糖尿病網膜症は糖尿病の三大合併症の1つであり,成人における失明原因の上位を占める.その発症経過は,まず自覚症状のないまま網膜の浮腫・出血および虚血を起こす非増殖網膜症の段階を経る.その後,損傷により生じた新生血管が破綻して増殖膜が生じ,網膜を牽引することで網膜剥離をきたす増殖網膜症という深刻な状態に陥る.網膜の血管内皮細胞は周皮細胞により被覆され,血管壁を形成している.糖尿病による非増殖網膜症時には,周皮細胞の減少や無細胞毛細血管の増加が認められ,血管破綻の原因となる.併せて血管透過性の亢進も認められ,血管外漏出に関与すると考えられている.
n-3系多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)は網膜の主要な構成成分であり,摂取による組織レベルでの上昇は網膜傷害後の血管再生を増加させるなど目に良い効果が報告されている.体内に摂取されたDHAは,中間体であるエポキシドコサペンタエン酸を経て,可溶性エポキシドヒドロラーゼ(sEH)によりジヒドロキシドコサペンタエン酸(DHDP)へと代謝される.本稿では,sEHの過剰発現に伴う19, 20-DHDPの産生増加が糖尿病網膜症の悪化に関与することを示したHuらの研究について紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Antonetti DA.
et al.,
N.
Engl.
J.
Med.,
366, 1227-1239(2012).
2) Malamas A.
et al.,
Int.
J.
Ophthalmol.
10, 300-305(2017).
3) Spector AA., Kim HY.,
Biochim.
Biophys.
Acta,
1851, 356-365(2015).
4) Hu J.
et al.,
Nature,
552, 248-252(2017).
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