近年,タンパク質の持つ特定の物質と特異的に結合する性質を応用した分子標的医薬が急速に発展してきた.分子標的医薬に応用されているものは,抗体を用いたものが主力だが,近年は抗体以外にも様々なタンパク質が利用されている.そのなかの1つがSkerraらが開発してきたリポカリンタンパク質の骨格を利用した人工結合タンパク質Anticalinである.
リポカリンは,20 kDa程度の大きさのタンパク質であり,多くは特定の分子の輸送に関わる.リポカリンの面白いところは,アミノ酸配列の相同性が低いにもかかわらず,どれも非常に似通ったリポカリンフォールドと呼ばれるβバレル構造をとることである.しかも,相同性が高い領域(SCR)は3か所に集中しており,立体構造の安定化に寄与するが,リガンド結合に関係する部位は全く違う場所にあるので改変しやすいのが良い.Skerraらは,1990年代頃からリポカリンの構造的性質に着目し,ファージディスプレイ法と組み合わせながら,人工結合タンパク質“Anticalin”の鋳型となるリポカリンの選定と結合標的の改変に効率的なアミノ酸の選定などを試行錯誤し,最適化してきた.本稿では,Morathらが開発した前立腺特異的膜抗原(Prostate Specific Membrane Antigen: PSMA)結合Anticalinを応用したがん組織のイメージングについて紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Schlehuber S., Skerra A.,
Drug Discov. Today,
10, 23-33(2005).
2) Morath V.
et al.,
Mol. Pharm.,
20, 2490-2501(2023).
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