機械的血栓回収療法の発展とともに脳卒中の診療体制は大きく変貌を遂げつつある. 2016年に発表された 「脳卒中と循環器病克服5カ年計画」 に基づき日本脳卒中学会はrt-PA静注療法を均てん化すべく24時間365日施行可能な1次脳卒中センターを全国で975施設認定した. 今後は5カ年計画と循環器病対策推進計画が連動し, primary careの均てん化と高度医療の集約化が進むものと思われる.
1960年代初頭の導入時期を経て, 手術用顕微鏡は脳神経外科手術に必須の医療機器となった. 手術用顕微鏡が脳神経外科診療に多大な貢献をしたことは疑いの余地がないが, 医療機器として改善するべき点がないわけではない. 手術用顕微鏡には相当の物理的な体積と重量があるために, 手術の際に術者と患者の体位の相関関係にある一定の制限がかかってしまう. このような問題点を解決するべく神経外視鏡が開発され, 臨床現場に導入されはじめている. 本総説では神経外視鏡が手術用顕微鏡を凌駕する可能性について実際の症例提示を通して概説する.
予想もしなかったコロナ禍のために日本へのインバウンド, 日本からのアウトバウンドとも停止した状態になっているが, これはやがて解決し, 再びグローバル時代が到来すると期待している. 脳神経外科医の外国への留学数は一時に比べれば増加傾向にある. 本稿では, 脳神経外科医の留学に関するアンケート調査結果を示し, 留学の利点・課題, アカデミアがグローバル時代に向かう方向, communication toolとしての英語の重要性, 日本脳神経外科学会ならびに日本脳神経外科コングレスのグローバルな活動, を解説し, 最後にglobal neurosurgeryとはどういう概念かについて紹介した. 若手脳神経外科医のグローバルな活躍を引き続き期待する.
長時間労働による過労死などが社会問題となる中で, 長時間労働の是正を目的として2019年4月に 「働き方改革関連法」 が施行された. 医師に対しては業務の特殊性から, 5年間の猶予期間の後, 2024年4月に適用されることになっている. 施行予定の時間外労働規制では, 3種類の上限水準が設定されている. 地域医療確保暫定特例水準に相当する基準の病院では年1,860時間の時間外労働の上限が設定されている. その場合は, 連続勤務時間制限が義務となり, 当直時の連続勤務は前日の勤務開始から28時間まで, 9時間以上の勤務間インターバルが必要となる. これからの脳神経外科医は時代にあった効率的な働き方を模索する必要がある.
未破裂脳動脈瘤連続300症例のclipping術の術中所見から, 8個 (2.7%) の瘤で無症候性出血 (silent hemorrhage) を認めた. Silent hemorrhageを認めた瘤では最大径が平均5.4mmと小さく, 術前のbleb検出率も25%と少なかった. 多変量解析では動脈瘤最大径と高血圧症がsilent hemorrhageをきたすリスクとして有意傾向を認めた. 以上よりsilent hemorrhageをきたした瘤は, 比較的小型のときに3DCTAによる画像診断では検出しづらい小型のbleb (blister) が無症候性の微小出血をきたしたものと考えられた.
前庭神経鞘腫 (聴神経腫瘍) においては, 腫瘍による顔面神経の圧排・変形が著明であったとしても, 術前から顔面神経麻痺を呈する例はまれである. 今回, 術前からHouse-Brackmann grade Ⅲの顔面神経麻痺を呈し, 術後にその消失を認めた比較的大型の前庭神経鞘腫の2手術例を経験したので報告する. 術中顔面神経モニタリングは反応が乏しく注意が必要であるが, 腫瘍摘出による顔面神経麻痺の改善が期待され, 長期的な腫瘍制御と顔面神経機能改善を目的とする腫瘍摘出が検討されるべきと考えられた.