天然化合物は非常に高い構造多様性を有しており,現在も多数の新規化合物が単離,報告され続けている.一方で,増え続ける既知化合物の中から新規生理活性化合物を探索するにあたって,生物活性などを指標として天然資源の抽出物を分画し活性化合物を単離する古典的なスキームは,必ずしも効率的とは言えない.近年の質量分析装置の高感度化,高精度化およびインフォマティクスの発展に伴い,新規天然物探索における新たなツールとしてタンデム質量分析(MS
2)スペクトルを用いた分子ネットワーク解析が注目されている.データシェアweb型プラットフォームであるGlobal Natural Products Social Molecular Networking(GNPS)では,データベース上に登録されているMS
2スペクトルから既知化合物の迅速な同定,および測定サンプルに含まれる各成分間のMS
2スペクトルの類似性を判定し,構造類似性のある成分同士をクラスターにまとめて表示することが可能である.更にHPLCの溶出時間や付加イオン,同位体イオンなどを考慮した解析手法としてFeature-Based Molecular Networking(FBMN)がGNPS上で利用されるようになり,新規天然物探索研究で活用され始めている.本稿では,生薬ライコウトウとして用いられるタイワンクロヅルに含まれる二次代謝産物を二次元クロマトグラフィーとFBMNによりクラスタリングし,これまで同植物から報告のない新規骨格を有する化合物候補を効率よく見いだしたQuらの報告を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Wang M.
et al.,
Nat. Biotechnol.,
34, 828–837(2016).
2) Nothias L. -F.
et al.,
Nat. Methods,
17, 905–908(2020).
3) Qu B.
et al.,
Analyst, 148, 61–73(2023).
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