カルボン酸は,医薬品開発において,最も重要なファーマコフォアの1つとして認識されている.その代表としてヤナギから発見されたサリシン(サリチル酸配糖体)が知られ,その誘導体のアセチルサリチル酸は非ステロイド性抗炎症薬として広く臨床にて応用されている.一方で,カルボン酸の水酸基をチオール基に置換したチオカルボン酸のファーマコフォアとしての寄与については,未だ十分な検討はなされていない.チオカルボン酸のファーマコフォアとしての可能性を示す一例に,チオキノロバクチン(thioQB)では,チオカルボン酸を有することで抗菌活性が認められることが報告されている.Dongらは,メチシリン耐性
Staphylococcus aureusなどに有効な化合物として
Streptomyces platensisの二次代謝産物から見いだされたプラテンシマイシンおよびプラテンシン(PTs:PTMおよびPTN)に着目し,その生合成過程を検討したところ,PTsのthio体も併せて産生していることを報告した.PTsはジテルペノイド由来の親油性部分と3-amino-2,4-dihydroxybenzoic acid(ADHBA)がアミド結合で縮合した化学構造を有している.彼らはPTsの過剰生産株である
S.
platensis SB12029株を使用して研究を行い,PTsとともにチオプラテンシマイシンおよびチオプラテンシン(thioPTs:thioPTMおよびthioPTN)が産生されていることを見いだした.本株において
ptmA3および
ptmU4それぞれの欠損株では,thioPTsが産生されなくなることから,thioPTsの産生にこれらの遺伝子クラスターの関与が示唆された.さらに,既知のチオカルボン酸およびチオエステルの産生に関与する遺伝子クラスターとの比較から,PtmA3はacyl-CoA synthaseであり,ATPおよびCoAの存在下,ADHBAからADHBCoAを産生することが明らかにされた.また,PtmU4は同様にtypeⅢCoA-transferaseであり,ATPおよびSドナー存在下,ADHBCoAからADHBSHを産生することが確認された.さらに,ADHBSHのアミノ基にジテルペノイド由来の親油性部分がarylamine
N-acetyltransferase(PtmC,PtnC)により転移されることでthioPTsが産生されることが見いだされている.なお,PtmA3およびPtmU4による転移反応は,SドナーおよびCoA存在下,各種アリルカルボン酸からチオカルボン酸の産生を触媒し,これらの酵素はその他の放線菌に加え,多くの微生物ゲノムに保存されていることも明らかにされた.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Ballatore C.
et al.,
Chem.
Med.
Chem.,
8, 385-395(2013).
2) Matthijs S.
et al.,
Mol.
Microbiol.,
52, 371-384(2004).
3) Dong L.B.
et al.,
Nat.
Commun.,
9, 2362(2018).
4) Dong L.B.
et al.,
Bioorg.
Med.
Chem.,
24, 6348-6353(2016).
抄録全体を表示