ファルマシア
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52 巻 , 1 号
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目次
  • 2016 年 52 巻 1 号 p. 2-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    特集:医療安全への取り組み それぞれの立場から
    特集にあたって:医療界において,「安全」が認識され始めたのは1990年後半からであり,それ以後,様々な医療事故が報道されてきた.その都度,国も様々な対策を講じてきたものの,現在でも医療事故が紙面を賑わすことが少なくない.医療事故が起こると「2人の被害者がでる」と言われている.1人は言うまでもなく,医療事故を受けた被害者(患者)であり,もう1人は医療事故を起こしてしまった加害者(医療従事者)である.医療事故を起こしてしまったことにより,マスコミや他団体などから精神的な圧力を受け,その後の医療従事者としての職務を全うできなくなった方も少なくない.そのようなことを少しでもなくすために,個々の医療従事者や病院単位だけでなく,薬学会全体で薬剤による医療事故について包括的に考える必要があると考え,本企画を立案した.本特集が,少しでも医療事故の防止に役立っていただければ幸いである.
    表紙の説明:右上:PDCAサイクルとはplan(計画),do(実行),check(評価),action(改善)という一連の業務改善の流れで,生産/品質管理等の業務を円滑に進めるために使われている手法であるが,医療安全対策もこの手法に従って行う必要がある.左下:PMDAでは,カリウム製剤の投与方法に関し注意喚起を行うことを目的として,PMDA医療安全情報「カリウム製剤の誤投与について」を作成した.その他様々な安全情報を発出し,医療事故防止のための対策を講じている.
オピニオン
  • 古川 裕之
    2016 年 52 巻 1 号 p. 1
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    大学薬学部,そして大学院修士課程を経て,母校の医学部附属病院薬剤部に就職してから,38年半が過ぎた.当時,国立大学,それも大学院修士課程を修了した者は,もの好きでないと「薬剤師」という職業を選ばなかった.しかし,個人的には,薬学部を卒業して薬剤師国家試験を受けるのだから,「薬剤師」になるのは当然だと思っていた.
    業務と並行して基礎研究を勧める上司との意見が合わず,干されていた.その時に出会ったのが,オレンジ色表紙の廣川書店「臨床薬学と治療学(上,下)」.1978年11月のことである.それは,「Clinical Pharmacy and Therapeutics」というUSA発行書籍の翻訳だった.一番感動したのが,これを,USAの薬学教員と臨床薬剤師がまとめたという点である.そこに希望の光を見た.
    干されている僕を見て,家族を含め,周囲の多くは,耐えられずに辞める…と思っていたらしい.その期待(?)に反して,山口大学に移動するまでの33年半,ずっと金沢大学病院に勤めた.「辞める」ことは,「逃げる」ということだと思っていた.社会人になってちょうど30年目,大学院博士課程の社会人学生となった.ピンク色の学生証を持ち,久しぶりに「学割」を使って学会にも出かけた.そして学位取得後,教員になったが,ずっと臨床現場にいた.「薬剤師」を続けるのだから,少しでも多くの経験を積み重ねようと心掛けた.
    2012年4月の診療報酬改定で,「病棟薬剤業務実施加算」が新設された.これは,1988年4月に新設された個別評価の「薬剤管理指導料(1994年まで「入院調剤技術基本料」)」とは違って,「体制評価」である.つまり,時間がある時に限られた入院患者のもとに行くというのではなく,全入院患者を対象とした病棟での週20時間の病棟業務が求められた.予想外のことであった.その結果,本院でも,過去3年間で21人の6年制課程卒業生を迎えることになり,現在,全員が1日の半分以上,病棟での業務に従事している.
    薬局が仕事の中心であった時代,薬剤師の仕事というのは,ベールに覆われていた.ところが,薬局の外に出て,医師や看護師とともに医療チームの一員として患者の目の前に立った時,「薬剤師の仕事って,何ですか?」という,患者や医療スタッフからの質問に対して,「なるほど!!」と納得してもらえる回答が欲しいと思った.
    ずっと考えた結果,たどり着いたのは「薬のリスクから患者を守る!!」というフレーズ.薬物治療において,医師は「有効性」に注目する.薬剤師は「安全性」に注目することにより,医師と薬剤師の良好な役割分担が実現する.薬物治療を受けている患者の多くは,副作用(「薬物有害反応」という意味で使用)に強い関心を持っている.副作用の不安を抱えている患者に,薬剤師が「私があなたを薬のリスクから守ります!!」と伝えたら,その患者は,どう感じるだろうか? きっと,あこがれの王子様に出会ったように,その目が“キラ☆キラ星”になるのでは…と想像した.
    「薬のリスクから患者を守る!!」…というフレーズ,本院の患者向け情報誌の10月号表紙にも掲載された.スタッフには,これが「薬剤師の仕事って何ですか?」という質問に対する有効な回答であると説明し,今日もまた,患者のもとに送り出した.
Editor's Eye
セミナー
  • 草間 直子
    2016 年 52 巻 1 号 p. 11-15
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    1999(平成11)年に発生した患者取り違え事故や消毒薬の血管内投与による死亡事故を契機に,医療事故が社会問題となった.こうした背景から厚生労働省では,医療の安全の確保を医療政策における最も重要な課題の1つとして位置付け,これまで各医療関係者(医師,歯科医師,薬剤師,看護師等の医療従事者や病院関係者,医薬品等の製造,販売に関わる事業者等)において進められてきた取組を基礎に新たな展開として,2001(平成13)年を「患者安全推進年」と位置付け,各関係者との共同行動として,総合的な医療安全対策を推進することとし,同年4月に医政局総務課に,医療安全対策を推進するための企画・立案などを行う「医療安全推進室」を設置し,同年5月に医療安全対策の基本的な方向性と緊急に取り組むべき課題を検討するため,幅広い分野の専門家による「医療安全対策検討会議」を設置した.その後,2002(平成14)年4月にとりまとめられた「医療安全推進総合対策」,2005(平成17)年6月にとりまとめられた「今後の医療安全対策について」を踏まえ,医療安全対策を推進してきた.
    本稿では,これまで厚生労働省が取り組んできた主な医療安全対策に加え,2015(平成27)年10月に施行された医療事故調査制度について説明する.
セミナー
  • 野村 英宏, 山本 雅人, 長尾 能雅
    2016 年 52 巻 1 号 p. 16-20
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    医療界では「医療の質」の確保が必要と言われるようになった.その背景には,医療に対する国民からの視線が一因としてある.情報化社会の急速な発展により,国民は最新の医療の情報を容易に手にすることが可能になり,医療の消費者とも言える国民の厳しい視線に強くさらされることとなった結果と言える.このように,医療を取り巻く環境の変化に応じるため医療の質の確保が必要となった.こういった状況の変化を受けて,我が国では厚生労働省を中心に医療の質を確保するための対策がなされてきた.その1つとしてインシデントの収集事業というものがある.インシデントとは,「患者に対し誤った医療行為が実施されるまえに発見,もしくは実施されたものの,特に患者に有害な事象が起きなかったもの」を指す.この事業により,各医療機関においてもインシデントの収集,業務改善を行うようになってきた.
    今回,医療安全の経緯を説明し,薬剤師が行ったインシデントの収集解析から業務改善までの取り組みを紹介する.
セミナー
セミナー
  • 荒井 有美
    2016 年 52 巻 1 号 p. 26-30
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    当院では,日々約25~30件のインシデントレポートが報告される.医療の質・安全推進室では,常時インシデントレポートを漏れなく確認し,迅速性や重要度によってトリアージを行い,病院としての必要な対応につなげている.インシデントレポートは軽微なエラーと判断される事象にも潜在的なリスクが内在されている場合があり,医療安全管理者は決して見落とさないように努めている.また,インシデントレポートから得られたリスクについての対応は,実に様々である.担当部門や職種間による運用調整から,病院全体の考え方や仕組みの変更まである.これを日々繰り返しながら,患者へ安全な治療とケアを推進し,かつ職員が安心して働ける職場づくりに貢献するのが医療安全管理者の業務である.
    筆者は,大学病院の病棟薬剤師と看護師の勤務を経て,この役割を請け負っているが,双方の勤務経験を活かした取り組みを心掛けている.
    このような経験から薬剤師の方々の取り組みにも役立つよう執筆した.
セミナー
  • 高橋 健中
    2016 年 52 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    医薬品医療機器総合機構(PMDA)は,日本医療機能評価機構が行う「医療事故情報収集等事業」および「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」において公表された事例,医薬品医療機器法に基づく副作用・不具合報告,新聞などのマスコミによる医療事故などに関する報道内容などの情報源をもとに,「もの」の観点から医薬品及び医療機器の適正使用に資する医療安全対策の必要性について調査・検討を行い,医薬品の市販後の医療安全対策を講じている.
    本稿では,過去に医薬品の包装や表示といった「もの」の見直しの対策をした事例や,「PMDA医療安全情報」の発出により注意喚起を行ったものの,現在でも繰り返し類似事例が発生しているものを紹介する.
話題
  • 山口 重樹, 長嶋 祥子, 五月女 俊也
    2016 年 52 巻 1 号 p. 36-38
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    我が国においても即効性オピオイド製剤(rapid onset opioids:ROO)と呼ばれるフェンタニル口腔内吸収製剤(transmucosal immediate release fentanyl:TIRF)の使用が開始された.現時点では,我が国において使用可能なTIRFはフェンタニルクエン酸塩口腔粘膜吸収製剤(イーフェンバッカル錠)とフェンタニルクエン酸塩舌下錠(アブストラル舌下錠)であるが,いずれも添付文書上の効能効果は「強オピオイド鎮痛剤を定時投与中の癌患者における突出痛の鎮痛」と記載されている.要するに,TIRFは突出痛専用治療薬である.本稿では,TIRFが安全かつ有効に使用されるために必要な「突出痛の概念」と「TIRFの適切使用」について述べる.
話題
話題
  • 高橋 弘充
    2016 年 52 巻 1 号 p. 42-44
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    医療安全対策の重要性に対する認識は1999(平成11)年1月の患者とり違え事故,同年2月の消毒薬誤注入事故を契機に急速に拡大した.そして,平成12年厚生労働省が「医療安全対策連絡会議」を設置,2001(平成13)年医療安全対策ネットワーク整備事業(ヒヤリハット事例収集事業)がスタートした.また,更なる医療安全の充実を求め「医療安全対策加算」「医療機器安全管理料」「薬剤管理指導料」等の診療報酬上の評価,医療安全管理者,医薬品安全管理責任者の配置など医療安全を担保するための絶え間ない努力と調整が続いている.そのような状況下で,病院数は1990年の10,096病院1,949,493床をピークに減少を続け,2013(平成25)年10月1日現在で8,540病院1,695,210床と報告されている.病院情報システムについてはハードウエア,ソフトウエアの急速な進歩に伴い,診療情報システムの導入は増加している.とはいえ,電子カルテの普及率は全病院8,540施設を対象とすると21.7%で2割程度と低く,規模の大きい400床以上の病院では61.5%である.また,オーダリングシステムの導入は頭打ちとなり,電子カルテへの移行が進んでいる.
    ここでは,医事会計,処方,検査オーダなど他部門へのオーダ依頼の効率化からスタートし,診療情報を取込み,オーダリングシステム,電子カルテへと移行を続ける診療情報システムについて,システムの概要,入力時のアラート・エラー機能の現状,および医療安全の側面から解説する.ただし,システムベンダーの最先端の技術,導入施設によるカスタマイズといわれる機能追加変更により,更なる高度なシステムも存在することも了解頂きたい.
話題
  • 杉浦 宗敏
    2016 年 52 巻 1 号 p. 45-47
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    2000年前後に相次いで発生した医療事故を背景として,医療に対する国民の不信感が社会問題になった.国は,医療安全に関する施策の見直しを進め,2006年の医療法改正によって全ての医療機関において医療安全確保のために体制を構築することを義務化した.薬剤師は医療安全確保の中で,特に医薬品の安全な使用確保において重要な役割を担う必要がある.したがって,6年制に移行した薬学教育においても社会のニーズに合った薬剤師を養成する責務があり,薬学教育モデル・コアカリキュラム(2002年8月)や実務実習モデル・コアカリキュラム(2003年12月)の中で,医療安全に関する到達目標(specific behavioral objectives:SBOs)が挙げられている.本稿では,本学薬学部における医療安全教育を例に挙げ,今後の展望について紹介したい.
話題
話題
  • 吉田 匡宏
    2016 年 52 巻 1 号 p. 51-53
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    医薬品における包装の役割とは何であろうか? 製剤を包む入れ物であるという表現が端的であるが,包装することにより製剤の保証期間を担保し,包装表示により提供できる情報量を飛躍的に増やすこともできる.内容物の保護は,医薬品の有効性と安全性に関する要素として,まず求められる機能となる.ほかにも安全・安心に関する機能付加など多くの役割を持たせながら,トータル品質として製品を仕上げていくことが医薬品の包装設計である.製薬企業として安全で飲みやすく,使いやすい包装の医薬品開発に日々注力している中で,その一部を紹介する.
家庭薬物語
  • 西脇 純子
    2016 年 52 巻 1 号 p. 54-55
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    効能効果:目の疲れ,眼病予防(水泳のあと,ほこりや汗が目に入ったときなど),結膜充血,目のかすみ(目やにの多いときなど),目のかゆみ,眼瞼炎(まぶたのただれ),紫外線その他の光線による眼炎(雪目など),ハードコンタクトレンズを装着しているときの不快感
    成分分量:【有効成分】パンテノール0.1%,ビタミンB6 0.1%,L-アスパラギン酸カリウム1%,ネオスチグミンメチル硫酸塩0.005%,コンドロイチン硫酸エステルナトリウム0.1%,グリチルリチン酸二カリウム0.1%,クロルフェニラミンマレイン酸塩0.01%,塩酸テトラヒドロゾリン0.01% 【添加物】アミノカプロン酸,塩化Na,l-メントール,d-カンフル,d-ボルネオール,ゲラニオール,ユーカリ油,プロピレングリコール,ペパーミントオイル,ベンザルコニウム塩化物,クロロブタノール,エデト塩Na,ポリソルベート80,ホウ酸,pH調整剤
    用法用量:1回1~3滴,1日5~6回点眼してください.※ソフトコンタクトレンズを装着したまま使用しないでください.
    (上記は現在発売している「新V・ロート」のものを記載)
くすりの博物館をゆく
薬学を糧に輝く!薬学出身者の仕事
薬学実践英語
トピックス
  • 高山 亜紀
    2016 年 52 巻 1 号 p. 70
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    ビアリール化合物は,連結部に回転エネルギー障壁がある場合,軸不斉を生じる.その安定性は,中心不斉と異なり化合物の構造や温度条件によって様々であるため,軸不斉の制御は,有機合成における困難な課題とされてきた.今回,Porco Jrらによって,軸不斉を有するルグロトロシンA(+)-4および(-)-4とそれらのアトロプ異性体の合成・生物活性評価が行われたので紹介したい.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Qin T. et al., Nat. Chem., 7, 234-240 (2015).
    2) Nising C. F. et al., J. Org. Chem., 69, 6830-6833 (2004).
    3) Barder T. E. et al., J. Am. Chem. Soc., 127, 4685-4696 (2005).
    4) Qin T. et al., J. Am. Chem. Soc., 133, 1714-1717 (2011).
  • 田畑 英嗣
    2016 年 52 巻 1 号 p. 71
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    マラリアは,主に熱帯・亜熱帯地域を中心に流行する感染症である.世界保健機関(WHO)によると,2013年には患者数が約2億人にものぼり,死者はおよそ58万人に達したとされる.マラリア原虫は図に示すように,様々に形態を変えながらヒトの肝臓,赤血球(血液)および媒介蚊を巡る生活環を持つ.近年,マラリア治療薬の開発が進みつつあるが,薬剤に対する耐性も認められ,マラリアの危険性はいまだに高く,新たな作用機序を持つ新規治療薬の創出が強く望まれている.本稿では,Baragañaらが見いだした,マラリア原虫の複数のライフステージで作用する新規抗マラリア薬について紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) World Health Organization, World Malaria Report2014 (2014).
    2) Ariey F. et al., Nature, 505, 50-55 (2014).
    3) Baragana, B. et al., Nature, 522, 315-320 (2015).
  • 七田 崇
    2016 年 52 巻 1 号 p. 72
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    西アフリカでエボラ出血熱が流行し,地球規模の混乱を引き起こしたことは記憶に新しい.現地で医療活動に当たっていたアメリカ人がエボラウイルスに感染したことから,ワクチンをはじめとする治療手段の開発について世界的な関心をよんだ.本稿では,ツヅラフジ科植物であるシマハスノハカズラ(Stephania tetrandra S. Moore)に含まれるベンジルイソキノリンアルカロイド2量体のテトランドリンが,エボラ出血熱に対する優れた治療効果を持つことがSakuraiらによって報告されたので紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Sakurai Y. et al., Science, 347, 995-998 (2015).
    2) Kolokoltsov A. A. et al., Drug Dev. Res., 70, 255-265 (2009).
  • 石川 大輔
    2016 年 52 巻 1 号 p. 73
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    ウイルス感染やワクチン接種に反応して,免疫系は様々な抗体を産生する.そして,この産生された抗体の多様性を解析することは,免疫応答を解明する上で重要な知見を与えてくれる.
    近年,B細胞がコードする抗体の遺伝子を解析する手法が急速に発展してきており,これらの手法が液性免疫に関する理解に変化をもたらしている.ヒトの体内には,1~2×1011のB細胞が存在すると言われているが,そのB細胞表面にはB細胞受容体(BCR)として2本の重鎖と2本の軽鎖から成る抗体分子が発現している.そして,抗体遺伝子を解析する手法として以前よりsingle-cell RT-PCRとサンガー法を用いた配列解析が行われてきたが,この手法では1回の実験で数十クローンを取り扱うのが限界であった.そこで,この問題を解決するために次世代シーケンサーよる解析が行われてきた.しかし,これまで検討された多くの方法では,サンプル調製の際に重鎖と軽鎖の関係性が壊れてしまい,重鎖可変領域(heavy chain variable region:VH)もしくは軽鎖可変領域(light chain variable region:VL)のみの配列データしか得ることができず,生体内における正確な抗体の情報を取得することができなかった.そこでDeKoskyらは,これまでの次世代シーケンサーによる抗体遺伝子解析の重要な課題であったVH-VLのペアリングをくずすことなく保持したまま,一度に2×106以上の抗体遺伝子を解析可能な新しいsingle B cell解析法を開発したので,ここに紹介したい.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) DeKosky B.J. et al., Nat. Med., 21, 86-91 (2015).
    2) DeKosky B.J. et al., Nat. Biotechnol., 31, 166-169 (2013).
  • 村瀬 礼美
    2016 年 52 巻 1 号 p. 74
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    大腸がんは現在,先進国におけるがんでの死亡原因の第2位となっている.進行した大腸がんに対しては抗がん剤による治療が一般的であるが,副作用や耐性が問題となる.分子レベルでは,大多数の症例で,がん抑制因子であるadenomatous polyposis coli(APC)に変異が認められている.APCは複数の機能を持つ分子であるが,最も重要な機能として,遺伝子発現や細胞増殖に関わるWntシグナルの制御が挙げられる.APCはWntシグナル伝達経路において,転写促進分子であるβ-カテニンの分解に関与している.APCに変異が生じるとβ-カテニンが正常に分解されず,無秩序な細胞増殖が引き起こされ,大腸がんの発生につながると考えられている.実際,APCに短縮型変異を持つApcMinマウスでは,6か月齢までに主に小腸に50~100個の腫瘍を形成する.このように,これまでAPCを変異させると腫瘍形成が促進されることのみが報じられてきた.今回DowらはAPCの発現を回復させることで,腫瘍形成が抑制され,腸管機能が回復することを報告したので紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Brannon A. R. et al., Genome Biol., 15, 454 (2014).
    2) Su L. K. et al., Science, 256, 668-670 (1992).
    3) Dow L. E. et al., Cell, 161, 1539-1552 (2015).
  • 河野 孝夫
    2016 年 52 巻 1 号 p. 75
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    脳は,認知,思考,感情および記憶などの高次機能を司る臓器である.脳の大きさは,体の大きさに比例して大きくなる傾向があり,クジラやゾウの脳は,ヒトよりも大きい.このような脳の大きさの違いは,大脳を覆う大脳新皮質の表面積の大きさに起因すると考えられている.大脳新皮質には6つの層状の構造があり,一つ一つの層は形態や機能が類似した神経細胞群から成る.これら神経細胞は,胎生期に脳室に面した領域(脳室帯)に存在する神経幹細胞から生まれ,表層側に向かって移動し,適切な場所に配置されることで層構造ができる.
    ヒトとマウスの大脳新皮質の外見上の大きな違いは,ヒトの大脳にはマウスには無い「しわ」があることであり,頭蓋の限られたスペース内に大脳新皮質を折りたたむために「しわ」ができたと考えられる.また,ヒトでは脳室からやや表層側の領域(脳室下帯)に,basal radial glia(bRG)細胞という神経幹細胞が多数存在し,この細胞から多くの神経細胞が生まれると考えられている.しかし,どのような遺伝子の働きによって脳の大きさの違いが生まれるのかは分かっていなかった.
    本稿では,脳の大きさを制御する遺伝子の同定を試みたFlorioらの研究を紹介する.彼らは,ヒトの神経幹細胞はマウスには発現しないヒト特有の遺伝子を持つのではないかと考えた.そこで,ヒト中絶胎児とマウス胎仔の大脳新皮質から,様々な種類の神経幹細胞を分離した.これら神経幹細胞をRNAシークエンスにより解析し,マウスに比べヒトのbRG細胞に高発現し,かつマウスの相同遺伝子(オーソログ)ではないヒト特異的な遺伝子を探索した結果,ARHGAP11Bを同定した.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Hansen D. V. et al., Nature, 464, 554-561 (2010).
    2) Florio M. et al., Science, 347, 1465-1470 (2015).
    3) Antonacci F. et al., Nat. Genet., 46., 1293-1302 (2014).
  • 藤井 由希子
    2016 年 52 巻 1 号 p. 76
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    健康維持に運動は欠かせない.ジムに行く時間はなくても,晴れた日に屋外でサイクリングやウォーキングを楽しみたいと思う人は多い.実際に余暇の運動は死亡率を減少させる.その一方で,大気汚染への長期曝露は循環器疾患等の種々の要因による総死亡率を有意に増加させることが示されている.
    ヒトは常に何らかの曝露を伴って生活している.屋外での運動時の大気汚染への曝露は,健康に対する運動の正の効果にどのような影響を与えるのであろうか.本稿では,代表的な大気汚染物質である二酸化窒素(NO2)濃度と運動効果との関係を検討したデンマークの疫学研究を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Johnsen N. F. et al., Epidemiology, 24, 717-725 (2013).
    2) Beelen R. et al., Lancet, 383, 785-795 (2014).
    3) Andersen Z. J. et al., Environ. Health Perspect., 123, 557-563 (2015).
  • 林 祥弘
    2016 年 52 巻 1 号 p. 77
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    近年,連続生産はバッチ生産より効率的な製剤開発を行える医薬品の製造法の1つとして注目されている.バッチ生産では開発過程と異なったスケールで製法検討を行うこと(スケールアップ)が必要であるが,その検討を省けることが連続生産の大きな利点の1つである.
    スケールアップの手間を省ける一方で,連続生産では一定時間,同じ品質の製剤を生産し続ける必要がある.そのため,工程ライン中へ成分滞留・偏析は,均一な品質を保つ上で障害となる.
    滞留・偏析のリスクを減らす対策の1つとして処方の簡易化,すなわち配合する添加剤の種類の削減がある.Meierらは,連続生産可能な2軸スクリュー造粒を用いた場合に,高含量製剤の処方簡易化が可能か評価したので,今回紹介する.なお,2軸スクリュー造粒は2本のスクリューを同時に回転させ,湿らせた混合末をせん断することで造粒する方法である.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Fonteyne M. et al., Pharm. Dev. Technol., 18, 85-97 (2013).
    2) Myerson A. S. et al., J. Pharm. Sci., 104, 832-839 (2015).
    3) Meier R. et al., Int. J. Pharm., in press (2015).
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総説目次
談話室
  • 笹井 泰志
    2016 年 52 巻 1 号 p. 89
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/08/26
    ジャーナル フリー
    私が学生だったおよそ20年前と比較して,研究機器は目覚ましい進歩を遂げている.私よりも年上の方々からすれば,その変化に対する驚きはなおさらのことと思われる.機器そのものの性能も上がり,分析できなかったものが分析できるようになったり,見えなかったものが見えるようになった時には大いに感動した.また,多くの操作がソフトウェアで制御できるようになり,特別なテクニックを必要とせず,プチッ,プチッと幾つかクリックするだけでデータが取れるようになった.そして,海外メーカーの機器でさえ,日本語に対応したマニュアルやソフトウェアを提供しており,誰もが気軽に使用できるようになった.これらは我々研究をする者にとって,もちろん素晴らしいことである.
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