WHOの調査によると,世界市場に出回っている医薬品のうち10% が偽造医薬品と言われており,現在もアフリカやラテンアメリカを中心に市場が拡大していることから早急な対策が望まれている.日本においてもC型肝炎治療薬「ハーボニー
®」の偽造は記憶に新しく,抗生物質の低水準品は耐性菌の発生を誘発することもあり,偽造医薬品の問題は決して対岸の火事といえるものではない.
紙幣の偽造防止にホログラムが使用されるように,医薬品では(1)高度のセキュリティ(2)高速認証(3)多様な製品への汎用性(4)製品からのタグの除去,再利用の不可,などを満たす技術が求められている.これらに加えて,近年インターネットや物流の発達により,製造や供給,消費の全ての段階において,偽造品が入り込む余地があることから,低いコストで導入可能かつ各段階で頻繁にチェック可能な技術が望まれている.上述の背景から,分析時間が比較的短く,片手で持ち運びできる携帯型ラマン分光装置が注目されている.本稿では,実際に押収された偽造品(錠剤やハードカプセル,粉薬を含む固形製剤)に対してラマンスペクトルを取得し,識別を試みた報告について紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Arppe R., Sorensen T. J.,
Nat.
Rev.
Chem.,
1, 0031(2017).
2) Degardin K.
et al., J. Spectrosc., online 5 March. 2017, doi: doi.org/10.1155/2017/3154035.
3) Fukuoka T.
et al.,
ICEP-
IAAC Proceedings, 432-435(2015).
4) Alhnan M. A.
et al.,
Pharm.
Res,
33, 1817-1832(2016).
5) Andrea A.
et al.,
Science,
352(6281), 61-67(2016).
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