我々は,患者(ヒト,コンパニオンアニマル等)に安全・安心な医療技術として,ナノテクノロジーによる高機能性医薬品と光テクノロジーによる医療機器を融合した非侵襲性医療システムを構築すべく研究開発を進めている.
具体的には,インドシアニングリーン(ICG)の基本骨格にアルキル鎖またはリン脂質を修飾したICG誘導体を脂質二重膜に組み込んだリポソーム製剤,インドシアニングリーン修飾リポソーム(ICG-Lipo)を開発するとともに,ICG-Lipoによるドラッグデリバリーシステム(DDS)と近赤外線診断治療装置を併用することにより,乳がんの早期発見を可能にする「非侵襲性同定法」,外科手術が不可能な症例に対する「非侵襲性治療法」,末期がん患者に対する「質の高い緩和医療」等の創生に取り組んでいる.
ICGを用いたがん治療に関しては,獣医領域において,鳥取大・岡本らによる先駆的な試みがある.具体的には,表在性がんを対象にがん組織に少量の抗がん剤を含有するICG溶液を局注後,光照射(光線温熱化学療法)を行ってきた.
一方ICGを血管内に投与した場合,血漿タンパク質と速やかに結合し,肝実質細胞に取り込まれて胆汁に排泄される.そのため,センチネルリンパ節や腫瘍組織を特異的かつ長時間にわたって同定することが困難であり,深部のがんに対しては有効な診断・治療法には至らなかった.
千葉大・田村らは,ICGの血中半減期を改善するとともに,センチネルリンパ節や腫瘍組織への特異的集積と長期間繋留を可能とするリポソーム製剤としてICG-Lipoを開発した.さらに,医薬品としてのICG-Lipoと医療機器としての近赤外線診断治療装置を併用した非侵襲性医療システムとして,非侵襲性同定法ならびに光線力学温熱療法を構築してきた.しかしながら,ヒト医療への承認段階において高い壁に行く手を阻まれていた.
その後,鳥取大・岡本らは,千葉大・田村らからICG-Lipoの供給を受けることにより,近赤外線治療装置を併用したがん治療に関する検討を実験動物を用いて2011年1月より開始し,その安全性と有効性を確認した.また,「産学連携コンソーシアム:鳥取大・千葉大・民間動物病院・飛鳥メディカル・東京医研・立山マシン」を2013年9月に形成し,コンパニオンアニマルを対象とした獣医師主導型臨床試験による診断・治療を実施するに至っている.
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