医療における安全性の確保が重要視され,薬剤師がその役割を担うように期待されるにつれて,注射薬に関する業務や病棟業務を中心として病院薬剤業務は大きく拡大した.さらに,様々なチーム医療への参画とハイリスク医薬品への強力な関与が要求され,ICUやCCUなどの救急病棟にも薬剤師常駐が行われるようになってきた.院外処方せんの拡大による業務シフトも考えれば病院薬剤師数は飛躍的に増加し,新卒薬剤師の就職先としても大きなシェアを占めるようになった.当初は業務量に見合う診療報酬がなく不安定な状況であったが,薬剤管理指導料は徐々に増加し,2年前にはそれに加えて病棟薬剤業務実施加算が新設された.さらに,感染制御やがん化学療法,緩和ケアなどのチーム医療に対する診療報酬においても,専門知識を持った薬剤師の活動が算定の条件になってきた.医療費が高騰していく中で,病院薬剤師に対する診療報酬面でのサポートは大変ありがたいことである.しかし期待される「病棟薬剤業務」は,これまでの医師の処方を確認し患者に服薬指導を行うという業務内容をはるかに超えており,薬物療法の有効性と安全性の確保に向けた極めて積極的な行動と処方設計・提案である.当然のことながら今後の活動に対する評価は厳しいものになるだろうし,評価に耐えられなければマンパワーの低下につながり,負のスパイラルになることも免れかねない.
私はこれまでに米国の幾つかの大学病院やがんセンターを訪問し,実際に病棟薬剤師の活動を見てきた.そこで感じたことは,チーム医療における薬剤師の圧倒的存在感であり,他の医療従事者すべてから認められていることだった.それはどこから来るのかと考えてみると,まず患者ケアに対する経験の長さがある.若い薬剤師であっても,学生時代の数年間の実習,レジデント期間も加えると相当の臨床経験がある.しかも日本の薬剤師のように調剤や注射薬の調製に時間を費やすことはほとんどないので,患者ケアに対する経験の差は非常に大きい.加えて,言うべきことははっきり言うという国民的な性格もある.日本では,病院薬剤業務が急激に拡大しているため薬剤師の多くはまだまだ経験が浅い.早急な地位確立のためには,知識・技能の習得とできるだけ多くの患者ケアを実践すること以外にもいろいろな取り組みを行うべきである.
日本病院薬剤師会や日本医療薬学会の専門薬剤師制度は,病院薬剤師のレベルアップに寄与しただけでなく,制度が定着するにつれてチーム医療における薬剤師の存在感を大きく高めてきた.米国でも病院薬剤業務の展開に専門薬剤師制度を役立ててきた経緯があるが,その中でも薬物療法専門薬剤師が基本的な専門薬剤師と考えられている.日本医療薬学会で2012年認定が始まった薬物療法専門薬剤師を早急に増やしていくべきであろう.
日本の薬学教育では病院・薬局実習の期間は短いが,研究室配属という大きな特徴がある.そのためか,医療現場で発生する様々な問題に対する解決に向けての取り組みは日本の薬剤師の方が勝っているように思う.4~6年次に講義・実習と並行して研究に取り組むことは医療現場での問題解決能力の養成に役立ち,薬剤師の地位確立にも非常に重要であると考える.薬学関係者の多方面からの取り組みを期待したい.
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