近年深層学習を中核とした機械学習技術の発展や, ビッグデータと呼ばれる大量のデータが利活用可能になってきたことなどを要因に, 人工知能 (AI) 技術が大きく注目されている. すでに社会のさまざまな分野でAIは利活用されているが, 医療分野も例外ではなく, 米国FDAは100種類を超えるAI技術を用いた医療機器プログラムを承認しており, 日本においても複数の医療機器プログラムが承認され, 実臨床ですでに使用されている. 本総説では, 特に本邦における医療AI研究開発の現状について紹介するとともに, 医療AIの課題に関しても論じ, 最後に筆者が考えている今後の医療AI研究開発が進むべき方向性を紹介する.
ロボット手術は低侵襲手術をより安全・確実に実施することを可能にする技術である. 現在脳神経外科領域においては, 定位手術において精度と能率を向上させるための補助に主に用いられている. 一方で人の手による手術を超える技術は開発途上である. 欧米および日本では, マイクロサージェリーに適したロボットとして, 内視鏡下のロボット, MRI内でマイクロ下手術を可能とするシステム, さらに深部手術, スーパーマイクロサージェリーを可能にするシステムなどが開発中である. ロボット手術が広く普及するための必須条件として, 安全性・確実性の他にロボット手術が従来の手術に比較して十分な付加価値のあることが重要である. またロボット手術は, 外科手術のデジタル化につながり, さまざまな外科要素を数値化し客観的な評価および訓練の導入を可能にする. さらに人工知能を導入することにより, 周囲組織・機器を同定し, 精度の高い操作を補助する, また自動で画像やセンサーガイド下の計画・指示どおりの手術治療を可能にするシステムの確立が可能となると考えられる.
グローカルとはグローバルとローカルの混成語である. 本稿では脳血管内治療と脳卒中診療を, 世界, 日本, 茨城県を対比しながら考察する. 脳血管内治療は欧米で神経放射線科医により開発され, 新規デバイスの開発により適応を拡大し安全性を高め, 脳卒中の外科治療の主役となった. 日本では脳神経外科医が主に担当し, 以前あったデバイスラグは改善したが, 担当する医師数や施設数が多いので医師1人あたりの経験数が少ない. しかし厳格な専門医制度が確立され, 治療技術は担保されている. 筑波大学がある茨城県は医師不足が深刻で, 脳卒中死亡率も高い. Information communication technology (ICT) を使った脳卒中センターの連携や小学生に対する啓発活動などで解決を試みている.
くも膜下出血の転帰を改善させるための必要条件は, 全身状態を安定させ, 可及的早期に破裂脳動脈瘤に対する手術を実施することである. また, 新たな脳損傷を含む手術合併症を極力回避できる手術法を選択すべきである. そのうえで, 頭蓋内圧などの頭蓋内環境を安定させるとともに続発性脳損傷を防ぐための手間を惜しまない術後管理が必要である. しかし, くも膜下出血の転帰のさらなる改善のためには, 手術成績の改善のみでは不十分で, 早期脳損傷や遅発性脳虚血に対する新たな治療法の開発が必要である. 現在, 続発性脳損傷の抑制を目的とした複数の第3相試験が行われており, その結果が待たれる.
遺残三叉神経動脈 (PTA) やその変種 (PTA variants) が三叉神経痛 (TN) の責任血管となるのはまれである. さらに, PTA本幹から小脳の皮質動脈が分岐するパターンであるPTA intermediate typeがTNの原因となった報告は過去に2例のみである. われわれはPTA本幹から分岐したanomalous arteryが三叉神経を圧迫することで生じたTNの1例を経験した.
症例は68歳女性. 右三叉神経第2枝領域の痛みで発症したTN. MRI/MRA 3D fusion imageとCISS画像でPTAから分岐したanomalous arteryが小脳橋角部で三叉神経を圧迫する所見を認めた. 微小血管減圧術を施行し, 痛みは改善した.
3T MRI/MRA 3D fusion imageとCISS画像は, PTAと三叉神経の解剖学的位置関係を把握し神経圧迫部位を特定するのに有用であった.
小児・若年成人の大脳半球に発生する高悪性度腫瘍にはH3F3A G34R/V変異を有する症例が一定数含まれる. この腫瘍は新たなWHO分類で, “diffuse hemispheric glioma, H3 G34-mutant” として独立した疾患となるが, その臨床像は十分明らかにされていない. 今回われわれはPNET様膠芽腫の組織学的特徴を有し, 追加のシークエンシングによりdiffuse hemispheric glioma, H3 G34-mutantの確定診断に至った1例を経験したので報告する.