ファルマシア
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54 巻, 3 号
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目次/特集にあたって/表紙の説明
  • 2018 年 54 巻 3 号 p. 188-189
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    特集:医薬品の安全性情報を考える
    特集にあたって:安全性情報が臨床試験の段階からどのように情報収集され,評価,解析され,情報提供されているかを理解し,その情報をどう活用すべきか,というところを考える内容にしたいと考え,治験コーディネーター(CRC)や製薬企業の方,審査報告書や医薬品リスク管理計画書(RMP)の読み方,製造販売後調査,医療現場でのRMPの活用,医療情報データベースの活用など,あらゆる方面からご執筆いただいた.本特集を通じて,患者の安全性を確保するために安全性情報はどうあるべきか,薬剤師としてどう関わっていくべきかを考えていただきたい.
    表紙の説明:表紙の図は医薬品の安全性情報がどこから収集され,どこで評価され,どこへ提供されているか,安全性情報の流れを描いたものである.一部の被験者から得られた情報が,最終的には多くの患者に使用するための情報源となっていることがお分かりいただけるであろう.
オピニオン
Editor's Eye
セミナー
  • 被験者の訴えが症例報告書(CRF)になるまで
    深川 恵美子, 角山 政之, 松尾 裕彰
    2018 年 54 巻 3 号 p. 197-201
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    治験における安全性情報は「被験者の訴える好ましくない事象(有害事象)」として収集される。被験者から取得された有効性や安全性のデータは、医療機関から症例報告書(CRF)として治験依頼者に提供される。CRFは市販後の添付文書やインタビューフォームなどの医薬品安全性情報の基になるため、CRFの情報は極めて重要である。本稿ではCRF作成の流れを示し、治験の安全性情報がどのように収集されているか、またCRCはそれをどのように支援しているかについて解説する。
セミナー
セミナー
セミナー
セミナー
  • 期待される安全性評価へのReal World Dataの活用
    松崎 優, 山口 光峰, 宇山 佳明
    2018 年 54 巻 3 号 p. 217-221
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という)では医薬品等の安全対策業務を実施しており、その業務の一貫として、平成30年度から医療情報データベースシステム(以下「MID-NET®」という)を本格稼働させる予定である。今後、PMDAまたは医薬品の製造販売業者は、医薬品等の安全性評価において、MID-NET®をはじめとした医療情報データベースを活用することが可能となる等、Real World Dataを巡る動きが加速している。本稿ではMID-NET®構築の経緯や本格運用に向けた準備状況等について述べたい。
話題
話題
話題
最前線
  • 山口 拓洋, 川口 崇, 宮路 天平
    2018 年 54 巻 3 号 p. 231-235
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    近年、がん領域において医療者と患者の症状評価に乖離が見られることなどが明らかになり、患者の健康状態を患者から直接得ることの重要性が指摘されている。患者報告アウトカム (Patient-reported outcome :PRO) とは、「患者の回答について、臨床医や他の誰の解釈も介さず、患者から直接得られる患者の健康状態に関するすべての報告である」と定義される。本稿では、PROを含む臨床アウトカムの評価に関して説明するとともに、近年開発された、がんの臨床試験における有害事象の報告に用いられる重症度規準NCI-CTCAEのPRO版であるPRO-CTCAEについて情報提供する。
FYI(用語解説)
  • 望月 眞弓
    2018 年 54 巻 3 号 p. 236_1
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    新薬は治験において有効性や安全性が確認されているが,その治験には限界があることについて,以下の5つのTOOで表現されている.市販後にこうした限界を克服する調査や試験を行うなどして情報を補完することが重要である.
    too few:症例数が少ない
    too narrow:腎機能・肝機能障害,妊婦などの特殊な患者は除外されている
    too median-aged:高齢者や小児は除外されている
    too simple:投与方法が単純で,併用薬などが使われていない  
    too brief:投与期間が短く,長期投与の結果が不明である
  • 渡部 ゆき子, 豊田 浩子
    2018 年 54 巻 3 号 p. 236_2
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    ファーマコビジランス(pharmacovigilance:PV)とは,日本語では「医薬品安全性監視」と訳され,世界保健機関(WHO)の定義では「医薬品の有害な作用または医薬品に関連する諸問題の検出,評価,理解及び予防に関する科学と活動」とされている.この定義からも分かる通り,PV活動は単純に医薬品の副作用情報等を収集するだけではなく,集積・評価された情報を副作用の予防につなげるための行動を伴うという点が重要である.医療機関,製薬企業,規制当局等,医薬品の適正使用に関わる様々な組織がPV活動に貢献する.
  • 有馬 秀樹
    2018 年 54 巻 3 号 p. 236_3
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    海外で使用されている医薬品が,日本で承認されて使用できるようになるまでの時間差のことをドラッグ・ラグという.ドラッグ・ラグには海外で承認されているが国内では未承認である場合と,海外の承認から遅れて日本で承認される場合の2つの側面を持ち,国内患者への医薬品の提供の遅れを意味する.
    このドラッグ・ラグ解消にむけて,医薬品の開発と承認を世界と同時に行うための国際共同治験の促進,規制当局の審査体制強化による承認審査期間の短縮,効率的な治験の実施による治験期間の短縮など,国,製薬企業,医療機関がそれぞれ対策をとっている.その反面,治験における日本人データが乏しくなったという問題も生じている.
  • 有馬 秀樹
    2018 年 54 巻 3 号 p. 236_4
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    MID-NET®(medical information database network)は,国の事業で構築されたデータベースシステムで,幾つかの国内の協力医療機関の持つ電子診療情報(電子カルテ,レセプト情報等)をデータベース化し,それらを用いて副作用等を直接検出したり評価することで医薬品の安全対策の向上を目指している.
    MID-NET®は医薬品の安全対策や公益性の高い調査,研究に限り利活用できるが,適切に利活用するためにPMDAが事前にその可否について審査する.平成30年度からは改正されたGPSPに基づき,製造販売後データベース調査として再審査・再評価用のデータに利用される予定である.
家庭薬物語
  • 犬伏 壮一郎
    2018 年 54 巻 3 号 p. 240-241
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    徳島の伝統薬「敬震丹(けいしんたん)」は、江戸時代文政年間(1818~1830)に誕生した気付け薬である。藍取引で財をなした犬伏家が、大阪道修町との繋がりを深め、鎖国当時としては貴重な生薬(麝香、牛黄、竜脳、人参、サフラン、香附子、沈香、甘松、桂皮、牛胆、丁子、木香、甘草、生姜)を配合した。1cm角の板状の錠剤で、芳香性の気剤により香りで気を巡らす処方内容であり、口中で香りを嗅いでから服用するとより効果的である。
薬学を糧に輝く!薬学出身者の仕事
  • 総務省統計分野の仕事
    服部 雄太
    2018 年 54 巻 3 号 p. 242-243
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    筆者は6年制薬学課程の2期卒業生にあたる.学部時代は環境毒性学の実験研究をし,卒業後は博士課程に進んだ.その後,国家公務員総合職試験合格を機に,より大きい調査とデータを求めて総務省へ入省した.行政官として働く傍ら,ヘルスケアIoT コンソーシアム(internet of things: IoT)への参画など、統計に軸をおく公衆衛生学者としての活動も続けている.本稿では,大学院での研究生活と総務省での統計の仕事についてつづり,薬学から大学院,そして公衆衛生や行政・社会科学の分野に進むキャリアパスの一例としてご紹介したい.
くすりの博物館をゆく
日本ベンチャーの底力 その技術と発想力
トピックス
  • 大内 仁志
    2018 年 54 巻 3 号 p. 251
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    Baulamycin A,BはMRSAに有効な新規抗菌薬として期待されているが,天然からの単離量が極めて少ない上に,柔軟な立体配座をとるため立体化学の決定が困難な化合物である.今回,Aggarwalらは高度な合成化学と計算化学,精密なNMR解析を組み合わせることでその絶対立体配置を訂正し,天然物と同一の立体化学を有するbaulamycin類の全合成を達成したので紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Wu J. et al., Nature, 547, 436-440(2017).
    2) Tripathi A. et al., J. Am. Chem. Soc., 136, 1579-1586(2014);ibid. erratum 136, 10541(2014).
    3) Fawcett A. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 55, 14663-14667(2016).
  • 浜田 翔平
    2018 年 54 巻 3 号 p. 252
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    世界の人口が75億人に達し,人口増加が続く現代において,食料生産に対する病害虫剤や除草剤等の農薬が果たす役割は非常に大きい.このような状況下,既存農薬への抵抗性の問題から,新規作用機序を持つ除草剤や抗真菌剤といった農薬の開発が望まれてきた.一方,アフリカ等の熱帯,亜熱帯地域で蔓延する感染症,マラリアを引き起こすプラスモジウム属を代表とする原虫は,葉緑体と類似する色素体を持つなど,植物と進化学的に多くの共通点を持つことが知られている.そのため,市販の除草剤について抗マラリア活性が調査されてきた.しかしその逆の,すなわち抗マラリア活性を持つ化合物が除草活性を示す可能性についてはこれまで報告されていなかったが,最近Corralらが既存の抗マラリア化合物の除草活性を調べた結果を報告したので,本稿で紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) McFadden G. I., Protoplasma248,641-650(2011).
    2) Corral M. G. et al., Sci. Rep., 7, 45871-45879(2017).
    3) Evans-Roberts K. M. et al., J. Biol. Chem., 291, 3136-3144(2016).
  • 吉富 久恵
    2018 年 54 巻 3 号 p. 253
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    「酒は百薬の長」といわれるようにアルコールの適度な摂取は身体に良い影響を及ぼす一方,慢性的な過度の飲酒は様々な臓器に障害をもたらす.中でも一番多く現れるのが肝臓である.アルコール性脂肪肝は,アルコール性肝疾患の最も初期の表現型であり,この状態で更に多量飲酒を続ければ,肝炎や線維症,そして最終的に肝硬変に至る重篤な肝疾患に進行する危険性がある.一般的にこれらの予防または改善策は,アルコールの過剰摂取を控えることであるが,最近では,手軽な予防法といった観点から,薬草やその抽出物などの利用が注目されている.そこで本稿では,Hongらがチョウセンマツ Pinus koraiensis 葉部のエタノール抽出物(PKL)のアルコール性脂肪肝に対する改善作用を報告したので紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Kim J. W. et al., Pharmacogn. Mag., 11, 55-60(2015).
    2) Hong S. H. et al., Phytother. Res., 31, 783-791(2017).
  • 木下 亮
    2018 年 54 巻 3 号 p. 254
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    近年,医薬品候補化合物の難水溶性は製剤化において大きな課題である.その解決策の1つとして固体分散体での開発が注目を集めている.固体分散体は薬物を非晶質状態でポリマー中に分散させたものであり,溶解性向上(水に分散させた際の過飽和状態の維持)や薬物再結晶化の抑制が可能となる.しかし,これらの効果は薬物-ポリマーの組み合わせで大きく異なり,優れた機能を有する固体分散体を開発するには,薬物ごとに最適なポリマーを選択するポリマースクリーニングが重要となる.
    ポリマースクリーニングで一般的に用いられる手法としては,薬物と種々のポリマーを有機溶媒に溶かし,それらの混合物を一定量分注し,乾燥させることで固体分散体のフィルムを形成し,薬物の溶解性や物理安定性(再結晶化の程度)等の評価を実施し,優劣を付けるというものである.これまでに,自動分注システムを用いて分注を自動化する方法やスピンコーティングという半導体製造工程等で広く使用されている手法を用い,スライドガラス上に液を添加し,高速回転することで均一のフィルムを形成する方法などが報告されている.
    本稿では,このポリマースクリーニングにインクジェットプリンターシステムを導入したTarescoらの事例を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Shanbhag E. et al., Int. J. Pharm., 351, 209-218(2008).
    2) Eerdenbrugh B. V. et al., Mol. Pharm., 7, 1328-1337(2010).
    3) Taresco V. et al., Mol. Pharm., 14, 2079-2087(2017).
  • 山口 賀章
    2018 年 54 巻 3 号 p. 255
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    2017年のノーベル生理学・医学賞は,概日リズムを制御する分子機構を明らかにしたHall,Rosbash,Youngの3人に授与された.彼らの研究を発端とし,24時間周期の概日リズムが,地球の自転による明暗変動ではなく,生体の個々の細胞が持つ時計遺伝子により主体的に形成されることがわかってきた.概日リズムの分子機構は,植物,昆虫,ヒトと進化上,高度に保存されており,ほ乳類では転写活性化因子であるCLOCKとBMAL1のヘテロダイマーが,PerCry遺伝子のE-box配列に結合し転写を活性化する.翻訳されたPERやCRYタンパク質は,核へと移行しCLOCKとBMAL1による転写を抑制する.この結果,PerCryの発現量はリズム性を示す.また,時計遺伝子のノックアウト(KO)マウスは,概日行動リズムに異常を示す.例えば,常時消灯下でのCry1Cry2それぞれのKOマウスの概日行動リズムは,短周期および長周期となり,ダブルKOマウスでは概日リズムは消失する.このように,培養細胞や遺伝子改変動物を用いて,概日リズムの分子機構やその生理的意義は広く研究されてきた.しかし,ヒトのリズム異常を対象とした研究はあまりなされていなかった.
    本稿では,ノーベル賞受賞者の1人であるYoungらによる,ヒトCRY1遺伝子の変異に基づく睡眠障害を報告した論文を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Brown S. A. et al., Dev. Cell, 22, 477-487(2012).
    2) Patke A. et al., Cell, 169, 203-215(2017).
  • 丸岡 純也
    2018 年 54 巻 3 号 p. 256
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    筋委縮性側索硬化症(ALS)は運動神経の脱落による四肢の麻痺から始まり,その後2〜5年で呼吸に関わる運動神経の障害による呼吸不全で死に至る疾患である.感覚神経には影響が少ないため,視覚や聴覚などの五感が正常なまま症状が進行し,患者の生活の質(QOL)を著しく低下させる.現在,国内で唯一承認されている治療薬リルゾールをALSモデルマウスに投与しても手足の震えなどの運動機能低下に効果はなく,生存期間の延長が1割の動物でみられるのみである.最近Beckerらは,ALSモデルマウスで寿命の短縮だけでなく筋力の低下の原因となるタンパク質を同定したので紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Becker L. A. et al., Nature, 544, 367-371(2017).
    2) Neumann M. et al., Science, 314, 130-133(2006).
    3) Johnson B. S. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 105, 6439-6444(2008).
    4) Elden A. C. et al., Nature, 466, 1096-1075(2010).
  • 山口 貴弘
    2018 年 54 巻 3 号 p. 257
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    多剤耐性菌は世界中で急速に発生拡散しており,多剤耐性菌感染症による健康リスクは増大している.近年,多剤耐性菌感染症の治療に効果的であるとしてコリスチンが再注目されている.コリスチンは1950年に日本で発見された抗菌薬であり,主に家畜の飼料添加物として世界中で利用されている.ヒトに対しては,腎毒性や神経毒性等の副反応が強く,使用は限定されていた.しかし,多剤耐性菌感染症の最終選択薬として,日本でも2015年に一部の多剤耐性グラム陰性菌の感染症治療薬として適応が認められた.多剤耐性菌に対する「最後の切り札」として期待されているコリスチンであるが,2015年にプラスミド性コリスチン耐性遺伝子(mobilized colistin resistance gene)mcr-1を持つ大腸菌が初めて報告され,それ以降,各国で臨床検体,食肉等から数多く検出されている.また,mcr-1以外のプラスミド性コリスチン耐性遺伝子が次々に報告され,多剤耐性菌感染症の治療への影響が懸念されている.
    プラスミド性コリスチン耐性が拡散している原因は,コリスチン耐性遺伝子を持つプラスミドが,同種もしくは異種の細菌に水平伝達していくことや,可動性挿入配列IS(insertion sequence)のような転移因子(transposable genetic elements)による拡散が考えられる.今回はISの一種であり,コリスチン耐性拡散の要因とされているISApl1に関する研究について紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Liu Y. et al., Lancet Infect. Dis., 16, 161-168(2016).
    2) Poirel L. et al., Antimicrob. Agents Chemother., 61, e00127-17(2017).
  • 柴田 海斗
    2018 年 54 巻 3 号 p. 258
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患(IBD)は若年時に多く発症するため,女性患者では薬物治療を継続しながら妊娠・出産を迎えることがある.抗腫瘍壊死因子(TNF)α抗体薬のインフリキシマブおよびアダリムマブはIBDの難治例に使われており,妊娠中も治療を継続することで流産や低出生体重児の出産の危険性が低くなることが報告されている.一方,これらの薬剤はIgG1モノクローナル抗体であるため,胎児性Fc受容体(FcRn)を介して胎盤を通過することが知られている.出産前に抗TNFα抗体薬の投与を中断しているにもかかわらず,臍帯血や出生児の血液中から高濃度の薬物が検出されたとの報告もある.このような背景から,妊娠中の抗TNFα抗体薬の使用によって出生児の免疫力が低下し,感染などを引き起こすことが危惧されている.抗TNFα抗体薬の胎児・出生児への移行性に関する研究は多く行われているが,妊娠期間における移行性と母体血中濃度との関係に着目した報告はほとんどない.そこで本稿では,妊娠中のIBD患者を対象に,インフリキシマブおよびアダリムマブの体内動態に関する前向き臨床試験の結果について紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Nguyen G. C. et al., Gastroenterology, 150, 734-757(2016).
    2) Julsgaard M. et al., Gastroenterology, 151, 110-119(2016).
    3) Seow C. H. et al., Aliment. Pharmacol. Ther., 45, 1329-1338(2017).
    4) Malek A. et al., Am. J. Reprod. Immunol., 36, 248-255(1996).
速報 資料
  • severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS
    加藤 博史
    2018 年 54 巻 3 号 p. 237-238
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/01
    ジャーナル フリー
    重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)は2011年に中国の研究者らにより報告されたマダニ媒介性新興ウイルス感染症であり、出血熱様症状を引き起こし、致命率の高い重篤な疾患である。日本では主に西日本から患者が報告されている。現在のところ、有効な治療薬やワクチンはなく、これらの研究、開発が期待されている。本稿ではSFTSの疫学、ウイルスの性質、臨床上の特徴、感染対策について解説し、SFTSの全体像を俯瞰したい。
追悼
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