化学産業廃棄物の80%以上が有機溶媒に由来すると言われている.この問題を解決する1つの方法は,有機溶媒を使用しない化学合成であり,水中化学合成法の開発は重要な研究課題である.一般に,化学合成の基質や反応剤は疎水性化合物であり,水中での化学合成は困難である.しかし,水に界面活性剤を加えると,ミセルが形成され,このミセル中に基質や反応剤が集積することから,所望の反応が進行するようになる.
ところで,有機物が環境に与える負荷指標の1つとして,「ドイツ水質危害クラス物質リスト(Wasser Gefahrdungs Klasse: WGK)」が知られている.WGKでは,有機物がクラス1,2,3に分類され,数字が大きくなるにつれて当該有機物の水生生物に与える危険性が大きくなる.
これまでに使用された界面活性剤の中で,Lipshutzらが開発したDL-α-トコフェロールメトキシポリエチレングリコールコハク酸エステル(DL-α-Tocopherol methoxypolyethylene glycol succinate: TPGS-750-M)は最も汎用されている.しかし,TPGS-750-MはWGKクラス2に分類されるコハク酸ジエステル構造を有しており,TPGS-750-Mをそのまま排水として廃棄することができない.そこで今回,Lipshutzらは新しい界面活性剤DL-α-トコフェロールメトキシポリエチレングリコール-ライト(DL-α-Tocopherol methoxy- polyethylene glycol-lite: TPG-lite)を設計・合成した.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Lipshutz B. H.
et al.,
Green. Chem.,
16, 3660-3679(2014).
2) Lipshutz B. H.
et al.,
Tetrahedron,
87, 132090(2021).
3) Lipshutz B. H.
et al.,
Chem. Eur.
J.,
24, 6778-6788(2018).
4) 水中反応でも,精製時に有機溶媒を使用することが多い.
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