頭部外傷診療においては, 初診時に軽症であっても遅発性変化により重症化することがあり初期診療での対応が重要である. 頭部CT撮影の要否やフォローの方法などさまざまな決断が必要となる. 近年, ubiquitin C-terminal hydrolase-L1 (UCH-L1) やglial fibrillary acidic protein (GFAP) などの血液バイオマーカーを用いた脳損傷のスクリーニングや病態進行の予見が可能となった. この補助診断ツールは, 判定が簡便かつ明確であり有用である. また, スポーツ関連脳振盪や症状に乏しい高齢者頭部外傷におけるスクリーニングとしても, 今後の活用が期待されている.
スポーツ脳損傷において, 近年特に注目を集めているのがスポーツ関連脳振盪 (sports-related concussion : SRC) である. SRCの対応における大きな問題点は, その診断方法が確立されていないことである. このようなSRCに正確に対応するためには, SRCに対する認識や考え方を共有することが肝要である. 本稿では, SRCを中心としたスポーツ脳損傷の対応として, ①シーズン前教育, ②スポーツ脳損傷の認識, ③現場での医学的評価, ④専門的医学的評価, ⑤SRCの管理, ⑥多角的なSRCへの対応, ⑦スポーツ活動への復帰について概説する. 今後, 脳神経外科医におけるSRCに対する評価や対応の標準化が期待される.
昨今の多発外傷における頭部外傷の位置づけは, 高齢化と交通事故の減少により以前と比べ変化している. 頭部外傷を伴う多発外傷は非多発外傷に比べ高齢者よりも若年者に多い傾向があるが, その転帰は不良である. 昨今, 多発外傷の初療時, 特に出血性ショックへの対応はdamage control resuscitationとして注目されている. 重篤な全身の外傷を合併する頭部外傷治療の転帰の改善のためには, 他科との連携が不可欠である. 本稿ではわれわれの施設における多発外傷治療への取り組みPRESTOと, トラウマコードについて紹介する.
テロリズムなどの意図的な殺傷事案での負傷はその大半が爆傷や銃創であり, これらは戦傷においてもその約9割を占める. したがってテロによる多数傷病者への医療対応すなわち事態対処医療 (TEMS : Tactical Emergency Medical Support) では, 有事・軍事における戦術的戦傷救護 (TCCC : Tactical Combat Casualty Care) のノウハウが非常に重要と考えられている. 本稿では, 事態対処医療の概要を紹介し, 実際のテロで発生した傷病者の特徴について解説したうえで, 事態対処医療において脳神経外科医が果たすことのできる役割の可能性について考察する.
突然の頭痛を契機とする急速な意識障害で発症したSLE罹患中の43歳女性. 急性硬膜下血腫を認め, 術中所見から右後大脳動脈末梢性脳動脈瘤が出血源と判断した. 術後精査でもう1箇所の末梢性動脈瘤と右内頚動脈終末部狭窄を認め, 類もやもや病と判断した. 経過中, 残存動脈瘤も破裂したため開頭で摘出した. 2箇所の動脈瘤病理検査では, perivascular infiltrationと血管拡張傾向を認め, 典型的な血管炎はなかった.
SLE合併脳動脈瘤の病理学的な報告はきわめてまれで, 血管炎が原因とするものが多いが, 本症例では, 典型的血管炎以外の複合的要因により, 動脈瘤の発生破裂に至ったと考えられた.