2017年のノーベル生理学・医学賞は,概日リズムを制御する分子機構を明らかにしたHall,Rosbash,Youngの3人に授与された.彼らの研究を発端とし,24時間周期の概日リズムが,地球の自転による明暗変動ではなく,生体の個々の細胞が持つ時計遺伝子により主体的に形成されることがわかってきた.概日リズムの分子機構は,植物,昆虫,ヒトと進化上,高度に保存されており,ほ乳類では転写活性化因子であるCLOCKとBMAL1のヘテロダイマーが,
Perや
Cry遺伝子のE-box配列に結合し転写を活性化する.翻訳されたPERやCRYタンパク質は,核へと移行しCLOCKとBMAL1による転写を抑制する.この結果,
Perや
Cryの発現量はリズム性を示す.また,時計遺伝子のノックアウト(KO)マウスは,概日行動リズムに異常を示す.例えば,常時消灯下での
Cry1と
Cry2それぞれのKOマウスの概日行動リズムは,短周期および長周期となり,ダブルKOマウスでは概日リズムは消失する.このように,培養細胞や遺伝子改変動物を用いて,概日リズムの分子機構やその生理的意義は広く研究されてきた.しかし,ヒトのリズム異常を対象とした研究はあまりなされていなかった.
本稿では,ノーベル賞受賞者の1人であるYoungらによる,ヒト
CRY1遺伝子の変異に基づく睡眠障害を報告した論文を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Brown S. A.
et al.,
Dev.
Cell,
22, 477-487(2012).
2) Patke A.
et al.,
Cell,
169, 203-215(2017).
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