標的分子の立体構造情報に基づく薬剤分子設計手法であるStructure Based Drug Design(SBDD)は,創薬における開発期間の短縮,特異性の向上に大きく貢献している.SBDDにおける薬剤標的分子と化合物の親和性の予測に必要な結合自由エネルギーの計算手法の1つに,構造的に類似したリガンド分子の結合自由エネルギー差を予測する相対結合自由エネルギー(RBFE)計算がある. RBFEでは,化合物の解離-結合の中間状態のシミュレーションなしに化合物間の相対結合自由エネルギー(
ΔΔG)が得られ,多大な計算コストを必要とせずに化合物間の結合親和性を予測できる特徴がある.また,親和性予測には薬剤標的分子の構造情報が必要となるが,近年,アミノ酸配列からタンパク質の構造を高精度で予測するソフトウェアAlphaFold2(AF2)が話題となっている.しかしながらリガンド結合部位において,十分な精度で構造を予測しSBDDによる創薬に活用できるのかは不明であった.今回Beumingらは,AF2による予測構造と実験的に得られたタンパク質の構造について,RBFEにより結合自由エネルギーを計算するプログラムであるFEP+
®(シュレディンガー社)を用いた比較研究を行った.その結果,AF2による予測構造は,特定の条件を満たした場合においてのみ,リガンドとの結合親和性の予測に耐える十分な精度を有していることが示された.本稿では,Beumingらの研究の概要を紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Cournia Z.
et al.,
J. Chem. Inf. Model.,
57, 2911-2937(2017).
2) Jumper J.
et al.,
Nature,
596, 583-589(2021).
3) Wang L.
et al.,
J. Am. Chem. Soc.,
137, 2695–2703(2015).
4) Beuming T.
et al.,
J. Chem. Inf. Model.,
62, 4351-4360(2022).
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