ファルマシア
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56 巻, 5 号
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目次
  • 2020 年 56 巻 5 号 p. 382-383
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー
    特集:元素多様化による新たな創薬戦略
    特集にあたって:近年,革新的技術の登場により創薬方法論が著しく多様化しているが,低分子医薬品が持つコストや品質管理における強みを考慮すると,低分子化合物は今後も創薬の王道として君臨するだろう.その低分子医薬品の開発でも,最近,多様性が意識され始め,これまで医薬品として利用されていなかったホウ素,ケイ素,重水素などの元素を利用した創薬研究が最近盛んに進められている.また,ハロゲン結合などの新たな相互作用が提唱されたことにより,創薬におけるハロゲン原子の価値が拡大しつつある.本特集号を通じて,医薬品を構成する元素1つ1つに目が向けられ,成熟した低分子創薬が再び飛躍する契機になることを期待したい.
    表紙の説明:化学の基本は周期表である.学生の頃はそれを一生懸命覚えたものだが,創薬をしながら周期表を見ることはどのくらいあっただろうか.改めて周期表を見直してみると,きっと元素の特徴を生かした新たな創薬戦略が浮かぶことだろう.周期表から飛び出た元素は,汎用元素という先入観や固定概念を捨てて創薬に挑戦し続けた先生方への敬意と,これら元素を含む医薬品創出への期待である.
オピニオン
Editor's Eye
最前線
最前線
最前線
  • 創薬における活用
    山口 充洋
    2020 年 56 巻 5 号 p. 401-405
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー
    電子付録
    ハロゲン結合は、ハロゲン原子と電子供与基との間の静電的相互作用であるが、創薬研究において注目されるようになったのは比較的最近になってからである。ハロゲン結合ポテンシャルは F<Cl<Br<I の順に高くなり、その強度は二要素間の距離および角度に大きく依存する。今後、ハロゲン結合をより有効に用いたドラッグデザインが行われることが期待される。
最前線
話題
話題
セミナー
話題
FYI(用語解説)
  • 澤間 善成, 阿久津 和宏, 佐治木 弘尚
    2020 年 56 巻 5 号 p. 431_1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー
    化合物の構成原子を同位体に置換した際に生じる化学的・物理的性質の変化を,同位体効果という.重水素は原子番号が最も小さい水素の同位体で,水素の約2倍の質量を持つため,その効果は大きく発現する.例えば,1気圧におけるH2Oの沸点は99.97℃,融点は0.00℃であるが,D2Oは101.40℃と3.82℃である.
    また,同位体原子の置換によって反応が遅延される効果を速度論的同位体効果という.同位体質量が増加すると結合エネルギーが大きくなり,結合の切断・形成反応は遅くなる.これを一次同位体効果という.なお,結合の切断や形成に関与しない位置に置換した同位体による軽微な反応速度変化は,二次同位体効果として区別される.
  • 山口 充洋
    2020 年 56 巻 5 号 p. 431_2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー
    ハロゲン原子が参加する共有結合のハロゲン原子側の延長線上にある,正電荷を帯びる領域.分子を構成するハロゲン原子上には,共有結合性の電子対の他に3組の非共有電子対が存在するが,これらはハロゲン原子の周辺一帯に遍在し,ハロゲンはルイス塩基(電子供与体)としてのみ作用すると考えられていた.
    しかしその分布には偏りがあり,2組の電子対が共有結合に対して垂直方向(p軌道),1組が主にs軌道に存在する場合があることが明らかとなった.この電子の局在により,電子不足の領域が共有結合の延長線上に現れることになる.原子量が大きいほど正電荷は増大し,フッ素はその電子吸引性のため,σ-ホールを有することは非常に稀である.
  • 藤井 晋也
    2020 年 56 巻 5 号 p. 431_3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー
    シュードペプチド(pseudopeptide:疑似ペプチド,疑ペプチド,プソイドペプチド)とは,通常のタンパク質を構成するアミノ酸とは異なるアミノ酸構造を有するペプチド化合物のことである.種々のペプチド系天然物化合物に見られるほか,安定性や膜透過性の向上のためにペプチドミメティクス手法を用いて主鎖を改変したペプチド,特殊なアミノ酸を用いた合成生理活性ペプチド,あるいはペプチド核酸(PNAs: peptide nucleic acids)などにも見られる.ペプチド化学の発展とともに様々な機能を持つシュードペプチドが開発されている.
  • 袁 博, 岡崎 真理, 平野 俊彦
    2020 年 56 巻 5 号 p. 431_4
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー
    アクアポリン(Aquaporin: AQP)は,主として細胞膜に存在する膜貫通型タンパク質で,膜内外での浸透圧に依存した水の高速輸送を司る.水チャネルとも呼ばれる.ヒトにはAQP0からAQP12までの13種類のアイソフォームが存在し,それぞれ機能や構造,発現細胞,細胞内局在が異なる.なかには,水に加えてグリセリンや尿素などの小分子を通す分子種もある.
    近年,AQPは白内障,腎性尿崩症,脳浮腫等の様々な疾患との関連性が報告されており,また,がん細胞の湿潤・転移にも関与することが明らかにされている.AQPの機能の更なる解明が,新規治療法開発への糸口となることが期待されている.
くすりの博物館をゆく
日本ベンチャーの底力 その技術と発想力
トピックス
  • 名取 良浩
    2020 年 56 巻 5 号 p. 438
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー
    ビニルボロン酸誘導体は,ビニル化試薬として鈴木-宮浦カップリングなどの様々な反応に使用される有用な化合物である.そのため,様々な供給法が開発されてきたが,未だに三置換のビニルボロン酸エステルの立体選択的合成は容易ではない.今回Huらは,リチウムエノラートから1,3-メタレート転位を経由することで,三置換ビニルボロン酸エステルの立体選択的な合成法を開発した.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Hu Y. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 58, 15813-15818(2019).
    2) Kawashima T. et al., J. Am. Chem. Soc., 117, 6142-6143(1995).
  • 高梨 憲幸
    2020 年 56 巻 5 号 p. 439
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー
    低分子医薬品における「フッ素原子」の導入は,生物活性向上や代謝安定性改善等を図る分子変換として極めて有用な手法の1つであり,近年では芳香環や脂肪族炭素への様々なフッ素導入法が開発されている.しかし一方で,アミド窒素に直接結合するメチル基に3つのフッ素原子を有する「N-トリフルオロメチル(以下,N-CF3)アミド」はこれまで実用的な合成法がなく,その開発が切望されていた.今回,Schoenebeckらが開発したN-CF3基を有するアミド類の実用的合成法について紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Scattolin T. et al., Nature, 573, 102-107(2019).
    2) Scattolin T. et al., Angew. Chem. Int. Ed., 56, 221-224(2017).
  • 北村 雅史
    2020 年 56 巻 5 号 p. 440
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー
    スイカズラ(Lonicera japonica)は北海道から九州および朝鮮半島,中国に分布するつる性の常緑低木である.金銀花はスイカズラの花を基原とした生薬で,5〜6月に咲く白い花が数日経過すると黄色く変化し,白と黄の花が咲いている姿から名づけられている.金銀花は清熱,解熱作用を期待し使用され,臨床では炎症や細菌性疾患によく用いられている.金銀花が配合される「銀翹散」は,清時代の医学書「温病条弁」に収載されている薬方であり,この銀翹散に基づく処方「銀翹解毒散」のエキスにインフルエンザウイルス増殖抑制効果が報告されている.今回,Huangらは金銀花由来のmicroRNA(miRNA)が水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の複製を阻害することを明らかにしたので紹介したい.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) 中薬大辞典,小学館,東京,1985, pp.523-526.
    2) Miyazaki T., Nihon Yakurigaku Zasshi, 140, 62-65(2012).
    3) Huang Y. et al., J. Neurovirol., 25, 457-463(2019).
    4) Zhang L. et al., Cell Res., 22, 107-126(2012).
    5) Zhou Z. et al., Cell Res., 25, 39-49(2015).
  • 堂浦 智裕
    2020 年 56 巻 5 号 p. 441
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー
    生体中には800種類以上のGタンパク質共役型受容体(GPCRs)が存在している.個々のGPCRの生物学的・病理学的機能を解明することは生命機能や病態の理解,治療法の開発に結びつくため重要である.代表的なGPCRの化学遺伝学的活性制御法はdesigner receptors exclusively activated by designer drugs(DREADDs)であるが,本手法で使用されるムスカリン受容体は人工リガンドにのみ結合するように改変されているため,本来の機能を喪失している.
    そこで,標的GPCRの機能を維持したままGPCRの機能を解明する化学遺伝学的手法として,Broichhagen J.らは光刺激によってGPCRの活性を制御するphotoswitchable orthogonal remotely tethered ligand(PORTL)を開発した.細胞表層にSNAP-tag融合代謝型グルタミン酸受容体2(SNAP-mGluR2)を発現させ,mGluR2の天然アゴニストであるグルタミン酸・光スイッチ部位・SNAP-tag基質を適切なリンカーで連結した分子(BGAG)でラベル化して作製したPORTL(SNAG-mGluR2)に光照射することによりSNAG-mGluR2の活性制御に成功している.しかし,PORTLは原理的に内在性GPCRの活性を制御できない.
    本稿では, Donthamsetti P. C.らが開発した内在性GPCRの活性を光制御可能なPORTLの発展型であるmaPORTLについて紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Urban D. J. et al., Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol., 55, 399-417(2015).
    2) Broichhagen J. et al., ACS Cent. Sci., 1, 383-393(2015).
    3) Donthamsetti P. C. et al., J. Am. Chem. Soc., 141, 11522-11530(2019).
  • 金子 豊
    2020 年 56 巻 5 号 p. 442
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー
    近年,がん細胞はprogrammed cell death ligand 1(PD-L1)やCD47,MHC class I複合体の1つであるβ2マイクログロブリンなどの“don’t eat me”シグナルに関連する分子を細胞表面に発現することで,マクロファージ(Mφ)による貪食作用から回避する機構を保持していることが報告されている.これらの分子を標的としたがん免疫療法の開発が進められているが,十分な治療効果が得られない例もあり,更なる標的分子の発見が期待されている.CD24はGPIアンカー型タンパク質であり,様々ながん細胞において発現が認められており,特に治療困難な卵巣がんや乳がんで高い発現が報告されている.Siglec-10は腫瘍関連マクロファージ(TAM)に強く発現する細胞表面分子であり,CD24との相互作用により細胞骨格の再構成や炎症抑制に寄与することが報告されている.本稿では,がん細胞がCD24を介してMφのSiglec-10に結合することで,Mφによる貪食作用から回避していることを明らかにしたBarkalらの報告を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) DeNardo D. G. et al., Nat. Rev. Immunol., 6, 369-382(2019).
    2) Lee J. H. et al., Oncol. Rep., 22, 1149-1156(2009).
    3) Crocker P. et al., Nat. Rev. Immunol., 7, 255-266(2007).
    4) Barkal A. A. et al., Nature, 572, 392-396(2019).
  • 渡辺 俊
    2020 年 56 巻 5 号 p. 443
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー
    神経軸索は,ミエリンで絶縁されることで高速な信号伝達を行うことができる.ミエリンの形成はグリア細胞の一種が担い,中枢神経系ではオリゴデンドロサイト,末梢神経系ではシュワン細胞が分化することで形成される.シュワン細胞はミエリンを形成するだけではなく,軸索保護や栄養供給といった生物学的機能を有しているものの,その機能には不明な点が多い.末梢神経線維におけるシュワン細胞は,脊髄のアストロサイトやミクログリアと同様に,痛みの過敏化や慢性化に関与している.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Monk K. R. et al., Glia, 63, 1376-1393(2015).
    2) Wei Z. et al., Front Cell Neurosci., 13, 116(2019).
    3) Abdo H. et al., Science, 365, 695-699(2019).
  • 荒木 徹朗
    2020 年 56 巻 5 号 p. 444
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー
    薬物による心毒性,特にhuman ether-a-go-go related gene(hERG)チャネル阻害によるQT延長は,torsade de pointesと呼ばれる重度の不整脈を引き起こし,最悪の場合死に至ることがあるため,毒性評価において最も重要な評価項目の1つである.一方で,非臨床で慎重なスクリーニングを行った結果,本来臨床において催不整脈リスクがない化合物を非臨床ステージで落としてしまっている可能性が指摘されてきた.また,動物を用いた評価系は,薬物代謝に種差がある場合など,臨床におけるリスクを予測するには限界がある.以上のことから,医薬品研究開発の現場においては,臨床への外挿性が高い,新規の評価系が強く求められてきた.
    Microphysiological system(MPS)はorgan(s)on-a-chip,我が国では生体模倣システムとも呼ばれており,前述のような課題を克服する新規技術として注目されている.本稿では,ヒトiPS細胞由来心筋細胞をMPSで培養し,さらにヒト初代肝細胞との共培養により,薬物代謝を加味した催不整脈リスク評価法を構築したMcAleerらの報告を紹介する.なお本報告は,Hesperosという米国のMPSベンチャーと英アストラゼネカ(AZ)社を中心とした共同研究である.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Takasuna K. et al., J. Pharmacol. Toxicol. Methods, 83, 42-54(2017).
    2) Kimura H. et al., Drug Metab. Pharmacokinet., 33, 43-48(2018).
    3) 酒井康行,Farumashia, 55, 395-399(2019).
    4) McAleer C. W. et al., Sci. Rep., 9, 9619(2019).
  • 志方 太
    2020 年 56 巻 5 号 p. 445
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー
    偽造医薬品は同一性や起源に関して,故意に若しくは不正に偽造表示された医薬品と定義されている.経済的損失だけでなく,予期せぬ副作用により多くのリスクを生じさせることから,世界的に大きな脅威となっている.偽造医薬品対策は,製剤中の有効成分の確認,製剤への匂いや色の付与,包装容器へのシリアル化したバーコード貼付などが挙げられる.残念ながらこれらの方法は製剤を個別に識別することは困難である.最近では,ポータブルラマン分光器を用いた方法も報告されているが,ラマン分光による識別は多変量解析が必要となる.一方,特に途上国ではより簡便に,迅速に製剤を個別に識別可能とする方法が重要となってくると考えられる.DNAタグは食品分野においては,各種判別に既に使用されており,簡便で迅速に定量が可能なリアルタイムPCRで検出が可能であることから,偽造医薬品対策にも有益な方法である.そこで本稿では,近年,開発が進んでいるDNAタグを用いた偽造医薬品対策に関する検討を紹介する.
    なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
    1) Barcaccia G. et al., Diversity, 8, 2(2016).
    2) Jung L. et al., PLoS One, 14, e0218314(2019).
    3) Altamimi M. J. et al., Int. J. Pharm., 571, 118656(2019).
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