我々が持つDNAは環境化学物質,UV,放射線などの外因的要因と,活性酸素種などの内因的要因により日常的に損傷を受けている.様々な防御機構や修復機構を逃れたDNA損傷は突然変異を引き起こし,やがて発がんに結びつく.それ故,DNAの損傷を明らかにし,我々がどのような要因にさらされているかを知れば,がんの根本的な予防につながる.
近年,松田らは脂質過酸化物や環境化学物質により生じたDNA損傷を網羅的に検出するDNAアダクトーム解析を開発した.本法はDNA塩基が損傷を受けて生じたDNA付加体が,質量分析計で効率的にデオキシリボース(dR)とのグリコシド結合を開裂することに着目し,dRに由来する116の質量差(ニュートラルロス)を生じる分子を網羅的に検出するものである.彼らは本法を用いることで,ヒト組織試料から様々なDNA付加体の検出に成功している.
しかしながら,グアニンの
N7位やアデニンの
N7/
N3位に損傷を受けたDNA付加体は不安定であり,dR部分が容易に加水分解を受けてしまうことから,従来のDNAアダクトーム解析での検出は困難であった.今回,StornettaらはOrbitrap型質量分析計を用い,これらのDNA付加体も検索可能な新たなDNAアダクトーム解析の可能性について報告したので紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) 松田知成ほか, J. Mass Spectrom. Soc. Jpn.,
57,
301-304 (2009).
2) Kanaly R. A.
et al., Mutat. Res.,
625,
83-93 (2007).
3) Stornetta A.
et al.,
Anal. Chem., 87, 11706-11713 (2015).
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