本邦における脳ドックの始まりは1988年であり, 脳神経外科領域では未破裂脳動脈瘤の検出に始まり, 神経内科領域では無症候性脳梗塞と大脳白質病変の病因や背景因子の探求に始まった. 現在, 日本脳ドック学会は, 「脳卒中・認知症予防のための医学会」 が学会の副称にも加えられ脳卒中と認知症予防が最大の目標と掲げている. 将来, 脳ドックは蓄積された多くのデータを活用したartificial intelligence (AI) 診断技術がさらに進歩を遂げ, 発見された脳疾患に対する自然経過や治療介入による予測される転帰などについて具体的かつ長期的なエビデンスを示す方向へと進んでいくであろう. さらに, 脳ドックはデータ集積と更新を継続し, 科学的根拠に基づいた本邦における任意型健診における無症候性脳疾患の標準的指導および介入の礎を築いていくものと考える.
急性期脳主幹動脈閉塞に対する血管内血栓回収術の有効性が多くのランダム化比較試験で示されて以降, わが国においても急速にその需要が高まっている. しかしながら, 本治療の効果は良好な再開通率 (TICI>2b) と発症からの再開通までの時間に大きく左右され, 血管内治療医の偏在や都市部あるいは地方都市における医療体制の問題など課題は多い. 特に課題となっているのはonset to doorをいかに短縮するかであり, プレホスピタルの時間短縮を目指した試みが展開されている. その中で地域それぞれにおいての現状把握を行い, 行政を含めての医療連携および情報共有システムの構築が必須であることは論をまたない.
遠隔医療とは, 双方向性の情報をもとに遠隔地の患者に対して行われる医療行為である. 日本では地方や僻地などの地域医療の充実の観点から重要とされる. 脳神経外科領域では急性期脳卒中診療の適正化が報告されている. 今後の通信技術の発展次第では, 高品質情報をリアルタイムに共有して治療手技も転送できるようになり, 地方での夜間, 休日などの医療資源が手薄になる状況下や高い専門性が要求される疾患治療でも, 都市部の豊富な医療体制を再現できるようになるかもしれない. ただし, 医療のもつ不確実性に由来する課題は残るため, 遠隔医療の導入と運用に際しては, 責任の所在などについて当事者間で調整することが重要である.
t-PA静注療法の認可を受けて, 米国ではt-PA静注療法を適正に使用できる施設を認証することの重要性が認識され, t-PA静注療法の普及・整備を目的とした, 一次脳卒中センターの要件が策定され, さらに一次脳卒中センターよりも高度な脳卒中医療を施行できる施設として, 包括的脳卒中センターの要件が発表された. J-ASPECT studyでは, 日本における包括的脳卒中センターの推奨要項に関する充足度, および依然として厳然と存在する地域格差について明らかにした. また包括的脳卒中センターの推奨要項の充足度 (CSC score) が, 脳卒中治療におけるアウトカムの改善に関係することを示した.
脳, 脊髄などの中枢神経障害による運動機能障害の回復においては, 脳, 脊髄における可塑的変化が起こっている. 脳における可塑的変化の機序の1つには皮質内抑制の脱抑制が関与し, 脊髄においては脊髄相反性抑制が関与している.
これらの神経可塑性を誘導し, 機能回復を目指す新しい治療として上肢機能障害に対するbrain machine interface, HANDS protocolが応用され, 歩行機能再建についても新たな試みとして経皮的脊髄刺激等が開発されている.
神経内視鏡手術の利点は, 最小限の手術外傷で, 最大限の視野が得られる点である. この特徴を生かし, 良性脳腫瘍に対する内視鏡下小開頭アプローチに取り組んでいる. 画質の向上, 3D外視鏡の登場により視点の選択肢が増え, 内視鏡と外視鏡の適宜切り替えが可能となった. また, 経鼻開頭同時手術のような多視点手術にも内視鏡の利点を生かせる. 低侵襲性に加え, 広い視野角や多視点による根治性が重要である. 一方, 高齢化社会において症状を緩和する腫瘍外科治療が求められる. 栄養血管の処理, 減圧術など, 内視鏡手術の利点を生かし活用できる. 根治性, 緩和治療としての低侵襲性, いずれにおいても神経内視鏡が果たすべき役割は大きい.
Carotid webは内頚動脈内に限局的な線維筋性異形成を生じ, 血管狭窄をきたすまれな疾患である. 今回頚動脈内膜剝離術 (CEA) を施行し, 経過良好であった1例を経験した. 症例は70代女性, 突然の左片麻痺, 構音障害をきたし, 右M1に閉塞を認めた. tPA静注療法, 血栓回収療法を行い, TICI2bの再開通を得た. 右内頚動脈起始部に壁不整を認め, その他の脳梗塞として治療を開始した. 第6病日に頚動脈エコーで同部位に可動性血栓を認め, CEA施行した. Carotid webおよび血栓を一塊として摘出し, 再発なく自宅退院となった. Carotid webは, 異常な構造物によって血流のうっ滞・血栓が生じ, 塞栓症を引き起こす. 薬物治療のみでは再発リスクが高く, 早期に外科的治療を考慮する必要がある.
頚動脈ステント留置術 (carotid artery stenting : CAS) が発展し, 若手脳神経外科医が頚動脈内膜剝離術 (carotid endoarterectomy : CEA) を経験する機会は減っており, 数少ない症例から多くを学ぶことが重要である. 術中写真や動画同様, イラスト手術記録は, 解剖学的知識・手技・手順の整理の一助となる. またCEAの手術記録は1枚の絵にパノラマビューを描くという手術イラストの醍醐味を味わうことができる. 本稿はCEAに特化した手術イラストの特徴や工夫, 醍醐味を紹介する.