アルツハイマー病(Alzheimer's disease: AD)は老人斑と神経原線維変化の形成を特徴とする神経変性疾患である.これまでに有効な根本治療薬は開発されていないが,ADの発症仮説「アミロイドカスケード仮説」に基づいて,老人斑の主要構成成分であるアミロイドβ(Aβ)を標的とした創薬研究が進められている.
Aβ産生酵素であるγセクレターゼはpresenilin(PS),nicastrin(NCT),anterior pharynx-defective 1(APH-1),presenilin enhancer 2(PEN-2)の4つのタンパク質から構成される複合体で,amyloid precursor protein(APP)を基質として,AβのC末端側の切り出しを担当している.また,活性中心サブユニットであるPS1の遺伝子変異が家族性AD(familial AD: FAD)で多く見られることから,γセクレターゼの機能変調がAD発症に深く関わっていることが推察されている.
本稿では,自然免疫に応答して,ウイルス防御に働くタンパク質として知られるinterferon-induced transmembrane 3(IFITM3)が,γセクレターゼの活性調節を介して,ADの病態悪化に寄与していることを明らかにしたHurらの報告を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Hur J. Y.
et al.,
Nature,
586, 735-740(2020).
2) Wolfe M.,
Biochemistry,
58, 2953-2966(2019).
3) Shi Y., Holtzman D.,
Nat.
Rev.
Immunol.,
18, 759-772(2018).
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