未破裂脳動脈瘤における自然歴, リスクスコア, 治療成績, 高齢者未破裂脳動脈瘤に関する最新の知見を紹介する. 本邦の自然歴の理解はUCAS Japanが基本となる. UCAS Japanのデータから構築された3年間の破裂リスク予測スコアは信頼性が高く有用である. 本邦の未破裂脳動脈瘤の治療成績はクリッピング術, コイル塞栓術ともに良好である. 本邦での高齢者未破裂脳動脈瘤は年間破裂率1.6%で年齢, サイズ, 部位が破裂に関与する. 当科の治療成績はクリッピング術とコイル塞栓術でほぼ同等であったが, 海外からの報告ではコイル塞栓術がより良好とするものが多い. 本邦独自の治療リスクスコアの確立や高齢者未破裂脳動脈瘤に対するガイドライン策定が望ましい.
近年の脳血管内治療の飛躍的な発展により, 脳動脈瘤治療は現在パラダイムシフトの最中にある. 治療法の選択やその成績は, 日本と欧米の間で, また国内の各施設間でもバラツキがあり, 統一した選択基準による治療戦略の重要性が指摘されている. 今回われわれは, 過去6年間に一貫した戦略で治療した1,977例の自験例を解析した. 経年的な直達術の減少は認められなかったが, 直達術治療群で高難度病変が占める割合が増加傾向にあった. 将来的には直達術は今後血管内治療が困難な症例, また血管内治療後再発症例に対するsalvage treatmentとしての役割を担っていく可能性が示唆され, 1人当たりの症例数が減少していく中, より高い技術レベルが要求される次世代の脳血管外科医の計画的な育成が急務と思われた.
脳動脈瘤に対する介入治療には直達術と血管内治療があり, 動脈瘤および患者背景に関連する因子のみならず術者および施設としての経験・技量も加味した治療法が選択されるようになっている. 近年は手術支援技術やデバイスの進歩も著しく, まさにマルチモダリティ時代に突入している. そこで血管内治療を第一選択とする術者の立場から, エビデンス, コイル瘤内塞栓術, フローダイバーター治療について若干の文献と自験例を加えて報告した. マルチモダリティ時代の脳神経外科医は, 自らがもつ経験と技量を最大限に活かしつつもそれに固執することなく, 多様化した治療法の特性を理解して適切な治療戦略を選択することが大切である.
未破裂脳動静脈奇形 (arteriovenous malformation : AVM) に対する治療は, 2014年のARUBA trialとScottish Auditの発表以来, 新たな転機を迎えている. また, 2017年にはAHA/ASAのscientific statementが発表された. 現時点での脳動静脈奇形に対する考え方を, 最近の報告をもとに解説する. また, 著者が在籍した施設でのAVMに対する治療について報告し, 現時点で可能な安全なAVM摘出術について症例をもとに紹介する.
出血型もやもや病の自然予後は不良であり, 再出血予防は最大の臨床的課題である. 出血型もやもや病に対する無作為比較試験であるJAM Trialは, 直接バイパスが再出血予防に有効であることを証明した. そのサブグループ解析により示された, 後方出血群の高い再出血率は, 本症特有の脆弱側副路である脳室周囲吻合により説明される. 解剖学的に最も後方に位置する脈絡叢型吻合 (choroidal anastomosis) は, 再出血の強力な予測因子であり, 特に注意すべき脆弱血管である. 一方, 非出血例において脈絡叢型吻合の発達が, 将来の新規出血の要因かどうか, 介入が必要か否かについては不明であり, 次の10年で明らかにすべき疑問と思われる.
61歳男性が脳ドックにて右内頚動脈閉塞と未破裂前交通動脈瘤が偶然発見され, 精査, 加療目的で当院受診された. 頭部CTで頚動脈管は低形成であった. 脳血管撮影にて, 右内頚動脈の閉塞と左C2, A1から右MCAにつながる側副血行を認め, 径5mmのblebを伴う前交通動脈瘤がみられた. 内頚動脈無形成に未破裂前交通動脈瘤を合併した症例と考えた. 未破裂動脈瘤に対してコイル塞栓術を施行した. 術中, 術後は問題なく, 経過良好であった. 今回, 内頚動脈欠損症にまれなanastomosisを伴った症例に前交通動脈瘤を合併した1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
下位頚椎に生じた高流量のvertebro-vertebral arteriovenous fistula (VVAVF) の1例を報告する.
3歳女児. 出生時からの頚部血管雑音が持続し, MRIにてC7, Th1レベルの脊柱管内の異常信号が認められた. 血管撮影で左椎骨動脈から分岐する分節動脈から椎間静脈への動静脈瘻を認め, 離脱型コイルによる経動脈的塞栓術で根治を得た. 特発性のVVAVFは発生学的には傍脊索動静脈瘻 (parachordal AVF) に属し, 下位頚椎に生ずる場合低流量シャントになることが多いが, 本症例は高流量でかつsingle-hole AVFのためダブルカテーテルテクニックを用いた経動脈的塞栓が有効であった.