難治性てんかんに対する外科手術は有用な治療手段である. 非侵襲的検査において焦点の局在同定が困難な場合, 頭蓋内電極を用いた精査が行われる. 従来は硬膜下電極を用いることが一般的であったが, 近年では定位的手法で挿入した頭蓋内電極で焦点診断を行うことが諸外国で増加している. てんかん焦点が局在している場合, より低侵襲な手術が望ましい. 一方で, 広範囲のてんかんネットワークが発作に関与している場合, 脳梁や脳葉の離断を概念とした手術を考慮する必要がある. 本邦未導入であるが, 近年では局所の凝固術や, 視床前核への深部脳刺激, 反応性発作起始領域刺激などの新規治療も行われるようになってきている.
脳深部刺激療法はパーキンソン病に対する確立した治療手段の1つであるが, さらなる治療成績向上には刺激装置の改善に加え臨床家の努力が必要である. 近年, 電気刺激に指向性をもたせることのできる電極や, 脳の活動状態に合わせて刺激条件を変化させられるシステムが登場している. 一方で, 集束超音波療法などの新たな治療手段が登場しているほか, 再生医療の発展も期待されている. 脳深部刺激療法は調節性や可逆性という長所を有するが, 合併症によって十分な効果が得られない症例も存在する. 脳深部刺激療法が今後もパーキンソン病に対する外科的治療法としての立ち位置を維持するには, 術者専門教育による治療成績の標準化が不可欠である.
脳凝固手術は, 神経核や神経線維を凝固することで治療効果を得る手術方法である. 凝固方法は, 高周波または集束超音波を用いた熱凝固, ガンマナイフを用いた放射線壊死による凝固の方法がある. 体内に器械を埋め込まない点, 不可逆的な変化をもたらす点において, 脳深部刺激術とはまったく性質の異なる治療法である. 振戦症状, ジストニア症状に対して長期的な効果をもたらすことができる. 高周波熱凝固は穿頭を要するスタンダードな手術である. ガンマナイフは穿頭, 剃毛を要さないが, 効果の発現までに6カ月程度を要する. 集束超音波は, 穿頭を要さないが全剃毛が必須である. リアルタイムに位置と温度をモニターしながら熱凝固を行う. 不可逆的な合併症を呈するリスクがある凝固療法を安全に行うには, 豊富な知識・経験と確かな技術が必要である.
超音波を用いた治療を脳に応用するには多くの問題があった. それらを克服した, MRガイド下集束超音波治療 (MRgFUS) は, 個別に作動する1,024個のフェーズドアレイトランスデューサを用いより低侵襲に超音波を脳の深部に集束させることで凝固巣を作成する装置である. MRI上でリアルタイムに凝固部位とその温度上昇を観察することができる. 本態性振戦に対する治療法として, 多施設での臨床研究でその有効性が認められ, 保険適用となり, 最近ではパーキンソン病にその適用は広がっている. 今後, その他の疾患でもエビデンスが蓄積され, MRgFUSの適用がますます拡大することが見込まれている.
メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患 (MTX-LPD) は, 低用量メトトレキサート (MTX) 療法中に発生する医原性疾患である. 関節リウマチのためMTXを内服していた2症例で, MRIで大脳に多発性のリング状造影病変を認めた. 開頭生検術を施行し, 病理組織学的検査でEpstein-Barr virus陽性のびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫を示した. 低用量MTX療法に基づきMTX-LPDと診断し, MTX中止後, 病変は退縮した. MTX-LPDは節外病変主体だが, 中枢神経発生はまれである. MTX-LPDはMTX中止のみで改善することがあり, 本疾患を認識し, 早期に生検術を行い診断に至ることが重要である.
頭蓋骨幹端異形成症は頭蓋骨の骨化過剰と長管骨の骨幹端の拡大を特徴とする遺伝性骨硬化性疾患で, その中でもキアリ奇形Ⅰ型を合併した例はまれである. 今回頭蓋骨幹端異形成症にキアリ奇形Ⅰ型を合併した1例を経験したので報告する. 症例は15歳男児で, 脊椎側弯症のフォロー中にMRIで小脳扁桃の下垂と脊髄空洞症を指摘され, 当科へ紹介された. 四肢の温痛覚障害および腹壁反射の消失を認めたが, 明らかな運動麻痺は認めなかった. 後頭下開頭およびC1椎弓切除による大後頭孔減圧術を施行し, 術後硬膜外血腫をきたしたため術後3日目に再手術を施行した. 術後は脊髄空洞症の改善を認めている.