の分子構造が免疫増強作用を示すことが明らかにされ,続いて様々なセンサー受容体群の発見につながった.細菌由来複合糖質の多くは複雑構造の高分子であり,天然物には他の免疫増強物質のきょう雑が避けられない.我々は,活性本体ならびにその受容体を確定するために,1)合成法の確立,2)均一な化合物の十分量の供給,3)合成化合物の生物機能研究への提供,という研究戦略に基づいて,細菌由来複合糖質の自然免疫機能の解析研究を実施した.
    微生物による免疫増強作用は,細菌感染によってがんが治癒,縮小する現象として300年以上前から報告されていた.19世紀の終わりからこの現象に科学の目が当てられ,1893年にColeyは細菌を用いた世界で最初のがんの免疫療法を実施した.その後様々な細菌による免疫活性化作用が報告され,現在この現象は自然免疫の働きによるものと理解されている.自然免疫は,種々のセンサー受容体(病原体認識受容体,パターン認識受容体)により,細菌,ウイルス,カビなどの病原体由来の複合糖質,グリカン鎖,リポタンパク質,DNA,RNA,鞭毛タンパク質フラジェリンなど,病原体に特徴的な分子を認識して生体防御にあたるシステムで,抗原-抗体反応や腫瘍免疫などの獲得免疫の誘導にも重要な働きをしている.また自然免疫は,アレルギーや自己免疫疾患,慢性炎症やがんとも深くかかわっていることから,大きな注目を集めている.我々は,リポ多糖や細菌細胞壁ペプチドグリカンなどの細菌由来複合糖質を主な対象として,それらの合成研究と合成化合物を用いた機能解析研究を実施したので,以下に紹介する.
セミナー
セミナー
  • 大神田 淳子
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1101-1106
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    タンパク質間相互作用(protein-protein interactions:PPIs)を対象とした創薬が広く注目されている.従来,作用面が広く浅いPPIsに対する低分子創薬は著しく困難な問題と考えられてきた.しかし近年,PPIsの分子機構に関する理解が進み,阻害剤設計の手掛かりが見えてきた.また,PPI阻害剤の分子サイズにパラダイムシフトが起こり,PPIsは以前にも増してdruggableな標的として認識されつつある.同時に,PPIsを安定化する有機分子にも,新しい切り口の医薬品や化学生物学研究の分子ツールへの応用が期待されている.本稿では,こうした背景のもと発展したPPI創薬の動向について触れると共に,我々のPPI標的型合成分子の設計に関する研究を紹介したい.
セミナー
最前線
  • 岡本 晃充
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1112-1116
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    エピジェネティクス機構は,DNA配列を変えることなしに遺伝子発現を制御する機構であり,分化,発生,インプリンティング,X染色体不活性化などの生命現象に深く関与する.この機構が破たんすれば,がん,肥満,発達障害,神経変性疾患,周産期疾患などの疾患につながると考えられている.エピジェネティクス機構では様々な方法で遺伝子に印が付けられるわけだが,その最も代表的なものがDNAメチル化である.DNAメチル化は,主として,シトシンの5位の炭素原子にメチル基が付加されることを指す(図1).DNAメチルトランスフェラーゼ(DNA methyltransferase:DNMT)3AやDNMT3BによってDNAが新規にメチル化され,一方,DNMT1が半保存的複製後にメチル化パターンを維持する役目を果たす.これらの酵素は,S-アデノシルメチオニンをメチル基ドナーとしてCpG配列をメチル化する.
    一方,いったんメチル化を受けたとしても,そのメチル基が失われること(脱メチル化)もある.それは,複製過程における受動的なDNA脱メチル化のほかに,能動的なDNA脱メチル化過程もある.2009年になると,TET(Ten‐eleven translocation)プロテインと呼ばれる水酸化酵素が5-メチルシトシン(5mC)を酸化し,5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC),5-ホルミルシトシン(5fC),5-カルボキシルシトシン(5caC)を生成することが報告された.これらの酸化シトシンはチミンDNAグリコシラーゼ(thymine DNA glycosylase:TDG)によって除去され,修復されることにより脱メチル化過程が進むと言われている.
    DNAメチル化もしくは脱メチル化がどのシトシンで,また,どの細胞でどのくらいの確率で起こっているかを明確にできれば,細胞機能の決定に対するメチル化の寄与を知ることができる.しかし,5mCや5hmCなどを未修飾のシトシンから区別すること,特に,それらをDNA配列の中の特定の箇所において正確に検出することは並大抵ではない.シトシンに結合したメチル基は,巨大なDNA二重らせん構造に比べると,すっかり埋没するくらい極めて小さい.巨大構造の中のメチル基やヒドロキシメチル基を見つけ出すには,それらを認識するタンパク質を使うのも良いかもしれないが,むしろ周辺の配列や環境に左右されずに,ただその官能基を目指して選択的に反応する化学反応を開発するのが効果的ではないだろうか?
最前線
  • 中川 優
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1117-1122
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    糖鎖とは,グルコースやマンノースなどの単糖が鎖状に連結した分子である.近年,糖鎖は多彩な生物学的機能を持つことが明らかになり,核酸(ヌクレオチドが連結した鎖)やタンパク質(アミノ酸が連結した鎖)に並ぶ「第三の生命鎖」として注目されている.それに伴い,糖鎖がかかわる生命現象を解析するツール分子あるいは糖鎖を標的とした創薬のリードとして,特定の糖に結合する低分子化合物の需要が急速に高まっている.本稿では,糖に結合する人工低分子の開発研究の現状を紹介するとともに,マンノースに結合する唯一の天然低分子化合物・プラディミシン(pradimicin:PRM)の分子認識機構に関する筆者らの解析研究と創薬への応用に向けた展望について概説する.
セミナー
  • 及川 雅人
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1123-1127
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    中枢神経シナプスは興奮と抑制性神経伝達の絶妙なバランス(I/Eバランス)が保たれることで恒常性が担保されており,その乱れは神経因性疼痛,うつ,てんかん,片頭痛など様々な神経症状に波及する.I/Eバランスは興奮性および抑制性のイオンチャネル型受容体に加え,多くの代謝調節型受容体の複雑な相互作用の上に成り立つが,その解明のためさまざまなメカニズムにより作用するリガンドが開発され,中には医療に用いられる化合物もある.本稿ではイオンチャネル型グルタミン酸受容体(iGluR)の1つ,α-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazole propionic acid(AMPA)受容体に焦点をしぼって,その構造と生物機能,リガンドの特徴と用途,開発と発展性について紹介したい.
    ほ乳類のiGluRは18の遺伝子にエンコードされており,それらは親和性の高いリガンドにちなみ4つのファミリー(AMPA受容体,カイニン酸受容体,その他)に分類される.興奮性シナプス後電流(excitatory postsynaptic current:EPSC)を司るAMPA受容体には4つのサブユニットタンパク質(GluA1~GluA4),また,シナプス前/シナプス後の両方に存在するカイニン酸受容体には5つのそれ(GluK1~GluK5)がある.サブユニットタンパク質はホモ,あるいはヘテロメリックに四量化してiGluRを形成する.ファミリーを超えた組み合わせで会合することはないが,以降に述べる複数の要因によりiGluRは構造的に多様で,それぞれが特有の生物機能を担っていると考えられている.大まかには,AMPA受容体は速い神経伝達を担い記憶や学習機能の中心にあるのに対し,カイニン酸受容体は中枢神経系の興奮と抑制のバランスを調節する役割を担っている.
速報 話題
速報 話題
  • 一瀬 篤
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1133-1136
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    再生医療とは,iPS細胞,ES細胞,体性幹細胞などを利用して,傷病で機能不全となった組織,臓器を再生させる医療である.日本では平成19年に,京都大学の山中伸弥教授が世界初のヒトiPS細胞の樹立に成功したことにより,一躍注目を浴びた.再生医療は,難病などへの臨床応用が期待されている.
    一方,再生医療は新しい医療であり,その安全性が十分に確立されているとは言い難い.直接の因果関係は不明だが,治療のため幹細胞を投与し死亡に至った事例が明らかになるなど,再生医療全体に対する安全性への懸念や,日本における再生医療に対する規制が必ずしも十分でないとの議論が起こるようになった.平成24年に山中教授がノーベル生理学・医学賞を受賞すると,国民の再生医療に対する期待が更に高まりを見せ,国会での議論が加速し,「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(以下「本法」)」が昨年公布され,本年11月25日に施行予定である.
FYI(用語解説)
  • 千葉 順哉, 井上 将彦
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1128_1
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    患者さんのゲノムを調べ,その情報に基づいて投薬や治療を行う次世代の医療体系を指す.まるで体型をきちんと測定した上でピッタリの洋服を仕立てるように,患者さんのゲノムの型に合わせて,薬の種類や量そして治療法などを個別に選定することから,このように呼ばれている.個別化医療,オーダーメード医療とも同義である.「病気ごとにほぼ画一的な投薬・治療+医者のさじ加減」で行われている現在の医療体系(レディメード医療)と比較して,患者さん個人個人に対して副作用の少ない投薬や効果的な治療法がゲノム情報に基づいて選定できるため,テーラーメード医療の早期実現が期待されている.
  • 大神田 淳子
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1128_2
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    生理活性天然ペプチドの構造を模倣(ミミック:mimic)した合成化合物を調製し,ペプチドの活性や安定性を改善することを指す.具体的には,様々な非ペプチド性の部分構造を組み合わせて,ペプチド固有の配座と側鎖官能基の位置ならびに化学的性質を再現する化合物を設計する.また,安定性や膜透過性を高めるために,アミド結合等価体を用いてペプチド主鎖を改変する.主な構造要素として,複素環や環状化合物のように剛直な土台,非天然アミノ酸,d-アミノ酸,各種官能基の等価体が利用される.酵素阻害剤,受容体リガンドの設計にしばしば用いられる手法.
  • 及川 雅人
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1128_3
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    ある種のポリアミン類は開口チャネル阻害薬としてイオンチャネルに結合することでイオンの流れを遮断し,アンタゴニスト作用を示す.ジョロウグモの毒であるJoro spider toxinや,カリバチの毒の人工類縁体であるphilanthotoxin-7,4などが知られており,後者はGluA1/GluA2サブタイプに作用することが見いだされている.しかしながら不競合的アンタゴニスト/AMPA受容体の複合体の構造生物学的研究は全く進んでいない.これらは高活性であるが選択性に乏しく,GluK2にも作用する.
  • 及川 雅人
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1128_4
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    「アロステリック」は「別の場所」を表す.アロステリックサイトは,アロステリック薬の結合を引き金として,タンパク質の構造に微妙な変化をもたらす.このとき,タンパク質に対するリガンドがオルソステリック(真の場所)に結合すると,このタンパク質の本来の生物機能に変化が認められる(アロステリック効果).アロステリックサイトに結合する化合物自体は,タンパク質の機能に影響を及ぼさない.例えば抗不安薬ジアゼパムは,GABA受容体におけるGABAの作用を増強させるアロステリック薬である.アロステリックサイトは,オルソステリックサイトへの従来のアプローチに加え,新薬開発に新たな場を提供するとして注目されている.
薬学実践英語
トピックス
  • 小谷 俊介
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1141
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    二酸化炭素は,地球上に大量に存在し,大気中-地表-水中を循環する資源の1つである.有機合成化学では,二酸化炭素は安価かつ低毒性な炭素源として注目され,古くからその利用法に関する研究が行われている.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Rousseau G., Breit B., Angew. Chem. Int. Ed., 50, 2450-2494 (2011).
    2) Luo J. et al., J. Am. Chem. Soc., 136, 4109-4112 (2014).
    3) Leow D. et al., Nature, 486, 518-522 (2012).
  • 加藤 淳也
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1142
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    現代の創薬化学は,単一の標的タンパク質に選択的に作用する薬物の創製に力点がおかれてきた.一方,既存の医薬品のケモインフォマティクス解析から,ある種の医薬品は標的タンパク質以外の複数のタンパク質と相互作用することで薬効を増強していることが明らかにされつつある.このような多分子標的作用はポリファーマコロジーと称され,近年,注目を集めている.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Keiser M. J. et al., Nature, 462, 175-181 (2009).
    2) Peters J. -U. et al., J. Med. Chem., 56, 8955-8971 (2013).
    3) Ciceri P. et al., Nat. Chem. Biol., 10, 305-312 (2014).
  • 大嶋 直浩
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1143
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    伝統薬は長い使用経験の中でその有効性が確認されたものであり,より効果的にするために複数の生薬を組み合わせていることが多い.そのため,伝統薬の有効性を理解するためには,生薬の相乗作用を明らかにすることが重要である.しかし,これまでに様々な生薬から有効成分が見いだされてきたものの,複数の生薬の相乗作用を成分レベルで明らかにした研究報告は少なく,生薬を組み合わせる意義が科学的に理解されているとは言い難いのが現状である.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Wang F. et al., PLOS ONE, 9, e87221 (2014).
    2) Chou T. C., Talalay P., Trends Pharmacol Sci., 4, 450-454 (1983).
  • 雲財 悟
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1144
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    アロステリックタンパク質は,その多くが複数のサブユニットから構成されている.ヘモグロビンやアスパラギン酸トランスカルバミラーゼなどが代表例である.タンパク質の進化の過程で,タンパク質の会合状態とその機能が結びついたと考えられる.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Nazmi A. R. et al., J. Mol. Biol., 426, 656-673 (2014).
    2) Cross P. J. et al., J. Biol. Chem., 286, 10216-10224 (2011).
    3) Lebowitz J. et al., Protein Sci., 11, 2067-2079 (2002).
    4) Shuck P. et al., Anal. Biochem., 320, 104-124 (2003).
  • 小林 直木
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1145
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    サリドマイドは1960年前後,不眠症やつわりの治療に使われたが,催奇形性のあることが判明し,1962年にいったんは販売中止となった薬剤である.しかしその後,多発性骨髄腫への有効性が明らかとなり,2008年に再発または難治性の多発性骨髄腫治療薬として再認可された.サリドマイド誘導体のレナリドミドは,2010年に承認された多発性骨髄腫治療薬であり,サリドマイドと同様に催奇形性を有するが,デキサメタゾンとの併用療法において高い有効性が示されている.多発性骨髄腫は,B細胞の最終分化段階である形質細胞の腫瘍であり,サリドマイドやレナリドミドは,多発性骨髄腫の増殖を抑制する作用を持つが,さらに,インターロイキン2(IL-2)依存性のT細胞の増殖促進,炎症性サイトカインの腫瘍壊死因子-α(TNF-α)産生抑制,血管新生阻害など多面的な作用を持つことが知られている.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Ito T. et al., Science, 327, 1345-1350 (2010).
    2) Kronke J. et al., Science, 343, 301-305 (2014).
    3) Lu G. et al., Science, 343, 305-309 (2014).
  • 南雲 康行
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1146
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    神経細胞の正常な機能発現には,神経細胞内外におけるClの適切な濃度勾配形成と維持が不可欠となる.正常な神経細胞内のClは,細胞外よりも低濃度に維持され,この状態が正常に保たれることで,GABAやグリシンによる細胞内へのCl流入の適切な方向付けと即時的な強い抑制作用を発揮する.成熟神経細胞における細胞内Cl濃度は,K―Cl共輸送体(K―Cl cotransporter:KCC2)によって調節される.神経細胞特異的に発現するKCC2は,Clの細胞外排出を担うイオン輸送体であり,これによって細胞内のClを低濃度に保つことができる.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Coull J. A. et al., Nature, 424, 938-942 (2003).
    2) Huberfeld G. et al., J. Neurosci., 27, 9866-9873 (2007).
    3) Gagnon M. et al., Nat. Med., 19, 1524-1528 (2013).
  • 煙山 紀子
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1147
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    健康長寿に良い食事とは―これまで,様々な食事法が考案され,現在のところ寿命延長が効果的とされる最も有名なものはカロリー制限である.それでは,カロリーを構成する三大栄養素である,炭水化物・タンパク質・脂質の適切な摂取比率はどうであろうか.こちらについてはいまだ議論が尽きない.例えば,炭水化物を制限した食事法は短期的には減量に効果的とされるが,長期的な影響は不明な点も多い.また,食事中の炭水化物や脂質が多いと総カロリー摂取の増加につながり,肥満や糖・脂質代謝に悪影響を及ぼす懸念もある.このような背景の中,慢性的な高タンパク・低炭水化物食を与えたマウスはやせ型を示したにもかかわらず,寿命が縮まったという最近の知見を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Solon-Biet S. M. et al., Cell Metab., 19, 418-430 (2014).
    2) Levine M. E. et al., Cell Metab., 19, 407-417 (2014).
  • 岩崎 雄介
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1148
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    近年,我が国だけでなく全世界で喘息の有病率は,著しい増加傾向にある.喘息はすべての人に起こりうる慢性の呼吸器系疾患であり,喘鳴や咳嗽,胸部こうやく感や息切れなどの症状が起こる.その中でも,重篤な喘息症状を引き起こす患者群が存在し,重篤で不安定な喘息発作(ブリットル喘息)に陥ったために死亡する例は,世界的に見ても多い.喘息発症の原因については未だ不明な点が多いものの,タバコによって重篤な喘息を誘起することが示唆されている.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Morb. Mortal. Wkly. Rep., 60, 547-552 (2011).
    2) Fatemi F. et al., Respirology, 19, 514-523 (2014).
    3) Little F. F. et al., PLoS One, 9, e84449 (2014).
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藥学昔むかし
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  • 松井 礼子
    2014 年 50 巻 11 号 p. 1140_1
    発行日: 2014年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー
    HOPAは米国の臨床腫瘍領域での薬剤師の学会である.そして,がん専門薬剤師(BCOP)を認定している米国病院薬剤師会(ASHP)と連携し,がん医療に特化したBCOPの教育制度やがん領域のレジデント薬剤師(PGY2)の育成も行っている組織である.私は2013年3月にロサンゼルスで行われたHOPA9thAnnual Conferenceに初めて参加した.その中で印象深かったのは一般演題の他に薬剤師レジデント部門の研究発表ブースが設けられていることであった.米国の薬剤師レジデント制度は一般的な疾患での臨床薬学を学ぶ1年目(PGY1)と,より特化した専門分野を学ぶ2年目のPGY2の教育を受けるが,その教育カリキュラムの中に臨床研究は必須とされている.がん領域でのPGY2のレジデントはHOPAでの研究発表が義務づけられており,レジデント制度と学会とが上手にコラボレーションしていた.そのレジデントの発表は,完結した臨床研究の発表の他に現在進行中である臨床試験のプロトコールや中間解析に関する発表も認められており,発表に対してBCOPが助言したり指導したりする場としてディスカションが繰り広げられていた.米国のBCOPを取得するためのハードルはとても高いが,その分,社会的地位も高い.よって認定を維持することのメリットも非常に高いことから,学会が提供する認定継続への教育制度の参加率も高いと言われている.その大先輩が集まる会に今後BCOPを目指す薬剤師レジデントが参加し,そして発表し学ぶ姿が,とても印象的であり刺激的であった.日本の薬剤師レジデント制度はまだ確立しておらず,カリキュラムも受け入れも各施設に委ねられている.米国のように,ASHPがレジデントカリキュラムの統一化を図り,各専門分野の学会とタイアップしてスペシャリストを育てる教育制度は素晴らしいものであると感じた.
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