薬物相互作用のガイドラインが10年ぶりに改定され,近日中に施行される.医薬品の作用や副作用が,併用によりどのように変化するかは,医薬品を適正に使用するために必要不可欠な情報である.ガイドラインは,医薬品が受ける可能性のある薬物相互作用と及ぼす可能性のある薬物相互作用を,開発段階で評価,予測するための方法と判断基準を示すものである.その目的は,臨床における有害な薬物相互作用の発現や有効性の低下を未然に防ぐことにある.今回改定されたガイドラインは,薬物相互作用に関する最新の研究成果を随所に取り入れており,その目的の達成を十分可能にする内容であると思う.
新ガイドラインにおける薬物代謝の相互作用は,次のような検討手順になっている.まず,ヒト組織や発現系を用いた
in vitro試験とマスバランス試験により,主要消失経路にかかわる代謝酵素を同定し,その酵素に関する臨床試験を行うことで,用量調整が必要な薬物相互作用を受ける可能性を明らかにする.一方,薬物相互作用を起こす可能性については,主要な薬物代謝酵素に対する阻害,誘導,ダウンレギュレーションを
in vitro試験により評価し,得られたパラメータを基にモデルによるシミュレーションを行い,必要が認められた場合には臨床試験により相互作用の検討を行う.いずれについても,判断基準が決定木とともに明確に示されており,
in vitro試験と臨床試験に使用する代表的な基質,阻害薬,誘導薬も明示されていることから,主要な薬物代謝酵素については,相互作用を開発段階で明らかにするための方法と基準が明確に示されたと言える.
トランスポーターを介した薬物相互作用についても,臨床試験実施の必要性を判断するための
in vitro試験の方法と基準が,主要なトランスポーターについて決定木とともに明確に示され,
in vitro試験と臨床試験に使用する基質,阻害薬なども明示された.トランスポーターを介した薬物相互作用は,吸収,胆汁および腎排泄,肝取り込みなどいろいろな過程で起こる可能性に加え,組織中濃度の変化も考慮する必要があるなど,その評価と予測は非常に複雑で困難である.大きな道筋が具体的に示されたことから,今後の研究の進展により,さらに精度と信頼性の高い評価と予測が可能になっていくものと思われる.
今回の改定では,医薬品開発の過程で得られた相互作用の情報を,添付文書に記載する際の指針が新たに加えられた.添付文書は,医薬品を適正に使用するための重要な情報源である.事実や事象の羅列ではなく,明確な基準で統合整理された記載がなされることで,情報がより有効に活用されることが期待される.
医薬品の組み合わせは無限にある.その中で臨床的に重要な薬物相互作用を抽出し,対策を含めた的確な情報提供を行うことは薬剤師の責務でもある.これを行うためには,多数ある薬物相互作用を系統的に分類整理し,重要性をランク付けできるような解析法が必要である.PISCS(pharmacokinetic interaction significance classification system)は,それを可能にするかもしれない.薬物相互作用は薬学固有の研究領域であり,その発展と進歩は薬学出身者の肩にかかっているといっても過言ではない.薬物相互作用にかかわるすべての薬学出身者に,改めてエールを送りたい.
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