生体中には800種類以上のGタンパク質共役型受容体(GPCRs)が存在している.個々のGPCRの生物学的・病理学的機能を解明することは生命機能や病態の理解,治療法の開発に結びつくため重要である.代表的なGPCRの化学遺伝学的活性制御法はdesigner receptors exclusively activated by designer drugs(DREADDs)であるが,本手法で使用されるムスカリン受容体は人工リガンドにのみ結合するように改変されているため,本来の機能を喪失している.
そこで,標的GPCRの機能を維持したままGPCRの機能を解明する化学遺伝学的手法として,Broichhagen J.らは光刺激によってGPCRの活性を制御するphotoswitchable orthogonal remotely tethered ligand(PORTL)を開発した.細胞表層にSNAP-tag融合代謝型グルタミン酸受容体2(SNAP-mGluR2)を発現させ,mGluR2の天然アゴニストであるグルタミン酸・光スイッチ部位・SNAP-tag基質を適切なリンカーで連結した分子(BGAG)でラベル化して作製したPORTL(SNAG-mGluR2)に光照射することによりSNAG-mGluR2の活性制御に成功している.しかし,PORTLは原理的に内在性GPCRの活性を制御できない.
本稿では, Donthamsetti P. C.らが開発した内在性GPCRの活性を光制御可能なPORTLの発展型であるmaPORTLについて紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Urban D. J.
et al.,
Annu.
Rev.
Pharmacol.
Toxicol.,
55, 399-417(2015).
2) Broichhagen J.
et al.,
ACS Cent.
Sci.,
1, 383-393(2015).
3) Donthamsetti P. C.
et al.,
J.
Am.
Chem.
Soc.,
141, 11522-11530(2019).
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