頭蓋内動脈狭窄は, 本邦では脳梗塞患者の18%に認め, 年間脳梗塞発症率は5~10%と報告されている. 症候性頭蓋内動脈狭窄に対する内科的治療は, 抗血小板薬の2剤併用の有用性も報告されている. Wingspan stentによる脳血管内治療と内科的治療を比較したランダム化試験では, 30日以内の脳卒中・死亡がステント群では14.7%, 内科群では5.8%と有意な差があり脳血管内治療の有用性は否定された.
本邦では2014年にWingspan stentが認可され, その適応は①血管形成術時に生じた血管解離, 急性閉塞に対する緊急処置, ②他に有効な治療がない血管形成術後の再治療, とされた. Wingspanを用いた脳血管内治療は, 適応選択に慎重を期すべきであり, バルーン拡張のみで終わる低侵襲な手技が有効な場合もある.
脳梗塞急性期の血栓回収療法において, ステントリトリーバーをはじめとした機器の進歩による再開通率の改善に伴い, 再開通時間の短縮が, 患者の予後を左右する大きな要因になっている. 特に, 病院到着から穿刺までのdoor to puncture timeは, 医師を中心とした院内メディカルスタッフとのチーム連携が良好でないと短縮することはできない. 院内体制強化において, 重要なのは①医師のリーダーシップ, ②日常からの部署間連携強化, ③経験症例のフィードバックであり, 医師は, 日常からメディカルスタッフを教育しながら連携を強化し, 緊急時の再開通時間短縮に向けて, チーム力の向上に努めることが大切である.
頚動脈ステント留置術は, 全身性動脈疾患であるアテローム性動脈硬化症に対し, 頚部局所のアテロームを制御する治療で, 低侵襲であるために, 周術期の心筋梗塞をはじめとする全身性合併症を低く抑えることが可能である. しかし, 治療本来の目的は脳梗塞予防であるため, 現行の治療は, 周術期の脳虚血イベントを十分に制御できているとはいえない. 本稿では, これまでの頚動脈ステント留置術と頚動脈内膜剝離術のランダム化比較試験および, そのサブ解析の結果を概説し, 本治療法の現状と課題を周術期脳虚血合併症に焦点をあて整理し, 次世代への治療の進歩を探る.
CEAは, 症候性および無症候性頚動脈狭窄症に対する外科治療のgold standardである. Vulnerable plaqueやプラーク量の多い症例などについては, プラークを摘出するという治療の特性から, CASと比較しCEAにおいてより安全に治療可能であり, 脳神経外科医にとって必須の手技である. 本稿では, CEAに関する基本的な手術手技と, そのヴァリエーションについて慨説した.
CEAを行う際には, bloodless fieldで, 内頚動脈はプラーク遠位まで十分に剝離・術野の展開を行い, プラーク断端の処理を確実に行うことで, よりよいquality controlを目指すべきである.
CEAのヴァリエーションとして, 急性期CEA, 放射線治療後狭窄に対するCEAおよびハイブリッド治療について詳述した. いずれの例においても, 周術期合併症を回避するべく, 細心の注意を払って手技を行うべきである.
Melanocytomaと術前診断した後頭蓋窩類上皮腫の1例を報告する. 症例は, 左小脳橋角部から延髄腹側にextra axialの病変を有し, 画像では単純CTで高吸収域, 単純MRIでT1 WI高信号, T2 WI低信号, DWI低信号でありmelanocytomaと術前診断した. 術中所見と病理学的診断から類上皮腫と確定した. 類上皮腫の典型的画像所見は, CT低吸収, MRIでT1WI低信号, T2WI高信号, DWI高信号である. 近年, 非典型的画像所見を呈する類上皮腫の症例報告が散見され, 腫瘍内部のタンパク濃度や血腫の存在がその要因として考察されている. 本例においては病理所見から, 腫瘍内部のタンパク濃度が主な要因と推測した. 典型的画像所見を呈さない場合もありextra axialの病変においては, 類上皮腫を常に鑑別診断に挙げることが重要と考えられた.
脊髄に神経鞘腫と髄膜腫が同時多発的に存在することがあるが, そのほとんどは神経線維腫症2型 (neurofibromatosis-2 : NF-2) に伴うものである. 今回われわれはNF-2の診断基準を満たさず, 脊髄同レベルに神経鞘腫と髄膜腫が同時に存在するきわめてまれな症例を経験した. 神経鞘腫に髄膜腫が併存する場合は手術戦略が変わってくるため術前画像所見に注意する必要があるが, 過去の報告と異なり本症例では術前画像で2つの異なる腫瘍の存在を診断することがきわめて困難であった. このように硬膜内外にわたる脊髄腫瘍の治療の際には, きわめてまれではあるが神経鞘腫と髄膜腫が同時に存在している可能性も考慮して手術に臨む必要があると考えられた.