生薬には,合成医薬品とは異なるケミカルスペースを占める有用な複雑天然物が多種多様に含まれている.(−)-oridonin(1)は,中国で市販されている抗炎症生薬
Rabdosia rubescensの主要な有効成分であり,
ent-kaurene(2)が高度に酸化されたジテルペノイドである.1は様々ながん細胞に対して有効な活性を示すだけでなく,最近では1から半合成された誘導体の第I相試験なども行われており,広範な構造活性相関研究を志向した効率的な全合成経路の確立が望まれる.
ところで,Nazarov環化は4π電子環状反応の1つであり,環化に続いて生じるオキシアリルカチオン中間体の脱プロトンを経て反応が完結する.ここで基質を巧妙に設計した場合,このカチオン中間体に対してカスケード型に求核剤などを作用させる“interrupted Nazarov”反応に展開することが可能である.Luoらは本反応を利用し,1の初の全合成を達成したので,本稿で紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Fujita E.
et al.,
Chem.
Commun., 252-254(1967).
2) Yadykov A. V., Shirinian V. Z.,
Adv.
Synth.
Catal.,
362, 702-723(2020).
3) Kong L.
et al.,
J.
Am.
Chem.
Soc.,
141, 20048-20052(2019).
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