日本は高齢化が進んでおり, 認知症患者が増加している. 2012年には462万人といわれた認知症患者は, 2025年には730万人に達する. このような状況下, 画像診断に長けた脳神経外科医が認知症診療に関わることは社会の要求であり, 実際に多くの脳神経外科医が認知症診療を行っている. 認知症の進行を制御するためには診断・治療だけではなく, 介護をうまく活用することが重要である. 本稿では脳神経外科医が知っておくべき認知症の知識と社会保障制度について概説した.
脳脊髄液 (CSF) の動態に関する新知見によれば, CSFは主として脈絡叢から産生されておらず, 上矢状静脈洞のくも膜顆粒から静脈へと吸収されるのではなく, リンパ系へと排出される. さらに, 脳室からくも膜下腔へと一方向には流れておらず, 血液循環と呼吸を駆動力として拍動性に動いており, その動きは大槽から橋前槽で最も大きい. 70代健常人の頭蓋内CSFの平均総量300ml以上と比較して, 続発性正常圧水頭症 (sNPH) では広範囲くも膜下腔の閉塞により平均300ml未満となり, 特発性正常圧水頭症 (iNPH) ではCSFの排出障害により平均400ml以上となる. 70代健常人と比べ, iNPH患者の脳室は約100ml拡大しており, くも膜下腔の大きさは同等だが, その分布が大きく偏っている.
疾患としてだけではなく, さまざまな社会問題として認知症が話題にのぼらない日はない. 認知症は精神神経科と神経内科 (現 : 脳神経内科) が担当する疾患といわれていた時代から徐々に様変わりし, 脳神経外科医, 特に開業医が診察・治療に大きく関わるようになった. また, 地域医療構想や地域包括ケアシステムの構築においても重要な役割を担うようにもなってきた.
筆者の経験から他科医師や他職種連携に加え, 患者・市民教育, 今後の展望について第37回日本脳神経外科コングレス総会での発表を中心に提示する.
Telemedicine (遠隔医療) とは, 情報通信技術 (ICT) を活用した健康増進, 医療, 介護に資する行為であり, コンピューター, カメラ, テレビ会議, インターネット通信, 衛星通信, 無線通信などの電子情報技術を用いる遠隔地からの医療の提供と定義されている. 近年, モバイル通信端末の普及や無線LAN環境の整備により, これまでの定点同士のやりとりから, 場所を限定しない多点のつながりに発展・多様化しつつある. 脳卒中分野におけるtelemedicineはtelestrokeと呼ばれ, 一般的なtelemedicineと異なるのは, より迅速な情報のやり取りが必要とされる点である. ICTを利用した脳神経外科診療のメリットとして, 1. 急性期疾患への迅速な対応, 2. 医療過疎地の医療支援, 3. 医学生, 研修医教育などがある. 脳神経外科診療における遠隔医療の重要性と今後の課題について概説する.
開頭術後のオーバードレナージや髄液漏出が原因でbrain sagが生じる. 今回, そのような髄液喪失ではなく, 髄液産生低下に起因した本疾患例を経験した. 胃切除術歴のある72歳男性が右STA-MCAバイパス術を受けた. 術後8日目に正中偏位の画像所見を伴った昏睡状態に陥ったために再開頭術を受けた. しかし, 頭蓋内圧亢進所見は認められず, むしろ低髄液圧によるbrain sagと診断した. レチノール結合タンパクの血中濃度低値が確認され, ビタミンA欠乏による髄液産生低下の関与が示唆された. ビタミンA補給を含む保存的加療で改善した. 開頭術後の予期せぬ意識障害や画像所見を認めた場合には本病態も考慮すべきである.
症例は65歳の男性. 突然の頭痛で発症し, 頭部CTでくも膜下出血と静脈瘤が認められ, 脳血管造影検査で蝶形骨小翼部の硬膜動静脈瘻と診断された. 血管内治療によるOnyxを用いた経動脈的塞栓術によりシャントの閉塞を得た. 蝶形骨部に生じる硬膜動静脈瘻の解剖学的特徴と経動脈的塞栓術における注意点, およびOnyxを用いた治療について文献的考察を含めて報告する.
交通外傷による椎骨動静脈瘻を伴う巨大仮性動脈瘤の治療を経験したため文献的考察を加えて報告する. 症例は75歳の男性. 自動車運転中に対向車と衝突し, 昏睡状態で当院搬送となった. 来院時の画像検査で頚椎C4/5レベルの脱臼と左椎骨動脈瘤を伴う血管の解離と閉塞を認めた. その翌日にもCTAで瘤は拡大傾向があり, 血管造影検査を施行したところ, 左椎骨動脈写でC4/5レベルでAV fistulaを伴う約3cmの巨大仮性動脈瘤を認めた. ただちに動脈瘤および母血管コイル閉塞術を施行し, 病変はいずれも消失した. 外傷性椎骨動脈損傷患者におけるCTA検査, ならびに血管内治療は有効かつ安全に施行し得た.