Limited dorsal myeloschisis (LDM) は, 2010年にPangらが提唱した一次神経管形成時の障害で, 神経・皮膚外胚葉の限局的な不分離が起こり, 両者の連続性がfibroneural stalkとして残存し, 脊髄係留をきたすものである. この部位に一致した背側正中部に, 扁平上皮の陥凹性 (cigarette-burning), もしくは囊胞性の皮膚病変を有し, それぞれflat, saccular LDMと呼ばれる. Flat LDMは従来のmeningocele manquéに, saccular LDMはsegmental myelocystoceleに相当すると考えられている. 近年, human tail様の皮膚突起物であるtail-like LDMも報告されている. 皮膚病変から脊髄背側に連続するstalkを, 3D-heavily T2強調画像を中心としたMRIで診断する. 治療は早期の係留解除が勧められるが, このstalk内に先天性皮膚洞が10~20%に合併し, これを硬膜内に残存させると将来dermoidが発生することが知られている. Fibroneural stalkの病理診断には, GFAP陽性神経グリア組織の存在が重視されてきたが, この陽性率は50~60%程度と低く, われわれは末梢神経やメラノサイトなどの神経堤由来の組織の証明が診断に有用であると考えている. これらLDMの病態と外科治療について考察する.
小児水頭症の治療目標は, 正常な成長・発達を目指すことであり, 将来を見据えて手術適応や手術方法を選択しなければならない. 2014年に小児水頭症ガイドラインが発表され, 2020年に見直しが行われた. 抗生剤含浸カテーテルのエビデンスレベルが3から1になったこと, 出血後水頭症に対する治療として内視鏡下脳室内洗浄がレベル3のオプションとして加わったことが改訂点である. 本稿では患児にとって最適な治療方法を選択し, 合併症のない安全な手術が行えるように, ガイドラインを中心とした最新のエビデンスと著者の経験から最良の手術とデバイスについて考察する.
小児とAYA世代の脳腫瘍は手術療法, 放射線治療, 多剤併用抗がん剤を中心とした薬物療法の進歩, ゲノム解析とその情報を基にした分子標的療法の進歩により治療成績が改善し, 脳腫瘍サバイバーが増加した. そして, 脳腫瘍サバイバーの長期フォローアップのデータが蓄積され, 認知機能障害・内分泌機能低下・アピアランスの変化・妊孕性喪失・脳血管障害・二次がんを含めたさまざまな課題・晩期障害が報告された. 後遺障害・晩期障害の低減のために, 脳神経外科医は低侵襲手術を含めた適切な手術アプローチを選択し, 必要な術中の脳機能モニタリングを行い, 最新の疾患知識・診断法・ゲノム医療・陽子線を含めた放射線治療・化学療法・分子標的療法の知識を常にアップデートして, 脳腫瘍患者にとって最適な治療を提供しなければならない. 脳腫瘍サバイバーの晩期障害は多岐にわたるため, チーム医療による長期フォローアップ体制の確立は必須である. 脳腫瘍サバイバーの現状を知ることで, 小児とAYA世代の治療開発に重要な視点をもつことが可能となる.
外傷性脳損傷は, 小児年齢における罹患や死亡の重要な原因の1つである. 適切な治療が施された後も, 高次脳機能障害による学業成績の支障, 健康関連QOLの障害, 精神衛生上の問題を抱えやすく, 子どもの人生において外傷性脳損傷がもたらす影響は長く, 甚大である. 一方, 小児の外傷性脳損傷に特有の病態生理学的特徴については未解明の部分も多く, エビデンスレベルの高い臨床研究や中枢神経の成長や発達を考慮した基礎研究も少ない. 成人データを直線的に流用することなく小児特有の知見を明らかにするには, 今後国際的な取り組みが必要となるであろう. 小児頭部外傷における現状と課題のうち, 急性期治療の最新知見として, 米国小児重症頭部外傷治療・管理のガイドライン改訂第3版の重要ポイントを紹介する. また最新の課題として, 世界的規模で深刻な社会問題となっている 「虐待による頭部外傷 (abusive head trauma : AHT) 」 の診断に関する問題点と, AHTに対する治療の可能性について解説する.
海綿状血管腫は良性の血管腫の一種であり, その多くはテント上の脳実質内より発生する. われわれは視神経交叉部に生じた海綿状血管腫を経験したため, 文献的考察を踏まえて報告する.
症例は52歳男性. 両耳側半盲ならびに頭痛を自覚. MRIにて視神経交叉部前方に病変を指摘. 右前頭側頭開頭にて摘出手術を施行. 暗赤色を呈し, 切開にて血腫が流出した. 術後MRIにて全摘出を確認し, 両耳側半盲は改善.
現在に至るまでの報告から, 視神経発生の海綿状血管腫は可及的摘出が診断・治療の面から重要であると考える.
外視鏡による手術技術革新が進んでいる. そこで熟練した脳神経外科医であっても光学顕微鏡手術と外視鏡手術の差を学ぶことが必要となっている. 中大脳動脈瘤のクリッピングを外視鏡で行ったが, 臨床使用前にモデル動脈瘤を用いて外視鏡手術のシミュレーションを行った. シミュレーションにより患者およびモニターの位置決め, 光量, カメラの動きなどの特性が掴めた. シミュレーションは新技術の導入に有用であった.
Inferior fronto-occipital fasciculus (IFOF) は後頭皮質と前頭葉を結ぶ白質連合線維束として知られており, その機能は意味処理や統語処理に関連していると推測されている. 言語優位半球の島回神経膠腫の切除において, IFOFの損傷は換語障害や意味性錯語の出現を引き起こす. 島回神経膠腫に対する覚醒下手術を施行し, 術中覚醒下において白質刺激により意味性錯語が認められ, IFOFを機能的に同定し得た症例を報告する.