ファルマシア
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57 巻, 1 号
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目次
  • 2021 年 57 巻 1 号 p. 2-3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    特集:ガス状物質による生体制御と治療
    特集にあたって:毒ガスとして使用された一酸化窒素(NO)の生体内での産生が明らかとなって以来,生理作用メカニズム,検出法,創薬に至るまで,今では最も研究が進められているガス状分子となっている.最近では,一酸化炭素(CO)や硫化水素(H2S)などのガス状分子の生体内産生も明らかにされ,生体内メディエーターとしての機能について盛んに研究されている.一方で,水素ガスやヘリウムのようなガス状物質も吸入療法という観点から最近注目されている.本特集号では,これらの生体内に影響を及ぼすガス状物質について,毒性,生体内での役割,創薬の可能性,医療応用などの観点から考えてみたい.
    表紙の説明:医薬品が「両刃の剣」と言われるように,毒ガスとしての印象が強いガス状物質も,使い方次第では疾患を治療することも可能であり,これらガス状物質もまた「両刃の剣」となることを忘れてはならない.1人でも多くの患者が病気を克服し元気になるよう,生体に対するガス状物質のメリットを利用した医薬品や治療法が開発されることを切に願う.
オピニオン
  • 熊谷 嘉人
    2021 年 57 巻 1 号 p. 1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    一酸化窒素(NO)、一酸化炭素(CO)、硫化水素(H2S)は、古くから毒ガスとして知られている一方で、これらガス状物質は生体内で産生され、種々の薬理作用を呈することやシグナル分子として機能することも明らかにされている。その結果、「ガスバイオロジー」という学問分野が発展し、水素ガスやヘリオックスガスの臨床応用へと繋がっている。さらには、H2Sと活性イオウ分子の関係やNOとH2Sのクロストークも見出されてきた。
Editor's Eye
最前線
話題
最前線
話題
最前線
  • 田中 智弘, 西田 基宏
    2021 年 57 巻 1 号 p. 29-33
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    硫化水素(H2S)は無色の気体で、腐卵臭と呼ばれる独特の臭気を持つ強力な毒ガスであるが、体内でも低濃度産生されることが知られている。酵母や、線虫、ハエなどの平均寿命を延伸させることが報告されて以来、H2Sの持つ抗老化作用がにわかに注目を集めている。近年、筆者らは、H2Sから生成される「活性イオウ分子種(reactive sulfur species:RSS)」がその抗老化作用の活性本体であることを見いだした。本稿では、H2S由来RSSの細胞内生成機構、老化予防効果を引き起こすメカニズム、そしてエネルギー代謝やタンパク分子・オルガネラの品質管理における役割について最新の知見を含めて紹介する。
話題
  • 木村 英雄
    2021 年 57 巻 1 号 p. 34-38
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    毒ガスとして知られている硫化水素(H2S)は、生体内において、神経伝達や、血管緊張性、炎症を調節し、細胞の酸化ストレスからの保護、生体内におけるエネルギーの産生や酸素濃度センサーとしての役割を担っている。H2Sは、L-システイン及びD-システインから酵素反応によって合成される。また、Sがさらに直列につながったポリサルファイド(H2Sn)も酵素反応によって生合成され、シグナル分子として働いていることが分かってきた。H2SやH2Snは、標的タンパク質のシステイン残基にさらに硫黄原子を付加するS-過硫化や、ヘムタンパクの鉄に結合することによって、その機能を調節している。ここでは、H2SとH2Snの生理機能とその乱れによって生じる疾患について概説する。
最前線
  • 森川 和彦
    2021 年 57 巻 1 号 p. 39-43
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    ヘリウムと酸素の混合ガスであるヘリオックスは,ヘリウムガスの密度が小ささから得られる物理学的特性により,気道狭窄病変において気道抵抗を低下させることで効果を発揮する.気道狭窄病変が適応となるが,特に気道径の細い乳幼児期の喘息や細気管支炎,先天性気道狭窄症などに対する効果が期待される.ヘリオックスには抗炎症作用などの直接的な治療効果はなく、原因療法の効果が発現するまでの、または疾患が回復するまでの治療の橋渡しとしての役割が考慮される.現在,医薬品開発が進んでおり,臨床現場への提供が待たれる.
最前線
  • 山元 良, 本間 康一郎, 佐野 元昭, 佐々木 淳一
    2021 年 57 巻 1 号 p. 44-47
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    水素ガス吸入療法に関する様々な動物および臨床研究が行われており、種々の疾患・病態に対して治療効果を持つことが示唆され、人に対しての安全性が示されている。特に、急性心筋梗塞や心肺停止蘇生後症候群、さらには新型コロナウイルス感染症においての治療研究が進んでおり、心肺停止蘇生後症候群に関しては、二重盲検下ランダム化比較試験が複数の医療機関において現在進行中である。ここでは、水素ガスの将来の新規薬剤としての可能性を紹介する。
FYI(用語解説)
  • 花岡 健二郎
    2021 年 57 巻 1 号 p. 48_1
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    蛍光色素の分子構造中もしくはその近傍にヨウ素原子や臭素原子,金属イオンなどの原子番号の大きな原子が導入されることで,蛍光色素の発蛍光が起こらなくなる現象が見られる.通常,蛍光色素への光の照射により蛍光色素は励起一重項状態となり,基底状態へと戻るとともに蛍光を発する.しかし,原子番号の大きな原子が近傍に存在することで,電子の公転と自転により誘起された2種類の磁気モーメントの相互作用であるスピン-軌道相互作用が生じ,これが大きいほどスピン反転がしやすくなる.これを重原子効果と呼ぶ.このスピン反転によって,励起一重項状態の蛍光色素が励起三重項状態へとなり,それによって蛍光が消光する.
  • 家田 直弥
    2021 年 57 巻 1 号 p. 48_2
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    基本的に化合物は,電位を変化させていくとある特定の電位で電子の授受が起き,電流が大きく流れる.この大きく応答電流が流れる際の電位を酸化還元電位と言い,この値を調べることによって,電子移動反応の反応メカニズムを調べることができる.サイクリックボルタンメトリーは電気化学測定の基本的な測定方法の1つで,電位を一定の値まで掃引させた後,反対方向に電位をまた掃引させていく.このように,同じ電位を「サイクル」させながら応答電流を測定する.サイクリックボルタンメトリー以外にも様々な電気化学測定方法があり,測定対象,感度,条件によって様々に使い分けて測定を行う.
  • 加部 泰明, 末松 誠
    2021 年 57 巻 1 号 p. 48_3
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    細胞を構成する低分子,生命活動により生じる代謝物を包括的に解析することにより,生命現象を明らかにする研究分野のこと.代謝物の数はヒト,腸内細菌叢,植物などで多様性が存在しており,各種の試料が解析に用いられる.基盤技術としては質量分析技術があり,精密に質量数を読み取ることによって,低分子であれば組成式までを決めることも可能である.また特定の代謝物の同定ではなく,サンプル中に含まれる代謝物の原子間相互作用によって生じるラマン散乱光を金属ナノ粒子によって増強し検出する技術(表面増強ラマンスペクトル=SERS)も,低分子代謝物の同定に利用できる.質量分析技術,表面増強ラマン技術ともに組織切片などの空間情報を壊さずに代謝物分布を見る技術に展開することが可能で,imaging metabolomicsと呼ばれる.
  • 北岸 宏亮
    2021 年 57 巻 1 号 p. 48_4
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    アンカップリング(脱共役)反応とは,ミトコンドリアの電子伝達系において形成される内膜を介したプロトン濃度勾配を,ATP合成反応と共役させずに解消する反応を指す.ミトコンドリア内膜にはプロトン輸送体として脱共役タンパク質(uncoupling protein: UCP)が存在し,プロトンの受動輸送により膜間のプロトン濃度勾配を解消する.その際プロトン流入エネルギーが熱エネルギーに変換されるため,脱共役タンパク質UCP-1は別名サーモゲニンとも呼ばれ,動物の熱産生において重要な役割を果たす.食物から得られたエネルギーを熱として放出するため,UCPの機能向上は肥満抑止につながると考えられている.
くすりの博物館をゆく
  • 池田 幸弘
    2021 年 57 巻 1 号 p. 50-51
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    電子付録
    滑川といえばホタルイカ.おなじみの沖漬けに加え,地元ならではの新鮮な素材を用いた様々な料理を楽しみつつ,滑川市立博物館へと向かう.
    館は富山湾を見下ろす丘陵地に位置し,すこぶる眺望が良い.背中の方を振り返ると,今度は立山山系がどっしりと構えており,景色を楽しむためだけでもここに来る価値はありそうである.とはいっても,せっかくここまで来たのだから中に入るとしよう.本館は,滑川の歴史,文化ならびに民俗資料の収集と展示を軸として1979年(昭和54年)に滑川文化センター内に開館し,2001年(平成13年)に現在の単独の施設に移転した.地域に根ざした博物館として,地元の歴史や文化に関する資料を幅広く収集し,それらに関する調査・研究成果を展示・紹介することにより,今日まで発展してきている.
日本ベンチャーの底力 その技術と発想力
日本人が知らないJAPAN
トピックス
  • 西山 義剛
    2021 年 57 巻 1 号 p. 56
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    医薬品の中心骨格には,ピペリジン,ピロリジン,ピペラジンなど,窒素原子を含む飽和ヘテロ環が多く見られる.しかし,一般的に,置換基の異なる様々な環状アミン類の合成には多段階を要することから,より効率的な手法の開発が望まれている.このような背景のもと,環状アミンのα位やβ位への置換基の導入は,古くから精力的に研究されてきた.その中で最もよく使われる方法は,アミンを酸化してエナミンを経由する手法である.しかし,その手法の多くはエナミンを生成しやすい第三級アミンを基質とした手法であり,無保護の環状アミンなどの第二級アミンを基質とする手法はほとんど開発されていなかった.これに対して,最近Seidelらは,穏和な酸化剤によるイミン形成を鍵として,無保護の環状アミン類のα位とβ位とを連続的に修飾する方法を開発した.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Wittig G., Hesse A., Liebigs Ann. Chem., 746, 174-184(1971).
    2) Takasu N. et al., Org. Lett., 15, 1918-1921(2013).
    3) Chen W. et al., Nat. Chem., 12, 545-550(2020).
    4) Chen W. et al., Nat. Chem., 10, 165-169(2018).
    5) Pal K. et al., Tetrahedron Lett., 34, 6205-6208(1993).
  • 辻 厳一郎
    2021 年 57 巻 1 号 p. 57
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    現在,神経変性疾患に対する治療薬を開発するうえで,タウタンパク質(Tau)を標的とした治療戦略が注目されている.今回著者らは2種の核酸アプタマーを連結・環化させた構造体を利用した,Tauの凝集抑制作用に関して報告しているので紹介する.
    Tauの異常病変に起因する神経変性疾患はタウオパチーと呼ばれ,異常リン酸化によって凝集したTauが蓄積することが発症の原因と考えられている.現在,神経変性疾患に対する低分子や抗体をベースとした治療薬開発が難航していることから,核酸分子を利用した治療薬の開発に注目が集まっている.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Li X. et al., J. Am. Chem. Soc., 142, 3862-3872(2020).
    2) Macdonald J. et al., Nucleic Acid Ther., 26, 348-354(2016).
    3) Teng I. -T. et al., J. Am. Chem. Soc., 140, 14314-14323(2018).
    4) Kuai H. et al., J. Am. Chem. Soc., 139, 9128-9131(2017).
  • 小暮 洋子
    2021 年 57 巻 1 号 p. 58
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    ニンジンは,オタネニンジンの根を湯通しして乾燥した生薬であり,滋養強壮剤として有名である.補中益気湯,十全大補湯,人参養栄湯などの漢方処方に配剤されるほか,栄養ドリンクなどの健康食品にも広く利用されている.ニンジンには種々のサポニンが含まれるが,特にプロトパナキサジオール系サポニンに分類されるギンセノシドRb1およびRb2などは,体内の腸内細菌によってギンセノシドコンパウンドK(CK)に代謝され,薬理作用を示すことが明らかとなっている.CKは,糖尿病,炎症,がん,ならびに認知障害を含む加齢に伴う諸症状などを改善することが近年相次いで報告され,大変注目されている.本稿で紹介するOhらの研究では,CKがマウス海馬の細胞増殖および神経細胞への分化を促進させることが明らかになった.さらに,老齢マウスの神経新生に対する作用を評価したことで,CKがアルツハイマー病や加齢に伴う記憶障害に対し有益である可能性が示唆された.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Hasegawa H. et al., Planta Med., 62, 453-457(1996).
    2) Oh J. M. et al., Biomolecules, 10, 484(2020).
  • 六車 宜央
    2021 年 57 巻 1 号 p. 59
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    低分子からDNA,タンパク質まで,自然界にはキラリティーを持つ分子が多数存在している.細胞や体液中の内因性キラル分子は,重要な生理活性や基質特異性を示しながら密接に連動し機能しているため,キラリティーおよびその変化を分析する手段は,重要な位置づけとなる.一般的に,単純な溶液環境下のキラリティー分析には,左廻りおよび右廻りの円偏光に対する吸光度の差,すなわち円二色性(circular dichroism: CD)が用いられているが,複雑系の試料溶液で得られるCDスペクトルは非常に煩雑となり,そのデータ解釈は困難である.一方,夾雑物の多い生体試料中の内因性物質の測定に多用されている質量分析法(mass spectrometry: MS)はキラリティー認識には適しておらず,検出系として応用することは難しいと考えられていた.その中で,キラリティー識別が可能なCDと選択的な質量分離が可能なMSを複合化させた新たな分析技術が開発されたため,本稿で紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Daly S. et al., Science, 368, 1465-1468(2020).
    2) Li R. et al., J. Chem. Phys., 125, 144304(2006).
    3) Hong A. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 53, 7805-7808(2014).
  • 津山 崇
    2021 年 57 巻 1 号 p. 60
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    がんの分子標的療法は奏効性が高いものの,腫瘍の一部が薬剤耐性を示して生き残り,増殖を続けて再発することが大きな問題となっている.この耐性は,治療前に既に存在していたサブクローンが有する遺伝子変異(以後,変異)によるものが主な原因であると広く考えられていた.一方,バクテリアでは抗生物質などによる致死性ストレスに対して,DNAミスマッチ修復(mismatch repair: MMR)遺伝子群の発現減少と,正確性の低い(error-prone)DNAポリメラーゼの発現増加によって突然変異率を上昇させることで,適応的変異の発生率を増加させることが知られている(stress-induced mutagenesis: SIM).がん細胞における変異の発生は,抗がん剤によるストレスへの適応を促進するが,SIMのような変異発生プロセスの存在については明らかとなっていなかった.
    本稿では,分子標的薬処理を受けているがん細胞で,ゲノムの不安定性が一時的に亢進し,その結果生じた変異が薬剤耐性の原因となることを示した報告ならびに,この耐性獲得にmammalian target of rapamycin(mTOR)シグナル経路が関与していることを示した報告を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Russo M. et al., Science, 366, 1473-14480(2019).
    2) Cipponi A. et al., Science, 368, 1127-1131(2020).
    3) Gerlinger M. Science, 366, 1452-1453(2019).
  • 荒木 良太
    2021 年 57 巻 1 号 p. 61
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    脳と腸は,自律神経系や液性因子(ホルモンやサイトカインなど)を介して密に関連していることが知られている.近年,次世代シーケンサーを用いたメタゲノム解析法の登場により,ヒトの腸内細菌叢の実態が明らかになってきた.このことから,脳と腸だけでなく腸内細菌叢を加えた「脳-腸-腸内細菌叢軸」という概念が提唱され,腸内細菌叢の包括的な解析による中枢神経系疾患の病態メカニズムの解明が期待されている.こうした背景から本稿では,メタゲノム解析とバイオインフォマティクスツールにより,統合失調症患者の腸内細菌叢を包括的に解析したZhuらの論文を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Zhu F. et al., Nat. Commun., 11, 1612(2020).
  • 小川 慶子
    2021 年 57 巻 1 号 p. 62
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    過去20年間の取り組みによってマラリアの罹患率と死亡率は大きく低下したが,最近では再び症例数の増加が見られており早急な対策が求められている.マラリアの予防手段の1つに化学的予防がある.化学的予防とは,事前に予防内服をすることで感染防御をする手段である.しかし,現状では耐性や副作用の問題で使用できる場面は限られている.また,これまではマラリア原虫の複数の発育ステージに効力を発揮する強力な治療薬の開発が目標とされてきたため,特定の発育ステージのみに作用する薬剤や遅効型の予防薬剤の開発は遅れていた.Abrahamらは,低分子ライブラリを用いたデータ分析に基づくケモインフォマティクス手法とマラリアの発育ステージに応じた活性評価を組み合わせて検討することで,化学的予防薬剤を含む抗マラリア薬探索の効率化を試みたので紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) World health Organization. “World malaria report 2019”,2020年8月27日.https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/malaria.
    2) Abraham M. et al., ACS Infect. Dis., 6, 613-628(2020).
    3) Goering V. R. ほか,“ミムス微生物学:カラー版(第4版)”,西村書店,東京,2012, pp. 370-373.
  • 山下 修司
    2021 年 57 巻 1 号 p. 63
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/01
    ジャーナル フリー
    ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)は,主としてCD4陽性Tリンパ球とマクロファージ系の細胞に感染するレトロウイルスである.HIV感染症治療は,2次感染の予防,後天性免疫不全症候群(AIDS)および非AIDS関連悪性腫瘍発症抑制を目的として,複数の抗ウイルス薬を併用する抗レトロウイルス療法(antiretroviral therapy: ART)が標準として行われている.
    ARTによってHIV-1感染患者の生命予後は大きく改善したものの,HIV-1を体内から完全に排除することは極めて困難であり,平均約73.4年の服薬継続が必要と推定されている.このため感染様式を考慮すれば,HIV-1感染患者は,ほぼ一生涯にわたって服用を継続する必要があり,かつ治療成功のためには,服薬アドヒアランスの維持が極めて重要となる.これまでの報告から,簡略化されたレジメンを用いることで,患者の満足度を高め,アドヒアランス向上に寄与することができる可能性がある.
    本稿では,長時間作用型インテグラーゼ阻害剤のカボテグラビルと非核酸系逆転写酵素阻害剤のリルピビリンの注射剤による月1回投与のレジメンが,標準的な経口薬による連日投与のレジメンに対して非劣性であることを示した報告(ATLAS試験)を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Siliciano J. D. et al., Nat. Med., 9, 727-728(2003).
    2) Spreen W. R. et al., Curr. Opin. HIV AIDS., 8, 565-571(2013).
    3) Swindells S. et al., N. Engl. J. Med., 382, 1112-1123(2020).
    4) Orkin C. et al., N. Engl. J. Med., 382, 1124-1135(2020).
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