診断学の発展に伴い髄膜腫/前庭神経鞘腫 (聴神経腫瘍) /下垂体腺腫などの無症候性脳腫瘍が発見される機会が増加している. これらは外科的治療が可能であるが, 治療による合併症は少ない頻度ながら発生する. 髄膜腫や小さな下垂体腺腫では本邦におけるガイドラインなどにおいて経過観察が推奨されているが, 無症候性脳腫瘍の自然経過がいまだ明らかにされておらず, 個々の症例においての未来経過予測が不可能である. 本稿では無症候性脳腫瘍の自然経過や増大速度についての現在までの知見を概説し, 個々の腫瘍型に特異的な臨床的課題を挙げて, 髄膜腫/前庭神経鞘腫/下垂体腺腫の自然経過と治療のタイミングについて述べる.
聴神経腫瘍に対する定位的放射線治療, その中でも歴史的に古くかつ最高精度のガンマナイフによる臨床成績に関して多くの報告がすでになされている. 10年を超える比較的長期のフォローにおいて, 腫瘍成長制御は91~97%, 聴力温存は49~55%, そして顔面神経温存は93~100%と報告され現状でのコンセンサスとほぼなっており, 外科手術のそれと比較しても決して劣らない数字となっている. しかし, 現存線量設定に至ってまだ25年程度の歴史であるため, 40歳代以下の若い患者に対する治療コンセンサスは十分に得られておらず, まだ治療医ごとの個別の裁量に任されているのが現状である. 最近ではMRI画像の革新的進歩と, そのうえでの微小解剖学に根差した治療計画も実践されるようになり, 顔面神経は当然, 蝸牛神経の走行までを考慮して過照射せぬよう意識して照射治療が行えるようになった. このような技術革新を背景に, 現状における聴神経腫瘍に対する治療指針を定位照射治療医の側面から以下のように提案している. 大型腫瘍 (Koos stage 4) においては基本外科的摘出. 一方で, 小中型腫瘍 (Koos stage 1~3) においては, たとえ内耳道内腫瘍であっても経過観察は基本否定的であり, 有効聴力かつ若い患者 (40歳代以下) であれば外科的摘出を, 手術拒否もしくはそれ以上の年代の有効聴力患者 (50歳以上) に対しては定位的放射線治療を勧めるべきである. さらに神経線維腫症2型において, 聴力温存必至であるため定位的放射線治療による早期介入を積極的に行うべきと考えている.
髄膜腫は頭蓋内腫瘍の中でも頻度が高く, 脳神経外科医にとって遭遇する機会が多い腫瘍である. 初期治療として手術切除が選択されることに異論はないと思われるが, 残存, 再発腫瘍についてどのように治療を行うかは意見の一致をみていない. 最近の論文でも手術切除度が腫瘍無再発期間や生存率に関連していることは明らかであるが, 一方過度な切除は患者に重篤な合併症をきたし, かえって生存期間を短縮させるなどの問題もある. 放射線照射はWHO gradeⅠ髄膜腫に対して腫瘍無再発期間を有意に延長させる効果があることが多くの論文で示されている. しかし生存期間を延長させることは示されていない. WHO gradeⅡ, Ⅲ髄膜腫ではさらに放射線の効果そのものに否定的な論文もある. 本論文では最近の論文および自験例をもとに残存, 再発腫瘍をどのように治療すべきかについて考察した.
機能性腺腫の治療法としては手術, 薬物, 放射線治療があるが, 手術方法としては, 経蝶形骨洞的下垂体腺腫摘出術 (TSS) が一般に行われる. 最近では神経内視鏡を用いたTSSが多くの施設で採用されている.
1) GH産生腺腫 (巨人症・先端巨大症) 治療の第一選択はTSSである. 術後の治癒基準は厳格であり, 臨床的活動性を示す徴候がまったくなく, ブドウ糖75g経口投与後の血中GH底値が0.4ng/ml未満, かつIGF-1値が年齢・性別基準範囲内であることが求められる. これを満たさないコントロール不十分, 不良例に対しては, 薬物療法やガンマナイフを中心とした定位的放射線治療が行われる. 薬物療法ではドパミン作動薬, ソマトスタチン誘導体, GH受容体拮抗薬が用いられる.
2) PRL産生腺腫 ドパミン作動薬の中でもカベルゴリンを用いた薬物療法が第一選択であり, 大半の症例でPRL値の正常化と腫瘍体積の減少がもたらされるが, 髄液鼻漏 (髄膜炎) をきたす可能性があることに注意する. カベルゴリンを高用量使用することにより, ブロモクリプチン抵抗症例でも良好な成績が得られるという報告もある. ドパミン作動薬服用中に妊娠が判明した場合にはただちに中止するが, macroadenomaでは増大傾向があるため, 定期的な視機能評価などの注意深い観察が必要である.
3) ACTH産生腺腫 (Cushing病) 治療に関してはTSSが第一選択であるが, 小さな腺腫では局在診断が困難なため海綿静脈洞からの血液サンプリングが有用とされている. 薬物療法に関しては, あまり有効なものがない. 治療困難例では, ガンマナイフを中心とした定位的放射線治療が有用である.
近年の経鼻内視鏡手術 (EES) の発展により, 頭蓋咽頭腫に対するEESの適応が拡大している. また, 初発例のみならず再発例の頭蓋咽頭腫に対するEESの良好な摘出率と低い合併症率が報告されている. さらに, メタアナリシスや症例をマッチさせた後方視的解析による, 経頭蓋手術 (TCS) とEESの比較でもEESのほうが良好な成績であったが, これらの報告では選択バイアスが完全には排除できておらず, またEESの限界があることも理解すべきである. 今後本疾患の治療を行う脳神経外科医にはEESとTCSの適切な症例選択ができることが求められる.
内部に永久磁石をもつproGAV2.0シャントシステム圧可変式バルブのMR画像は当院のGEスキャナにおける通常のルーチン撮像法では, 1.5 Tより3.0 T MRで撮像したほうがアーチファクトが小さい. 主要因は3.0 T MRスキャナの広い受信バンド幅だが, これ以外に強磁性体の永久磁石は常磁性体のチタンクリップと異なる機序でアーチファクトを呈する可能性がある. この事実からアーチファクト軽減の目的で3.0 T MRを避けて1.5 T MRを使用する必要はなく, また同じMRであっても受信バンド幅をより広く設定できればアーチファクトを減らせる可能性が示唆された. この事実がシャント装置とMRIのメーカーを超えた普遍性があるか, 今後の研究が必要である.
前頭蓋窩と鼻腔に進展するダンベル型のglomangiopericytomaの1例を経験した. 栄養血管塞栓後, 経鼻的および両側前頭開頭で一期的に腫瘍を摘出した. HE染色で血管外皮腫様の所見があり, 免疫組織学的検査でα-SMAが陽性, S-100 protein, NSE, STAT6, CD34, EMAが陰性であったことから確定診断に至った. 再発予防目的に定位放射線治療を追加した. 前頭蓋窩と鼻腔に進展する腫瘍の鑑別として孤立性線維性腫瘍/血管外皮腫, 嗅神経芽細胞腫, 髄膜腫, 扁平上皮癌などが挙がるがglomangiopericytomaも可能性の1つとして考慮すべきである.